魔王軍に入りたい

りとさんの魔王軍に立候補です!

 

とてつもなく強力な加護の能力を持つ、精霊の兄弟です!

 

 

兄のフィレッヒは炎を信仰している。

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強力な火炎を操り全てを焼き尽くすことができる。

 

 

弟のワテルーミは水を信仰している。

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激しい水流で何もかもを押し流してしまうことができる。

 

 

強大な加護の力を持って生まれたためか、お互いがお互いを常にライバル視、いや、敵視し合っている。

口を開けば喧嘩ばかりの二人。

仲が良いとは決して言えない。

 

でも、どこに行くにも必ず一緒。

寝るのも同じベッドで寝ている。

文句を言い合いながら、いつも一緒。

 

なにせ、こうだから。

 

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せっかくの加護の能力も、お互い張り合って同時に発動しちゃうもんだからいつも対消滅

その辺りの湿度が増してお肌が潤うくらいの効果しか無い。

体は共有してるので口喧嘩しかできないし。

 

こんなフィレッヒ&ワテルーミブラザーズ、どうか魔王軍に入れて頂けませんかね?

【05】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【00】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【01】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【02】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【03】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【04】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

 

 

「あの・・・お花は要りませんか?」

 

「あ、あのっ・・・これ、お花です・・・」

 

人通りもまばらな路地で、一人の少女が花を盛ったカゴを手に花売りをしている。

しかしその眼前を通り過ぎる人々は、まるでその少女が存在していないかのように一瞥もくれず、足を止めることはもちろん無い。

それでも懸命に、一輪でも売ろうと健気に声をかけ続ける少女。

まだまだ発展の途上にあるこの国キスビットにおいて、貧富の差は依然として大きかった。

政府も、各都市の自治体も、それぞれが貧困層の救済策を講じてはいるものの、国自体がそれほど強くないため、根本的な解決は難しいのだ。

アスラーンが大半を占める都市、ここラッシュ ア キキにおいてもそれは同様で、この少女のような人々はいくらでも居た。

 

徐々に日がかげり、往来も途切れた夕刻。

今日の夕食をどうしようかと、少女が顔を曇らせたそのとき。

 

「お嬢さん、花売りかね?」

 

少女に声をかける人物があった。

いかにも裕福そうな、恰幅の良い紳士だった。

 

「は、はいっ! 1輪5セオンです!」

 

少女が兄弟たちと分け合って食べるパンが1つ150セオン程度。

しかしこの花はその辺の野原で摘んできたもの。

この5セオンが高いのか安いのか妥当なのか、それは買う側の判断にゆだねられる。

 

「いや、私はそんなゴミなどに興味は無いんだがね」

 

「え・・・ゴ、ゴミ・・・?」

 

思わぬ返答に我が耳を疑った少女。

目の前の紳士は微笑を保ったまま、信じられないような言葉を吐き出した。

 

「私が買いたいのは、なんだがねぇ」

 

「えっ? 私の・・・花・・・?」

 

「1万セオンでどうだろう」

 

「そ、そんなに!? あぁ・・・でも私、そんな大金を頂けるようなお花は持っていませんけど・・・」

 

少女は自分が何を求められているのか理解できない。

しかし蠱惑的とも言える大金にすぐ飛びつかないのは、根が正直者なのだろう。

 

「物分かりの悪い娘だな。良いからちょっとこっちへ来い」

 

男は少女の手を荒々しく引くと、すぐ横の路地裏へと連れ込んだ。

カゴから花が舞い散る。

 

「痛っ は、放してくださいっ」

 

「そんな薄布1枚でこんな路地につっ立ってるんだ、お前だってその気なんだろう!?」

 

「なんのことですか!? やめて! いや!」

 

「金は払うと言ってるんだ! おとなしくしろ!」

 

ここまで来てようやく自分が望まれているもの、相手が欲しているものを理解した少女。

自分と同じような境遇で、を売って口に糊する友人も、居る。

彼女達のことを非難はしないし、生きていく手段の一つとして有効なのも理解できる。

むしろそれを決意することができたのはすごいとさえ思う。

自分には、どうしてもできないことだから。

 

「いやぁ! だっ、誰かぁぁ・・・」

 

「こんな時間にこんな場所で誰が助しゃッ!!

 

何かが壊滅的に踏み潰されたような音と共に、男の荒々しい気配が消えた。

少女がきゅっと固く閉じていた目を恐る恐る開けると、そこには先程の男の代わりに別の男が立っていた。

恰幅の良い紳士を踏み台にして。

 

「やあお嬢さん。俺、これから素敵なレディに会いに行くんだ。手ぶらってわけにもいかないから、お花を売ってくれるかい?」

 

すらりとした細身で長身のその男は、尖った耳から察するに精霊だということが分かる。

にんまりと口元を歪めて笑う表情はどこか軽薄そうで、しかしなぜか安心感を覚えるものだった。

 

「えっと・・・お花は・・・」

 

少女は乱れた服を直しながら、地面に転がったカゴと散らばってしまった花に視線を落とした。

まさかこれを目の前で拾って、一度地面に落ちたものを売るなんてことはできない。

 

「ああ!ここに並べてあるの、選び放題ってことか!ありがとう!じゃあぜーんぶ貰うから、これで足りるかな~?」

 

男は目にも止まらない素早さで地面に落ちていた花を残らずさらい、そして少女の手にカゴを持たせた。

 

「あ、そこの偽紳士ゴミは気にしなくていいから、気を付けてお帰りよ~!」

 

そう言い残すと、男は信じられない身軽さで跳躍し、花を両手に抱えで壁を蹴りつつ建物の屋根へと消えて行った。

何が起きたのか理解できないまま、ぽかんとしている少女。

その細い足首をガシッと掴む者があった。

 

「きゃあっ!!」

 

「ぐぅっ・・・くそっ!一体何がしゃッ!!

 

「おいお嬢さん、この辺でキザで不真面目そうな精霊を見なかったか?」

 

悲鳴を上げて振り向いた少女が見たのは、サターニアの男性だった。

恰幅の良い紳士の上に立っている。

 

「え、えっと・・・あの・・・」

 

あまりの展開に困惑する少女。

しかしサターニアの男は少女が持つカゴに視線を送ると、すぐ何かを察したようだ。

 

「どうやらやっこさん、ここを通ったのは間違いないらしい。よし、行こう」

 

「うむ。博物館はあちらの方向だ」

 

いつの間にかサターニアの男の後ろには、アスラーンの男が居た。

二人は視線を交わし小さく頷くと、そのまま駆けていった。

 

「ぎゃんっ!!」

 

ご丁寧に地面の偽紳士ゴミを踏みしめながら。

その後、気を取り直して帰ろうとした少女が手にしたカゴの中に札束を見付けてものすごく驚いたのは、また別のお話。

 

 

 

「あぁ!ねぇイオン!これ!」

 

写真の部屋と、目の前にある部屋を見比べていたコマが声を上げた。

あまりに違いが大き過ぎて逆に気付きにくかったその点に、ようやく気が付いたのだ。

 

「これ、無くなってる!」

 

コマが指し示したのは、自分が今立っている床だった。

大きな絨毯が無くなっている。

 

「これは、私としたことが。まさか絨毯が消えていたとは」

 

「お金を細長く並べて絨毯で筒状にロールすれば、二人ぐらいで運べるんじゃない!?」

 

「なるほど。まぁ重量から考えると3人くらいが妥当でしょうか。前後だけで運ぶと中央部分が垂れ下がって運びにくいでしょうし。つまりチャイには協力者が2人ほど居る、と」

 

「その通りです!チャイには銃愛好家ガンフリークのジャミコと縁斬えんきりのマシュカーという2人の相棒が居るのです!何か判りましたかッ!!?」

 

大声を上げながらケサーナが部屋に入ってきた。

どうやら特に何の痕跡も認められず、この部屋に戻ってきたらしい。

 

「警部さん、まだ推測ですが恐らくチャイはこの絨毯で・・・」

 

イオンが写真を手に説明をする。

そのついでに、なんとも都合の良いことを言い出した。

 

「しかし、まさかここでアレが役に立つとは。たまたまあの絨毯に発信器を付けていたんですよ。この受信機で絨毯の現在地が分かります」

 

「は・・・発信器?」

 

「よくやったわイオン!」

 

いかに大富豪とは言え民間人が発信器、という状況を飲み込めないケサーナとは対照的に、コマは破顔してイオンを讃えた。

そしてその手から受信機をぶん取ると、嬉々として操作し始めた。

【アイラヴ】煮え湯でも何でも飲み込むところから始まる

「ウチが二人・・・それってウチのやってることが、理想からかけ離れてるってことやないですか!」

 

初華は思わず大声を上げてしまった。

美香の視界に現れる、色の薄い影のような自分。

その影と自分自身の距離が離れているほど、今の自分が理想から遠いということだ。

確かに初華自身、今の自分が理想像に遠く及ばないのは理解している。

しかし美香の説明では『理想に近付く為の道を進んでいる』状態ならば、理想の自分と本体がそこまでズレたりはしないはずである。

 

「ん~・・・そうね。もしかしたら、そうかも知れない。でも・・・」

 

美香は少しだけ間を置いた。

先程までのあっけらかんとした雰囲気はもう無い。

キリッとした年長者の表情になり、そして思いがけない言葉を初華に伝えた。

 

「あまりにも本体と理想の姿が離れてる場合はね、『自分でも理想像が分かっていない』っていう可能性もあるのよ。もっと平たく言えば、目標と言うか、目指すべきビジョンが曖昧ってことね」

 

美香自身、どちらかと言うと世の中にはこのパターンの人の方が多いと感じている。

将来どうなりたいとか、何か成し遂げたいことがあるとか、そういう明確な目標がそもそも無い人は、本体と影との距離が遠い傾向にある。

しかも単純に「お金持ちになりたい」とか「キレイになりたい」などという欲求は、目標とは区別されるようだ。

どこか使命感めいた、心の底から達成したいと思えるようなビジョンこそが、本体と影との距離を縮めるのに必要な要素なのだと、経験から感じている。

だからこそ今まで出逢ってきたほとんどの人は美香の視界では二重に見えたし、そんな中で本体と影がぴったりと一致している赤羽に惹かれもしたのだ。

 

「ウチの・・・使命・・・」

 

初華は目の前が真っ暗になるのを感じながら、すぐ側のソファに身を沈めた。

言い知れぬ不安から、思わず膝を抱えてしまう。

今の自分を突き動かす原動力、モチベーション、それはアイドルになってタオナンを見返すことだったはずだ。

 

「あのね、もしあなたが本当に成し得たい目標に向かって進んでいるのなら、現状がどれだけ意に反していたって、本体と影はこんなにズレないの。あなたは心のどこかで、いま目標にしていることが本心じゃないって思っているのかも。それに・・・」

 

途中まで言いかけて、美香は次の言葉を躊躇ためらった。

これを伝えることが、初華にとってプラスになるのかマイナスになるのか、判断が難しいのだ。

しかし。

 

「副社長さん、ウチに対して何か思てはることがあるんやったら、全部言うてください。何も気ぃ遣わんと全部。ウチ、アホやから自分で自分のコトよぉ分からんのです。だから、お願いします!大丈夫、こう見えて心臓に毛ぇ生えてますから!」

 

初華の決意表明は、美香の戸惑いを払拭して余りある言葉だった。

 

「分かったわ、初華。私が言いたかったのは『以前のあなたは、そんなにブレていなかった』ということなの」

 

美香の言葉にキョトンとする初華。

だがその反応も織り込み済みである美香は説明を続ける。

 

「ちょっと前なんだけど、あなた、街であやしい占い師に運勢を視てもらわなかった?」

 

確かにそんな記憶がある。

と言うか、ウィーカの名を捨て、本名である美作初華でアイドルを目指すきっかけになった出会いだ。

忘れるわけがない。

 

「あの占い師ね、実は私の祖母なの。あの日は帰ってくるなり『すごい運勢の娘と出逢った』って興奮してね。もうすごかったんだから」

 

その時の情景を思い出しているのだろうか、美香は苦笑混じりで続ける。

 

「そのとき、あなたの名前を祖母から聞いていたのよ。もちろん、どこの誰だか分からないお客さんのひとりとして、ね。だから御徒町さんからあなたの名前を聞いた時はびっくりしたわ。なんて運命なのかしらって」

 

そして、微笑んだ表情を真顔に戻しながら、美香は初華を真っ直ぐに見詰めた。

 

「でね、そのとき祖母はこう言ったのよ。『しかもその娘の面白いところはな、運命だけではない。この眼で視て、完全に一人だったんじゃ』って。つまり、本体と影がブレてないってことね。・・・祖母も、私と同じ眼を持っているから」

 

 

 

夕方、生活に必要な最低限の道具をアパートの部屋に運び入れた初華と御徒町

レッドウィング芸能プロダクション、通称レップロの事務所が入ったアパートに住むことになった初華は、自分の引っ越しであるにも関わらず、心ここにあらずな状態だった。

 

「ほら初華、これはどこに置けばいい?」

 

御徒町は段ボールを抱えて初華に指示を仰ぐが、しかし返事は無い。

中身を確認して何が入っているのか判れば、どこに置くのか見当も付けられそうなものだが、年頃の女の子の荷物を開けるような真似はできなかった。

 

「初華?・・・うーいーかっ!」

 

「えっ? あ、あぁ! ごめんおかちさん、ウチ・・・」

 

「別に構わないけど、どうした? 美香さんと話した後からずっとそんな感じじゃないか」

 

「うん・・・」

 

「悩みがあるなら何でも俺に話してくれよ? 力になれるかどうかは分からないけど、初華が抱えているものは、俺にも共有させて欲しいんだ」

 

「ありがと。んじゃちょっとだけ聞いてな。ウチがウィーカだった頃と、初華になってからと、何が変わったんやろか?」

 

この問い掛けが何を意味するのか、初華が何に悩んでいるのか、御徒町にはさっぱり分からなかった。

初華自身の中で何かの変化があり、それに対して悩んでいるということだろうか。

で、あるならば、御徒町には思い当たることがひとつだけ、あった。

 

「初華の中でどんな変化があったのかは、俺には分からない。でも、名前を変えた前後で何かが変わったのだとしたら、その原因はきっと、あのライヴじゃないかな」

 

レンvsひじきの対バンを、生の会場で味わった経験。

それが、自分の中で何かを変えてしまった。

初華自身も、実はそれを強く感じていた。

しかしそれを認めてしまうことは、今までの自分を否定することのように思われた。

 

「おかちさんも、やっぱりそう思うんやね」

 

だが第三者から言われてしまうとさすがに受け入れざるを得ない。

確かに自分の中で、あのライヴを体験してから何かが変わったように思えてならない。

しかし具体的に何がどう、とは言えない。

自分でもよく分からないのだ。

 

「よっし。分かった。変わってもーたもんはしゃーない!」

 

と、急に初華は自分の頬を両手でぴしゃりと打った。

 

「何がどー変わったか考えるんは、まぁ追々でええやろ!」

 

人は誰しもが変わりたいと願い、変われずにいる。

そして変わりたくないと願い、変わってしまう。

変われない部分を突かれれば『いいや、俺は変わった』と反骨し、変わった部分を指摘されれば『いいえ、私は変わってない』と否定する。

それが人の性である。

しかし、初華はまず『自分の変化』を受け入れた。

その内容までは分からずとも、変わったという事実はきちんと受け入れた。

悩み事を長期化させず『そういうもの』として丸呑みする性格が、そうさせるのか。

 

「なんだか良く分からないけど、吹っ切れたみたいだな。元気があるのは良いことだ。よし、早く片付けて赤羽さんたちと合流しよう。今夜は会食だ」

 

「やったー!ウチお肉が食べたい!おっにっくっ!おっにっくっ!」

 

 

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そう言えばスカートだった。

【04】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【00】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【01】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【02】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

【03】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

 

「おい!待てよチャイ!どこに行く気だッ!?」

 

慌てて走り出したチャイの腕をジャミコが掴む。

 

「あの女のことだ、何かの罠かも知れんぞ」

 

マシュカーが険しい目つきで苦言を呈する。

しかし。

 

「女のピンチに駆け付けられない奴を男って呼べるか? それに、罠なら罠で結構。彼女が無事ってことだろ? 良い女には何度騙されたって構やしねぇのさ」

 

「だが、フォヌアの奴がどこに居るのかなんて分からねぇだろ?」

 

至極もっともなことを言うジャミコに対し、チャイは余裕の表情を作った。

自分の腕を掴んでいる手をゆっくりと解きながら説明する。

 

「あの盗聴器で音声を拾える距離、雑音の入り具合、声の反響、ヒントはいっぱいあったぜ?」

 

そう言いながらチャイは上着の内ポケットから街の地図を取り出した。

現在地を素早く確認し、人差し指で示す。

 

「雑音と声の響き具合からすると場所は金属製の壁に覆われた地下室。盗聴器の有効距離はこの範囲だが、場所が地下ってことを考えるとこのあたりまで絞られる、だろ?」

 

得意気な、というよりは悪戯っぽいと言った方がしっくりくるような顔で言うチャイ。

 

「この辺りでそんな地下室がありそうなのは・・・ここしかない」

 

チャイが指し示す地図上には『機械工学の権威 バミ博士研究所跡地』と記載されていた。

確かこの場所はアルファ開発の資料館兼博物館として一般開放されているはずだ。

しかしそれは地上部分の話。

工学博士であれば秘密の地下室くらい造っていてもおかしくない、かもしれない。

 

「憶測の域を出ん話だが、しかしお前の勘は良く当たる。間違いないだろう」

 

やれやれと言った様子でマシュカーが口を開く。

こういうチャイの能力に関して、マシュカーは素直に尊敬してはいるのだ。

しかしそれが稼業である盗みに対してではなく、フォヌアの元へ駆け付けるためだというのが納得できない。

 

「だが、行ったところでまた騙されて振り回されるのがオチだ。それでも行くのか?」

 

半ば以上、返答の内容が予測できる質問を敢えてしているマシュカー。

ジャミコもチャイの答えを待つ。

 

「それを確かめに行くのさ。なにせ俺も『俺が騙される方』にBETしかけてんだからな」

 

無邪気なウィンクをパチリときめ、チャイは颯爽と駆け出した。

ふんっと鼻息ひとつで気分を切り替え、ジャミコとマシュカーが後を追う。

今までもそうだった。

これからもそうだろう。

チャイがこうと決めたことが、他人の意見で覆ることなど無いのだ。

 

 

 

「ねぇ警部さんっ、あなた、何で私のお金を盗ったのがチャイだと思うわけ?」

 

別宅への案内を兼ねてケサーナに同行するイオンに、無理やりついて来てしまったコマ。

いつもなら用事が済んだと見るや否やすぐ自室に引きこもってしまうところだが、今日は目の輝きが違う。

 

「これはあくまでも私見ですが、チャイは何らかの理由で多額の現金が必要になり、手当たり次第に盗んでいたのではないかと。ここ数件の手口が、奴にしては少々雑でしてな。それで、もし焦って金をかき集めていたのなら、あなたの件ももしかして・・・と推測したのです」

 

答えに行き当たるまでの論理的道筋はケサーナ自身にも不明瞭だが、しかしなぜかチャイに関する勘には絶大な自信があった。

 

「なるほど。じゃあ焦ってるチャイが何か証拠を残してるかもってことね?」

 

それだけ言うとコマは一気に別宅へと駆け出した。

普段の緩慢な動作からは全く想像できないほど俊敏な走りで、すぐにその背中は見えなくなってしまった。

 

「いつも、こうなのですか?」

 

「いえ・・・いつもはもっと・・・ああ、お恥ずかしい限りです」

 

マイペース過ぎるコマの振舞いに呆れたケサーナが問い掛ると、イオンは溜め息と悲壮感たっぷりの声で返事をした。

いつもはもっと怠惰なクズです、などと言えるはずもない。

 

二人が別宅に到着したとき、すでにコマは盗難被害に遭った金庫室の中に居た。

そしてほぼ空になっている部屋の中央で胡坐をかいて座っている。

 

「ん~・・・」

 

あごに手を当て眉間にしわを寄せ、思考の糸を編んでは解き、解いては編んでいる。

 

「ご案内感謝致します。ではお屋敷内を調べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ。お願いします。私はお嬢様とこの部屋に居ますので、何かあればお声掛けください」

 

ケサーナは盗難された現金があった部屋よりもむしろ、侵入と逃走の経路を割り出して調査する気でいる。

建造物への出入りの手口が判れば、チャイの仕業であるという確証を得られるというものだ。

 

「ねぇイオン、ここにあったお金ってどのくらいなの?」

 

唐突にコマが尋ねた。

イオンは呆れと諦めを存分に盛り込んだ表情で返す。

 

「ですから、3億セオンだとあれほど・・・」

 

「ちがうのっ!どれくらいの量かってこと!」

 

イオンの返答を途中で遮ったコマは、ずいっと顔を近付けてまくしたてる。

 

「3億セオンってどのくらいの大きさ? 重さは? 一人で運べる? ここに3億セオンあったの、チャイは知ってたと思う?」

 

「お、お嬢様っ・・・近いです!」

 

イオンはコマの肩に手を当ててグイと押し戻すと、咳払いをした。

そして調度品のひとつである木製のトレジャーケースを指し示す。

 

「先日たまたま計測していて良かった。あの箱にきっちり紙幣を詰め込むと、ちょうど5,000万セオンになります。重さで言えばだいたいお嬢様の半分ほどです。3億なら6箱分、つまりお嬢様3人分ということになります。恐らく重量級の鬼ならば持ち上げて運ぶことも可能でしょうが、普通の人間や妖怪には一度で運ぶことはできないでしょう。そして、ここに現金がどれだけ在ったのかを知っていたのは、この世界中で私だた一人です。チャイだろうが誰だろうが、事前に知ることは無かったと思いますよ」

 

問われた内容にきっちりと応えるイオンの回答に、黙って頷くコマ。

 

「つまり、チャイはここにどれくらいの現金が在るか分からずに侵入した。そして、結果的に3億セオンを盗み出した・・・。ねぇイオン、お金の他にこの部屋から無くなってる物、無い?」

 

「はて、私も点在する全ての別宅の全物品までは把握しきれておりませんが、しかし先月たまたまこの部屋を撮影した写真があります。撮っておいて良かった。この写真と現状を見比べてみましょう」

 

「それからイオン、なんで私の体重を知ってるの?」

 

「主の健康を管理するため、身体情報を収集するのは執事の務めですから」

 

「ふーん。キモッ」

 

手ひどい言葉の弾丸に被弾した胸を押さえて崩れ落ちるイオン。

それを無視して写真を受け取りながら、コマは現状との間違い探しを始めた。

良い夫婦の日

「痛ッ・・・」

 

「どっ、どうした!?」

 

「いえ、大丈夫です。すみません」

 

「おいおい、変な気遣いはよしてくれ。私は君の夫だぞ?」

 

「・・・そ、そうですね・・・えっと、履き慣れない靴で足が痛くって」

 

「なんだ。そんなことか」

 

「つまらないことで止めてしまってごめんなさい」

 

「いや、つまらないことなんかじゃないさ。よし、私が抱えて行こう」

 

「えっ、ちょっと・・・それは・・・」

 

「何だ、嫌なのか?」

 

「そ・・・そういう意味ではなくて、その・・・」

 

「ほら、早くしないと扉の向こうで皆が待っているんだから」

 

「わ、私やっぱり歩きます!」

 

「無理は良くない。私に任せなさい」

 

バタンッ!

 

「エウス村長!遅いでs・・・あーッ!!!もうイチャイチャしてるー!!」

 

「おい!ち、違っ!」

 

「村長!とても良くお似合いですッ!」

 

「マーウィンさんキレイ!」

 

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「変な状況を見られてしまったな・・・」

 

「えぇ・・・。ごめんなさい・・・」

 

「君が謝ることは無いさ。よし、気を取り直してっと」

 

ヒョイッ。

 

「うわっ、あの・・・私・・・お、重くないです・・・か?」

 

「ああ、とても重い」

 

「うっ・・・」

 

「こうして、自分の命よりも大切なものができてしまうという事実が、たまらなく重く、そして何にも代え難い幸せだと感じる」

 

「ッ!・・・あなた・・・」

アスミちゃんと雪

描かせていただきました!

ねずじょうじさん(id:nezuzyouzi)のSSにインスパイアされまして!

nezuzyouzi.hatenablog.com

 

もっと純粋無垢な天使感というか、透明な感じが出せれば良かったんですが・・・。

今の私にはこれが精一杯でした。

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アスミちゃんマジ可愛いマジ天使。

エウスオーファンの一日

激動の激闘を経てキスビットから種族差別が消え去り、ルビネルの活躍によってアウレイスが生還を果たしてから数日。

タミューサ村では平和な時間が流れていた。

自室で書きものをしていたエウスオーファンのところに来客があったのは、早朝のことだった。

 

「ねぇねぇエウス村長っ」

 

「やあオジュサ。どうしたんだ?」

 

「あのね、ボクちょっと悩みがあって・・・」

 

「ほう」

 

「この前、みんなでビット神と戦ったときさ」

 

「ふむ」

 

「ボク、何も出来なかったなって・・・」

 

「そんなことは無いぞ。オジュサのお陰で地下空間に逃げ込めたし、ゴーレムを撹乱するための大量の土人形だって造ってくれたじゃないか」

 

「そうだけど・・・ボク、もっと強くなりたいんだ」

 

「今でも充分に強力な加護の能力が備わっていると思うが」

 

「うん・・・でも、自分でも便利だとは思うけど、戦闘向きじゃないよね」

 

「そんなことは無い。もし仮に私がオジュサと一対一サシの勝負をすることになったら、きっと勝てないだろう」

 

「えっ?そんなこと無いよ!村長はすごく強いもん!」

 

「想像してみてくれ。例えば君の土操作は、高硬度の鎧をまとうことだってできるだろ?」

 

「そりゃできるけど」

 

「もし君にそれをされてしまったら、私のダガーは君にダメージを与えることはできない」

 

「そうなの?」

 

「例えば、高く厚く硬い壁で周囲を覆われ、じわじわとその範囲を狭められれば、私は潰れてしまうほか無い」

 

「そ、そんなの考えたことも無かった・・・」

 

「急激に足元に穴を開けられれば落ちてしまうだろうし、その底に槍のように鋭い針が待っていれば確実に致命傷を負うだろう」

 

「うわぁ・・・い、痛そう・・・」

 

「だからオジュサ、君は決して弱くなどない。ただ、優しいだけなのさ」

 

「ボクが、優しい?」

 

「そうだとも。使い方によっては非常に高い攻撃力になる、とてもすごい能力チカラを持っているが、君はそれを『仲間を守るため』に、『生活を便利にするため』に使うだろ?」

 

「そういうのは得意なんだけどね」

 

「私はそれを誇りに思うよ。戦えば相当に強力なその能力チカラを、争いのためでなくみんなのために使えるというのは、なかなかできることじゃない」

 

「そ、そうかな・・・」

 

「そうだとも。だから私は、君にはずっと味方でいて欲しいと思っている」

 

「えっ?」

 

「だってオジュサ、もし君と戦うことになってしまったら、私は絶対に君に勝てないからな」

 

「やめてよ村長!ボクはずっと村長の、この村の味方だよ!みんな大好きだもの!」

 

「例えばの話さ。もちろん、それは分かっている。だからこそ君は私の誇りなんだ」

 

「・・・ありがとう」

 

「なに、礼を言うのはこちらの方さ。で、悩みは解決したかね?」

 

「うん!」

 

「そうか。それは何よりだ」

 

満面の笑みで部屋を出ていったオジュサを見送るエウスオーファンの顔は、優しい微笑みを湛えていた。

それから少し経って、また扉がノックされた。

 

「入りなさい」

 

「朝から申し訳ありません・・・」

 

「なに、気にすることはない。それよりどうしたんだい、エコニィ」

 

「あの・・・私・・・少し悩みがありまして・・・」

 

「ほう」

 

「先日の戦いでのことなのですが」

 

「ふむ」

 

「私、何もできませんでした・・・」

 

「そんなことは無い。多くのゴーレムを引き受け、何体も破壊してくれた。あのビット神にも果敢に斬りかかった。充分過ぎるほど働いてくれたと、私は思っている」

 

「私には、自分の無力さが浮き彫りにされた経験でしかありませんでした・・・」

 

「無力なんてとんでもない勘違いだ。もし仮に私がエコニィと一対一サシの勝負をすることになったら、きっと私は勝てないだろう」

 

「そんな!私なんかがエウス村長に敵うはずありません!」

 

「エコニィ、君はなぜ武器に大剣を選んだのかね?」

 

「えっ・・・それは・・・私が女で、力が弱いからです・・・」

 

「ふむ。普通は逆だと思うが?」

 

「はい。でも、私でも自在に扱える細身の剣や短刀では、エイ マヨーカの正規軍が採用している鎧に、全く通用しなかったんです」

 

「それで、武器自体の重さを攻撃力に転嫁する、今の戦闘法スタイルを習得したと」

 

「はい・・・」

 

「君の筋力では、剣を上段に構えるのがやっとだろう?」

 

「さすがですね。その通りです」

 

「だがそれを起点に始まる君の連続剣撃には目を見張るものがある」

 

「連撃にしないと、充分な斬撃にならないので・・・」

 

「つまり、相手に回避されても弾かれても、重力や相手の力を利用して剣を加速させているということだろう。恐らくは4合か5合の打ち合いで最高速度に達するあの斬撃は、よほどの達人でない限り見切ることはできんだろう」

 

「そ、そんなこと・・・」

 

「私の戦闘法スタイルは知っているね? 相手の意識の隙を突く戦い方だ」

 

「はい」

 

「だが、君自身にいくら意識の隙が生まれたとしても、君の剣は一時も止まらないんだよ」

 

「あ・・・」

 

「気付いたかね。つまり、君が先の先で仕掛けて連撃をスタートさせた時点で私は防戦を強いられることになる。高速回転する大剣の斬撃をそういつまでも捌けるわけも無い」

 

「そう、ですか?」

 

「そうだとも。それにな、私は君を尊敬している」

 

「えっ?」

 

「知っての通り、私の武器はダガーだ。実はね、これは誰にも話したことは無いんだが、若い頃は君のような大剣を振るう戦闘法スタイルに憧れて、ずいぶんと訓練したものだ」

 

「そんなことが」

 

「ああ。しかし、ついに習得はできなかった。それで扱いやすいダガーを選んだわけだ。だが君は違う。自分に足りないものが攻撃力であると自覚し、それを補うために大剣を振るう道を選び、見事にそれを習得している」

 

「そ、そんな・・・」

 

「結果的に、君は鎧を砕くチカラを手に入れた。一方私は、突出した攻撃力を得ることが出来なかった。だからこそ、君を尊敬してるんだよ」

 

「・・・ありがとうございます・・・」

 

「君は君が手に入れた戦闘法スタイルとその技術の高さ、それによって得られる攻撃力、そして何より習得するまでに費やした努力を、もっと誇って良いと思うぞ」

 

「そ、そうですかね・・・」

 

「そうだとも。だから私は、君にはずっと味方で居て欲しいと思っている」

 

「えっ?」

 

「だってそうだろう。もし私がエコニィと戦うなんてことになってみろ。私に勝算など無いのだから」

 

「そんな!私が村長と敵対するなんて、有り得ません!」

 

「尊敬する君にそう言ってもらえると、嬉しいよ」

 

「っ・・・こちらこそ!ありがとうございます!」

 

「ようやく笑顔になったね。ああ、いかんいかん。話が逸れてしまったか。さて、何の話だったかな?」

 

「いえ、もう大丈夫です!お時間を頂いてありがとうございました!」

 

揚々とした様子で部屋を出ていくエコニィ。

その姿を見送るエウスオーファンの顔には優しい頬笑みが浮かんでいる。

しばらく経ってまた、この部屋の扉を叩く者があった。

 

「どうしたんだい?」

 

「少しお話したい事がありまして」

 

「えらく深刻な顔だな、ラニッツ」

 

「ええ。私事で恐縮なのですが、少々思うところがあるのです」

 

「ふむ」

 

「邪神ビットとの戦いに於いて、私はあまりにも無力であったと・・・」

 

「そんなことは無い。君の雷撃があったおかげでエコニィの剣は攻撃力を増しゴーレムを斬り伏せることができたし、生成した黒雲があったればこそカミューネの転移魔法が使えたんじゃないか」

 

「それは、そうですが・・・しかし圧倒的に戦力外でした・・・」

 

「そこを気にするのは実に君らしいな。だが、戦力外というのは表現がおかしい」

 

「と、言いますと?」

 

「あの場面、あの面子、あの状況に於いて、君が行ったことはすべて最善だったと私は考える」

 

「・・・」

 

「もともと君は強力な雷撃を操る能力があって、この村でもその火力はトップクラスだろう。しかしあの場面で君が攻撃にばかり集中してサポートが後手に回っていたら、戦局は敗色に傾いていたと思うが」

 

「・・・そう、でしょうか」

 

「あの壮絶な状況に於いて、君の行動、判断は正しかった。私はな、ラニッツ、能力というものはそれを扱う者の才によってその価値が決まると考えている。その点で言えば、強力な雷撃と黒雲の自在操作という能力、そして何より状況に応じて正しい判断ができる君の才覚は、私も一目置かざるを得ない」

 

「勿体無いお言葉です」

 

「それに、君は強い。私などでは遠く及ばんよ」

 

「そんなことありませんよ!」

 

「いや、どんなに死力を尽くしたところで、私の刃は君には届かんだろう。逆に君の雷撃はいとも簡単に私を撃ち、焼き焦がす」

 

「想像もできません・・・」

 

「例えばラニッツ、君が自分の周囲に高濃度の幕放電を配置したとしたら、私が投擲するダガーは君に届く前に融解してしまうだろうな。それに、私にとって最も恐ろしいのは、ニオイが分からないということさ」

 

「え?」

 

「君が生成する黒雲、あれには何のニオイも無い。つまり私はあれを感知できんということだ。すぐ背後で雲を生成されても気付くことができん。だから君にはずっと味方で居て欲しいと思っているよ。どう足掻いても私は君に、勝てんからな」

 

「何を・・・私はこの命尽きるまでエウス村長の味方です!」

 

「なんとも心強い言葉だ。本当に有り難い」

 

「それは私の言葉です!やはり、村長にお話して良かった!」

 

生気を取り戻した表情で部屋を出ていくラニッツと入れ違いに、エウスオーファンの前に立つ人物が居た。

 

「おや、ダクタスさん。どうしたんだい険しい顔をして」

 

「エウス村長、また若い連中を甘やかしおってからに」

 

「覗き見とはあまり良い趣味とは言えんなぁ」

 

「タイミングじゃわい。わしがここへ来ようと思ったらオジュサに先を越され、出直して来てみればエコニィが、まさかと思ったが次はラニッツ。しかも皆が一様に同じ悩みを相談しに来るとはの」

 

「あの一件は、それほど衝撃的だったということさ」

 

「そりゃわしだって分かっとるよ。ただな村長、お前さんの常套手段な、アレはそう多用せん方が身のためじゃと思うぞ」

 

「はて、何のことだろうか」

 

「トボケんでもええわい。ああやって自分の弱点を相手にさらけ出すことで信用を得る話術は、諸刃の剣じゃ」

 

「と言うと?」

 

「奴らに悪気がなくとも、ついうっかりをどこかで誰かに話してしまうことだってあるかも知れん」

 

「なるほど」

 

「以前よりは随分マシになったこの国も、その実は種族差別が無くなっただけじゃ。都市同士の睨み合いもあるようじゃし、政治的な策謀は無くなっておらん。こんなちっぽけな村とは言え、村長という立場なら寝首を掻こうとする輩もきっと居るぞ」

 

「確かに、そうだな」

 

「じゃから所構わずわざと隙を見せたり弱点を晒したりするのは、止めた方がええと思うがの」

 

「そうか。それはダクタスさん、あんたの言う通りだ。ありがとう」

 

やめい。今度ばかりは、なんと言われようと引退するぞ」

 

「おっと・・・」

 

「わしが聞き耳を立てとるの、もちろん気付いておったよな。それで敢えてあんな話を奴らにしたんじゃろう。それを聞いたわしがこうやって助言することを想定して」

 

「まったく、敵わんなぁダクタスさん。ただ、ひとつ勘違いをしている」

 

「なんじゃ?」

 

「私が彼らに言ったのは、自分の弱点ではなく『エウスオーファンを相手に戦うとしたら』という戦法のひとつを示したに過ぎない」

 

「同じことじゃろ」

 

「いいや、違う。彼らには申し訳ないが、私が言ったのは半分本当で半分嘘だ。この村で私に勝てる者など、本当は居ないんだから」

 

「ほほう。大きく出たな。じゃあオジュサにどうやって勝つ?」

 

「そもそも私の武器が投擲用のダガーだけだと認識させられている時点で、彼らの勝機は薄い。、私は何だって投げられる」

 

「それはそうじゃが・・・」

 

「まずオジュサが硬質岩で身を固めたとしても、必ず呼吸用の穴は必要だろ?そこに針でも撃ち込めば充分に攻撃は可能だ」

 

「なるほど・・・しかし土の壁で圧殺されたらどうする?」

 

「そもそもオジュサの作り出す壁は地面から隆起するように生成される。私なら発動のタイミングに合わせてその場所に行けるさ。壁は私を乗せたまま隆起するだけで、私を取り囲むことはできない。まぁ、彼が惑技フェイントなんかを覚えたら少々厄介かもしれんが、それでも読みやすい思考パターンをしているからな」

 

「ふむ・・・ではエコニィとはどう戦う?」

 

「離れて戦うさ。それだけだ。さっきは接近戦という限定だったが、彼女は自分の間合いの外に居る相手と戦うことをすこぶる苦手としている。大剣を担いでいるおかげで機動力は落ちているし、ヒットアンドアウェイ策ならまず負けんだろう」

 

「よく見とるのぉ・・・。ではラニッツは?」

 

「幕放電は行き場の無い電流の塊みたいなものだ。だから行き場を作ってやればそちらに流れてしまう。間を置かず10本程度の電導体を横一線に投げれば、そちらに向かって落雷するだろう。ラニッツが次の幕を張る前に、ダガーを投げ込むことはそう難しくない」

 

「なるほど。自分で対抗策がある弱点だけを晒しとると、そういうワケか」

 

「その通り」

 

「じゃがひとつ気に入らんことがあるのぉ」

 

「なんだい?」

 

「さっき『この村で自分に勝てる者はおらん』と言ったな」

 

「ああ、言ったよ」

 

「そりゃわしも含めて、じゃな?」

 

「もちろん。こう言っちゃなんだが、さすがにロートルのダクタスさんには負ける気がしないね」

 

「じゃあエウス村長よ、ちょいとそこのダガーをわしに投げてみろ」

 

「いやいや、何を言い出すんだいダクタスさん。そんなことしたって・・・」

 

「御託はええから、早よう投げんかい小僧」

 

「・・・わかった」

 

「・・・来な」

 

「痛ッ!!・・・???」

 

「はっは!!掛かったのう!わっはっはっは!」

 

「まさか・・・」

 

「そうじゃ。そこのダガー、わしが姿を変えておるのよ」

 

「そんな・・・確かになのに!」

 

「それじゃよ。村長はその鼻に頼り過ぎるフシがある。じゃからわしが変えたのは、そのダガーじゃ。つまり投げようとして村長が掴んだのは、刃の方だったと言うわけじゃ」

 

「なるほど。これは一本取られたな。この調子で私のダガーの全て、いや、例えば半分だけを反対にされてしまったら・・・」

 

「どうじゃ、恐れ入ったか」

 

「さすがだよ、ダクタスさん」

 

「っと、その手、すまんかったのぉ」

 

「いやいや、これくらいの傷はどうってことない」

 

「そうか。ま、村長もまだまだということじゃな」

 

「全く以って、その通りだ」

 

「まだまだ若いモンには負け・・・はっ!!!!」

 

「おっと、気付かれてしまったかな」

 

「くそう!村長め!いつもこうやってわしを乗せおってからに!」

 

「でも、まだまだ現役でいけるってこと、証明できたじゃないか」

 

「ぐぅ・・・あっ!さっきのダガー、知っていてワザと引っ掛かったフリをしたのか?」

 

「まさか。そんなことは無いよ。ただ・・・まぁ、対抗策は浮かんだがね」

 

「なに!?どうする!?どうやって破る!?」

 

「引退を撤回したら、教えようか」

 

「ぐぅぅぅー!!村長め良い気になりおって!撤回じゃ!撤回するから教えろ!」

 

「ふっふっふ。じゃあ説明しよう・・・」