船の運び屋『ローバー商会』

大型帆船『サオカカ号』を操り世界中を行き来する運び屋集団『ローバー商会』。

積めるモノなら報酬次第で何でも運ぶ。

海が続いている場所なら報酬次第でどこへでも運ぶ。

どんな状況であっても『指定の港での積み込みから指定の港への荷降ろし』までは絶対に完遂するプロ集団。

また寄港した先々で、買えるものは買い売れるものは売る貿易商の一面も。

サオカカ号の仕様
  詳細
最大乗員  乗れるだけ
最大積載  積めるだけ
最大戦速  すごい早い
主帆面積  超でっかい
喫水限界  幸運まかせ

 

乗 組 員
名前 項目 詳 細

ミニマ・

ジーオメット

種族 アルビダ。
性別 漢。
年齢 桑年近し。
髪型 ドレッド。
髪色 濃い灰色。
瞳色 濃い灰色。(でも普段はサングラスで見えない)
能力

重さを操る呪詛。直接触れている間だけ対象の重さを自在に移動できる。左手の岩石の重さをゼロにして軽々と持ち上げるとき、右手のリンゴはその岩石分の重さになっている。

服装 ぴっちぴちのタンクトップ。
特徴 器が大きく豪快な性格で、記憶力が残念。
略歴 海が好きだ!ただその一点のみで船乗りになり、コツコツと金を貯めてようやく自分の船を手にすることができた。細かい決まりごとがある組織よりも人情が通用する範囲の稼業規模で商売をやろうと一念発起し、海の運び屋ローバー商会を立ち上げる。サオカカ号の船長。
特技 酒豪。底無しに飲める。 
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725120931j:plain
名前 項目 詳 細

ピッシュ・

ノン

種族 アルファ。
性別 女性型。
年齢 とう
髪型 足首まであるロングヘア。
髪色 虹色。(光の当たり具合で変わる)
瞳色 大きな瞳、虹色。(光の当たり具合で変わる)
能力 八面六臂はちめんろっぴ。普段は頭髪のように見える虹色の繊維を、それぞれ意のままに動かすことができる。束ねる本数によって強度が変わるので、重い物を持ち上げようとすればそれなりの太さになるように束ねる必要がある。一度に複数の作業をこなすことができる。
服装 あごまで隠れる襟の高いノースリーブジャケット、ブーツ。
特徴 無感動、無表情、合理的
略歴 ミニマの『船酔いしなけりゃ誰でも良い』という雑な求人広告を見てやってきた、サオカカ号の第一号乗組員。初めはミニマとピッシュの二人だけで仕事をしていた時期もある。
特技 ミニマが忘れていることを全部覚えている。 
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725120931j:plain
名前 項目 詳 細

レビ・

ユーアン

種族 アスラーン。
性別 兄ちゃん。
年齢 丁年過ぎ。
髪型 くせっ毛。
髪色 オレンジ寄りの赤。
瞳色 キレ長の目、碧眼。
能力 長距離遠視。遮蔽物が無ければどこまでも見える。1km先に居る猫の毛についたノミの足まで見える。
服装 アロハシャツ、ハーフパンツ、サンダル。
特徴 親切の塊。粗暴な言葉づかいとひねくれた発言で、一見近寄りがたい印象があるものの、実は全く正反対の行動をとってしまう優しいお兄さん。
略歴 ミニマとのカードゲーム勝負に惨敗し、想像を絶する金額の借金を背負うことになり、返済のためサオカカ号で働くことになった。
特技 イルカと張り合うほど泳ぎが上手い。
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725120931j:plain
名前 項目 詳 細

ヒニス・

ファムスラット

種族 人間。
性別 男性。
年齢 弱冠寸前。
髪型 耳にかかる程度。
髪色 濃い目のピンク。
瞳色 濃い目のピンク。
能力 味覚のシックスセンス。空気の味で天候予測ができるほか、キスで相手の大まかな感情も分かる。
服装 長袖長ズボン。サスペンダー。
特徴 ハイジアの双子の兄。ボディラインが分からない服で黙ってればハイジアと見分けがつかない。中性的でとてもモテるが、本人はメカフェチで人間にはあまり興味が無い。
略歴 港で見かけたピッシュを口説いているうち、いつの間にかサオカカ号に乗り込むことになってしまった。
特技 機械工作。
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725120931j:plain
名前 項目 詳 細

ハイジア・

ファムスラット

種族 人間。
性別 女性。
年齢 弱冠寸前。
髪型 耳にかかる程度。
髪色 濃い目のピンク。
瞳色 濃い目のピンク。
能力 触覚のシックスセンス。触れた物のステータスを知覚できる。人であれば、絶好調とか風邪気味とか落ち込んでいるなどのコンディションや、物品であればその価値や耐久度などが数値として理解できる。
服装 長袖長ズボン。サスペンダー。
特徴 ヒニスの双子の妹。ボディラインが分からない服で黙ってればヒニスと見分けがつかない。喧嘩っ早く、口より先に手が出てしまう。
略歴 すでにサオカカ号に乗りこんでいたヒニスと間違われ、出港直前にミニマが抱えて積み込んだ。
特技 アクロバティックな軽業。
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725120931j:plain
名前 項目 詳 細

焼栗

(シャオ・リー)

種族 サムサール。
性別 少女。
年齢 笄年けいねん未満。
髪型 トゲトゲボサボサ。
髪色 こげちゃいろ。
瞳色 琥珀色、ジト目。
能力 後悔の念を宿した第三の瞳。この瞳と視線を合わせてしまった者は未来に対する建設的な思考ができなくなる。過去の判断と選択について記憶の限り掘り起こし、その全てに悔恨の感情をぶつける。だいたい膝を抱えて座り込む。
服装 大人用の船乗り服に適当なロープを縫いつけてずり落ちないようにしたワンピース。
特徴 尖った歯と目つきのせいで、笑顔なのに悪だくみしているように見える。
略歴 サオカカ号がグランピレパの港に停泊中こっそり忍び込んで以来、乗ったまま。誰も素性を聞かないし本人も言わない。
特技 オカリナ演奏。
外見 f:id:sakatsu_kana:20180725115101j:plain

 

単なるお絵描きまとめ

最近ツイッターであげたお絵描きまとめです。

 

ラッキースケベ寸前のカミューネ。

誰がこのシーンに遭遇するんでしょうか。

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白い肌を日焼けしたかのように塗られたアウレイス。

装着する水着よりも大きな日焼け跡を表現して羞恥を煽るルビネル師匠の手腕。

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このあと着乱れるのは言うまでもありません。

でも外だと暑いし蚊がいるしで大変なので冷房で涼しいおうちに帰ってからね。

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なぜか昼間に暗視ゴーグル装着のエスヒナさん。

登山の予定がなぜかサバゲになってしまいました。

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長田先生にキャラデザして頂いた焼栗。

焼栗と書いてシャオリー。

可愛い。

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エスヒナの特殊能力

「ん~・・・参ったナァ・・・」

 

暗く深い穴の底から、小さく丸く切り取られた空を見上げつつ、エスヒナは溜息をついた。

自分の行動に対して後悔することはそう無い彼女だが、少なくとも今は、数分前の自分の軽率さを悔いていた。

それは背中に突き刺さる視線のせいかもしれない。

 

「だから言ったのに・・・ぐすん・・・」

 

膝を抱えて座り込み、鼻をすすりながら半べそで非難の声を上げたのは、親友のアウレイスだった。

 

 

 

エスヒナがタミューサ村の仲間になって数か月が経過した頃。

村に来た時期も年齢も近いアウレイスとエスヒナは、二人で居ることが多かった。

と言うよりも、対人恐怖症で引っ込み思案のアウレイスを、明るく元気で物怖じしないエスヒナが引っ張り回していると言った方が正しいかも知れない。

その甲斐あってか、これまでなかなか村に馴染めないでいたアウレイスも徐々に周囲に心を開くようになり、笑顔を見せることも多くなってきた。

この笑顔に心臓を貫かれし者共が密かにアウレイス親衛隊を結成するのは数年後のことである。

 

さて、エスヒナにしてもアウレイスにしても、エウスオーファン村長に受けた恩は言い表せないほど大きく、早く恩返しがしたいと常々考えていた。

特にエスヒナはその意識が強く、積極的に村の仕事に携わろうとしていた。

村では農耕に従事する人数が最も多く、それはそれで非常に重要な仕事ではあった。

しかし実際のところ『農業の手は足りている』という状況であり、本当に人手が欲しいのは、村の外を調査するレンジャーだった。

種族差別による迫害を逃れる民をより多く招き入れるためには、村の拡大が必須となる。

そのためには、家畜を襲う魔獣の出没状況や、家畜化できる動物の生息域、食用になる野性の植物や、土地の状況を把握することが不可欠なのだ。

これら現村域の外側の情報を収集し、少しずつ拡大していく。

それがタミューサ村の、エウスオーファン村長の戦略だった。

 

だが域外調査には危険が伴う。

未知の魔獣、有毒の昆虫や植物など、常に危機と隣合わせの任務だった。

だからこそ身体能力が高かったり、特殊な能力を持つ者にしか域外調査は任命されず、元々そのような人材が少ないこの村では調査隊員が常時不足していた。

この状況は、エスヒナもアウレイスも承知している。

しかし笄年けいねんそこそこの子供である彼女らが調査隊員に抜擢されるはずも無く、志願したところで却下されるのが目に見えていた。

実際に手を挙げたエスヒナは何度か「もっと大きくなったらな」と大人たちから苦笑されている。

 

そんなある日。

 

「アウリィ! あたし閃いちゃった!」

 

川で汲んだ水がなみなみと入った桶を抱え、村へ戻る道中。

エスヒナが目を輝かせながらアウレイスに言う。

 

「もうちょっとしたらダイコムさんが結婚するじゃない?」

 

いま抱えている新鮮な水の届け先、農夫のダイコム。

彼は数日後に花嫁を迎える予定だった。

桶から視線を外すと水をこぼしてしまいそうで、エスヒナの方を向かないままアウレイスが応える。

 

「そうね。ミィニの花が無いのは残念だけど。それがどうしたの?」

 

状況的には簡素で質素な式にはなるだろうが、それでも村人同士の婚姻は村を挙げて祝うほど喜ばしいことだ。

それが、この種族差別が横行する国において異種族同士の結婚であれば尚更である。

キスビットでは古くから結婚式で『ミィニの花吹雪』を行う習慣があった。

ミィニと呼ばれる植物の真っ青な花弁を、新郎新婦に降り注ぐように投げるのだ。

しかし、ミィニが自生している場所はタミューサ村から遠く、一般人が気軽に採取できるものでは無かった。

タイミングが合えば域外調査隊が花を摘んで帰ってきてくれるのだが、今回はそれも間に合いそうに無かった。

 

「ダイコムさんのミィニ、あたしたちで採ってこよう!」

 

「ええぇっ!?」

 

ちゃぷん。

アウレイスが驚いてエスヒナに顔を向ける。

少しだけ、水がこぼれた。

 

「だ、だめよ。ミィニが咲いてるところはとっても遠いし、危ないもの」

 

困惑した表情のアウレイスに対し、宝物でも見付けたかのように顔を輝かせたエスヒナが返す。

 

「だから良いんだよ! あたしたちのこと、認めてもらおう!」

 

二人だけでミィニの花を採って帰れば、結婚式のお祝いになることはもちろん、大人たちに自分が調査隊として働けることを認めてもらえる、とエスヒナは考えた。

アウレイスは渋々ながらエスヒナの無謀なアイデアに付き合うことにした。

ここで引き止めたとしても、彼女は1人で行ってしまうという確信があったからだ。

それでも、やるとなったら全力で臨み万端の準備をするのがアウレイス。

村人たちから『それと悟られないように』ミィニの自生場所を聞き出し、簡単な地図と最適なルート選定までを行った。

 

「すっごーい! さっすがアウリィ! ありがとう!」

 

「こ、このくらい普通よ・・・」

 

満面の笑みで真っ直ぐに褒められ、嬉しさと同じくらい恥ずかしさを感じて俯いたアウレイス。

それが照れ隠しだと分かっているエスヒナは、白い歯をのぞかせて「イヒヒ」と笑った。

こうして、二人の少女は祝いの花を摘むために村を出発した。

 

「ねぇアウリィ? ちょっと地図見せて?」

 

しばらくするとエスヒナが首をかしげながら問うた。

そしてアウレイスが差し出した地図としばらくにらめっこし、言った。

 

「何でこんなに大まわりしなきゃいけないの? ここ真っ直ぐ行った方が近いじゃん」

 

確かにエスヒナの言う通り、アウレイスが作成した地図では村からミィニの花園まで大きく迂回するルートが示されていた。

ちょうどアルファベットのCを描くような行程は、直線距離の3倍ほどになっている。

最短ルートを選べば野宿することなく、日暮れまでに村に帰ることも出来そうに思えた。

 

「真っ直ぐ行って早く採って早く帰ろうよ」

 

「ダメよエスヒナ。ここから先の平原はとっても危険だってみんな言ってたわ」

 

アウレイスが収集した情報によると、迂回すべき平原には『ビットのへそ』と呼ばれる大きな穴が多数存在しているらしかった。

どのような原因でその穴が発生しているのかは未解明だが、穴の規模や形状はまちまちで、大きなものだと村長の屋敷が一軒すっぽりと入るほどのものもあるらしい。

何が危険かと言えば、大きな穴は目で見て判別できるため回避できるのだが、形状によっては、穴の周囲が草で覆われ見えなくなっていて、地面があると思って進んだ矢先に足場を失って真っ逆さま、ということも多々あるらしいのだ。

運悪く落ちた穴が深ければ、命の危険さえある。

 

「つまり、落とし穴ってこと? そんなの気を付けて歩けば大丈夫だよアウリィ」

 

手に負えない魔獣や致命的な毒を持つ虫などではなく、ただの穴が危険の正体であると聞いたエスヒナは、アウレイスが止めるのも聞かず平原を縦断するルートを選択した。

そして案の定、二人は『ビットのへそ』の餌食になってしまったのだ。

 

 

 

「うわっ! わわわっ! ッ痛ぁ~・・・」

 

穴の壁面を登ろうとしていたエスヒナが落ちてきた。

幸いにも穴の底には枯れ草が堆積しており、それが緩衝材となっている。

二人が上から落ちたときもこれのお陰で無傷だったのだ。

もしこの草が無く、穴の底が硬い岩肌だったとしたら、今頃アウレイスもエスヒナも生きてはいなかっただろう。

 

「う~ん・・・登るのは難しいか・・・」

 

とにかく行動で打開策を見出そうとするエスヒナとは対照的に、アウレイスは一生懸命に脱出方法を考えていた。

枯れ草の中から細長いものを選んでより合わせれば、縄が作れなくはない。

しかし地上側から引き上げてくれる存在が居ない以上、縄だけ有っても仕方が無い。

壁面の土は脆くてすぐに崩れてしまうため、登ろうにも先程のエスヒナよろしくすぐに落ちてしまう。

逆にその脆さを考えれば周囲の壁を掘り崩し、穴を底上げしていけばいずれは出られるかもしれないが、ロクな道具も無い状況では餓死する方が先だろう。

考えれば考えるほど絶望的な状況に、アウレイスは目の前が真っ暗になってきた。

 

「仕方ないか・・・あぁ~、嫌だな~・・・でも、うん・・・」

 

万策尽きて茫然としているアウレイスとは別に、エスヒナも悩んでいた。

しかしエスヒナの口調はまるで、貯金箱からお金を出すか出さないかを悩んでいるような、どこか気軽な感じがした。

 

「何か良い方法があるの?」

 

藁にもすがる思いでアウレイスが問い掛ける。

さすがに親友にこんな表情をさせてしまいかなり反省したエスヒナ。

ここは勿体ぶっている場合では無い。

 

「あたしの能力ならたぶんここから出られると思う。でも・・・」

 

続きを言い淀むエスヒナ。

このとき初めて、そう言えばエスヒナの能力について話題にしたことが無かったことに気が付いたアウレイス。

自分の能力が身体の透明化であることはお互いに認識しているが、エスヒナについては聞いたことが無い。

ただ、脱出の可能性を示唆しつつ、しかし歯切れが悪いところをみると、もしかすると発動に何らかのリスクを伴うものかもしれない。

 

「時間がすごくかかるんだ。これから丸一日、待てる?」

 

エスヒナの説明は、こうだった。

彼女の能力は『描いたものに生命を吹き込み使役する』というもの。

何を何にどのように描いても構わないが、ずいぶんと面倒な制約があるのだ。

・必ずエスヒナ本人が描かなければならない

・描いたものには必ず名前を付けなければならない

・描いたものを最低でも1日は可愛がらなければならない

・1日以降、可愛がった時間に応じて描いたものの実体化が持続する

 

「か・・・可愛がる・・・?」

 

アウレイスの素直な疑問に、エスヒナは苦笑いでこたえる。

 

「あはは・・・そだよねぇ・・・何でこんな変な能力なんだろう・・・」

 

そのあと、恥ずかしそうに「笑わないでね」と言ったエスヒナは、足元に落ちていた小枝を手に取り、穴の壁面をガリガリと削り始めた。

一体どんな能力なのか想像できないアウレイスは、とにかくエスヒナの行動を見守ることにした。

そして、普段からどんな状況でも『恥ずかしがる』ことが無いエスヒナが、なぜ自分の能力を発動するにあたってこんなにも恥ずかしそうなのかが気になった。

作業開始からものの数十秒で、は描き上げられた。

 

「・・・できた。さぁ、お前の名前は『くもまるたん』だ・・・」

 

アウレイスには、エスヒナが何を言っているのか、何をやっているのかまるで理解できなかった。

小枝で土を掘り溝を作って線にして、その線で描かれたを『くもまるたん』と呼び、撫で始めたエスヒナ。

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声を掛けようとしたアウレイスだが、しかし次の瞬間、目を見開いて驚いた。

土壁に描かれたが、ピクリと動いたからだ。

初めは目の錯覚かと思ったが、しかしそうでは無かった。

線で描かれた平面的な絵(?)が、次第に立体感を持ちはじめ、そしてついに壁からポンと抜け出してエスヒナにしがみついてきたのだ。

 

「おぉよしよし。可愛いねぇくもまるたん。よしよし。よしよし」

 

エスヒナはモゾモゾとうごめくその物体を胸に抱き、わしわしと撫でている。

 

「・・・えっと・・・あの、エスヒナ・・・それ・・・なぁに?」

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アウレイスはやっとの思いで言葉を絞り出した。

信じられない光景を目の当たりにし、いささか呆けてしまっている。

 

「この子は『くもまるたん』だよ。このまま1日可愛がれば1分くらいあたしの言う通りに動いてくれるの。あ~、よしよし。このまま可愛がるのをやめたら消えて絵に戻っちゃうから、これからあたし手が離せないけど」

 

自分の頭ほどの大きさをした何かを撫でながら、エスヒナは言った。

そして頬を赤らめつつ、口を尖らせて続ける。

 

「あたし本当はこの能力、使いたくないんだよね・・・へたっぴだから・・・」

 

それはアウレイスにも伝わっていた。

現にいま目の前に出現したが何なのか分からない。

強いて言えばイガグリが近いような気もするが、正体について言及しない方が良いと判断したアウレイス。

エスヒナを傷つけることになるかもしれない。

 

「で・・・どうやってここから出るの?」

 

エスヒナに甘えて(?)いるモノには触れず、アウレイスは脱出方法に話題を切り替えた。

こういう気遣いはさすがである。

 

「可愛がる時間が1日だと動けるのは1分くらいなんだけど、くもまるたんなら1分もあればこの穴から出られるよ。はいはい、よしよし。あ~可愛いねぇよしよし。穴から出たらくもまるたんがあたしたちを引っ張り上げてくれるから」

 

謎の物体を撫でたり揉んだりしながら言うエスヒナの言葉の意味はやはり分からず、ただ頷くことしかできないアウレイスは、とにかく、脱出できるというエスヒナの言葉だけを信じようと思った。

 

そして夜が来て、朝になり、やがてくもまるたん誕生から1日が経とうとしていた。

 

「よし、そろそろいけるかな? くもまるたん、良い?」

 

エスヒナが声を掛けると、この世のものとは思えない「ゲゲギジャアァー♪」という声とも音ともつかない返事(?)をしたくもまるたんが手(?)か足(?)かよくわからない部位を挙げた。

 

「じゃあくもまるたん、この壁を登ってあたしたちを引っ張り上げて!」

 

「ギャジャアッ!」

 

「・・・」

 

外見からは想像もつかない俊敏さで、くもまるたんは穴の壁面を登っていった。

 

「おっ! 思ったより早いなぁ。いいぞくもまるたん!」

 

ものの10秒足らずで穴から這い出たくもまるたんは、その頭(?)なのか胴体(?)なのか分からない部位から白い紐のようなものを射出した。

それはスルスルと穴の底まで届いた。

 

「じゃあアウリィ、先に行ってね」

 

アウレイスが恐る恐る紐状のそれに触れると、粘性があることが分かる。

若干、いや、結構な気持ち悪さがあるものの、背に腹は代えられない。

意を決してアウレイスがギュッと紐を掴むと、力強く引き上げられた。

意外なほど簡単な脱出劇だった。

アウレイスに続きエスヒナも引き上げられたタイミングで、制限時間が来た。

くもまるたんがスゥーッと透けていく。

 

「ありがとう! 助かったよ!」

 

消え去るくもまるたんに感謝の言葉を叫ぶエスヒナ。

相手が未確認生物でなければ感動的なシーンだったかもしれない。

 

「と、とにかく出られて良かったわね。ありがとうエスヒナ」

 

「ううん。あたしの無茶で危険な目に遭わせてごめんねアウリィ」

 

こうして、少女二人の花摘み作戦は失敗に終わった。

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

これまで語られることの無かったエスヒナの特殊能力が登場するエピソードです。

キスビットにおいては、人間のシックスセンス、妖怪の呪詛、精霊の加護、有翼人の魔法以外に慾滓よくしと呼ばれる特殊能力を持つ者が居ます。

慾滓は、言うなれば『叶わなかった願望の集まり』です。

 

キスビット人は『人の願い』を物質的に捉える考え方をします。

例えばこの世界に水が存在するのは『水が欲しい』と思う人の願いがあるからで、もし仮にこの世の誰も『水が欲しい』と思わなかったらならば、水は存在しないという考え方です。

人の願望が質量を持ち、水に変換されている、というようなイメージです。

つまり、願望はそれが叶うときに、叶うための物質や運動、熱量などに変換されて消費されるのです。

 

しかし残念ながら叶わない願望も、この世には多くあります。

そんな『叶えるための正しい変換がされなかった願望』は、その内容ごとに集積され凝縮されていきます。

そして超常的な現象を引き起こすまでに至った願望の塊は、次に同じ願望を抱いた者に強制的に注ぎ込まれ、特殊能力となります。

 

例えば『水が欲しい』と願ったまま、それが叶えられなかった人がたくさん居たとします。

そしてその叶えられなかった願望の量が臨界を迎えると、次に『水が欲しい』と願った者に、水に関する特殊な能力が、慾滓として発現します。

発現する能力には個人差があり、またどのような状況でどのような願望だったのかにも左右されます。

『水が欲しい』という願望だった場合、もしかすると『水を自在に操れる能力』かもしれませんし『何も無いところから水を出せる能力』かもしれません。

『泥水を飲める水に変える能力』の可能性もありますし『対象を乾燥させる能力』になるかもしれません。

 

エスヒナの場合は諸事情により生殖機能を失っており、そのことから『生命を育む』という願望が慾滓となって発現しています。

キスビットメンバーで現在のところ慾滓が発現し使用できるのはエスヒナのみです。

慾滓はキスビット国内のみでの考え方、能力です。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

白色の似合う女性は誰でしょう?

白色の似合う女性って、最高の褒め言葉だわ。

だってアタシにとって白は、厨房に入る許可証の色だもの。

コックコートという名の白衣に身を包めば、自然と気合が入る。

今日も頑張ろうって思えるし、美味しいものを作ろうって気にもなる。

それから、テーブルクロスも真っ白が良いわね。

飲食店にとって清潔感はとっても重要だもの。

お皿もカップも、曇りひとつない白が良いわ。

そんな白が似合うってことは、アタシ、ちゃんとプロの料理人ってことでしょ?

さぁ、あとはアタシの腕がその評価に見合うかどうか、その舌で確かめてみてよ!

 

白色の似合う女性だなんて、言わないでください。

だって、せっかく大人っぽい黒色を選んでいたのに。

白が似合うってなんだか、子供っぽいと言われているようで・・・。

それがそのまま、君は恋愛対象じゃないよって言われている気がします・・・。

私、見た目ほど子供じゃありません。

だからちゃんと私を見てください。

どうですか?

白じゃありませんけど、この黒いのも、似合っているでしょう?

 

白色の似合う女性

それはあたしの肌と比べて映えるからってこと?

あひゃひゃひゃ。

冗談よ冗談、あたし別に気にしてないもの。

この肌だって、コレの裏の瞳だって、持って生まれたあたし自身だからね。

人は色々好き放題に言うモンだしさ、だったら自分くらいは自分の味方で居なきゃ!

え? キミも味方で居てくれるって?

あっひゃっひゃ。

ううん、違う違う、馬鹿にしてなんかないよ。

ありがとう! すごく嬉しい!

 

白色の似合う女性・・・とおっしゃいましたか?

それは、その・・・はい。

私は確かに白いのですが、それは似合うとかそういう・・・。

ですから、私はあなたが思うほど純真でも無垢でもありません。

真っ白なのは色素が無いだけのことです。

本当はこの肌のように白く在りたい、そう思っています。

けれど過去は変えられません。

私が汚れてしまった事実も、消し去ることはできないのです。

でも・・・それでも、未来は変えられる!

あなたの言う白が似合う女性になれるよう、私、一生懸命自分を磨きますね!

 

白色の似合う女性とか言われてもねぇ。

ご覧の通り私は、愛想も無いし気も利かないただの剣士。

対峙した瞬間に、惚れた腫れたより先に斬れるか斬れないか、勝てるか勝てないかで判断するような女だもの。

だから、白刃はくじんが似合うってんなら喜んで受け取っておくわ。

・・・ちょっと、聞いてるのっ!?

だから、私は白色の似合・・・え・・・?

・・・あ、そう。

ふ~ん・・・そう、なんだ。

いいわよ、付き合っても。

なんでそんなに驚いてるのよ、あんたが言い出したことでしょ?

 

白色の似合う女性とお会いしていたらしいですね。

ええ、村中の噂です。

別にあなたがどこで誰と会っていようと構いませんけど。

・・・怒ってなんかいません。

・・・怒ってませんって。

怒ってないってば!

あ、すみません・・・つい・・・。

はぁ・・・。

正直に白状します。

あなたには隠し事なんて意味の無いことですし。

・・・怒ってますし、不安ですし、嫉妬もしてます。

え? えぇ!?

・・・ごめんなさい、私ったらくだらない噂を本気にして・・・。

でも、良かったぁ・・・ぐすっ。

 

 

 

全部ウチの子がしゃべっています。

さて、どれが誰だかお分かりになったでしょうか?

↓この下を選択(範囲指定)したら答えが見えます。

A.タオナン

B.カミューネ

C.エスヒナ

D.アウレイス

E.エコニィ

F.マーウィン

↑この上を選択(範囲指定)したら答えが見えます。

父の日の前だけど

「やあ、ずいぶんお困りのようだね?」

 

軽くて薄いと書いて軽薄けいはく

こんなにこの言葉が似合う存在も珍しい。

それほどに軽く、そして薄い声を掛けてきたのは、2年生のフェンネルだった。

 

「ん? キミ、フェンネル君?」

 

困まり顔の褐色美人が視界に入ったので反射的に声を掛けてみたところ、なぜか相手から名前を呼ばれて少々驚いた。

が、そこで硬直するようなタマでは無い。

全ての状況、要因、事象が『女の子を口説くための所作』に自動変換され、それをまるで息をするように自然にこなすのがフェンネル・カルピオーネ・サーディンなのだ。

素早く相手を観察し、リボンの色から3年生であることを察知。

 

先輩あなたを救うため神が遣わした天使ぼくなのに、嗚呼、地上に舞い降りたショックで女神あなたの名前を忘れてしまったらしい。どこかでお会いしましたか? どうか哀れなこの堕天使ぼくに、再会の機会を与えてください。美しい人せんぱい

 

大袈裟で芝居掛かった口上は、言葉としては発せられていない別の意味まで相手に伝えてしまう特殊なものだった。

しかし面と向かって『女神』や『美しい』などと言われて悪い気はしない。

いや、正確には言われていないのだが、なぜかそんな気分になる。

 

「あたしはエスヒナ。直接話したことはないけどさ、キミ、2年生のフェンネル君でしょ? ちょっと有名人だよね。友達が話してるの聞いたことあるよ」

 

元来エスヒナは、男子相手にキャーキャーと黄色い声を上げるような性格では無い。

美的感覚による外見の良し悪しの判断や、人間性に対する憧れや尊敬などの感情については人並みに持っている。

しかしそれが恋愛感情となると別の話になってくる。

クラスメイトたちが繰り広げるガールズトークで同意できるのは『あの人格好良いよね』までで、その先の『彼女いるのかな』とか『私、狙っちゃおうかな』には全く共感できずにいた。

そんな女子同士の他愛無い会話に、このフェンネルが登場することが何度かあった。

 

「ふっ、参ったなぁ。まさか、『美しすぎる』なんて神話うわさじゃないでしょうね? ああ、いや、仮にそうだとしても彼女たちを責めないでください。悪いのは圧倒的に魅力的な僕なのですから」

 

フッとキザな微笑をこぼしながら前髪を掻き上げつつ、ヴェネツィアンマスク越しの流し眼でエスヒナを捉えるフェンネル

そのマスクが最大の特徴であることを、彼は理解しているのだろうか?

『あのマスクの2年生』と言えば学園の生徒ほとんどが「ああ、あいつね」と理解するはずだ。

さて、それでも確かにフェンネルは、エスヒナの友人たちの会話で『顔は美形』『隣に置いとくには良い』『写真だけ欲しい』というような評価を受けていた。

そんなフェンネルを見て、確かに整った綺麗な顔立ちだなと、エスヒナは思った。

たった今目の前で自分に向かってウィンクをした理由は分からないが。

 

「いやぁ、実はね・・・」

 

自分には恋人が居ないのに、養父には彼氏が居ると嘘をついてしまったため、一時的に彼氏役になってくれる男子を探していると説明した。

それを「なるほど」「ワァーオ」などと大袈裟なリアクションを交えつつ最後まで聞いてくれたフェンネル

 

(ん? なんか噂ほど残念な子には思えないけどな?)

 

実はエスヒナの友人たちが下したフェンネルに関する評価には、続きがあった。

『美形』のうしろに『のに』『だけど』が必ず付いた。

『顔は良い、浮気性』『美形、ナルシスト』こんな具合だ。

高い評価と低い評価、その相反する表現を同時に行う場合、後者が優先されることは自明の理である。

『浮気性だけど顔は良い』と言われれば『欠点はあるものの総合的には及第点』になるが、その逆の場合は不合格ということになる。

 

「それではお姫様せんぱい、不肖このフェンネルめが、貴女のナイトカレシを務めさせていただきましょう」

 

「えっっっ!? ほ、本当!? うわぁああ助かるよぉ!!! ・・・っ?」

 

自分が非常識な依頼をしている自覚があるだけに、まさか承諾してくれるとは思っていなかったエスヒナは大歓喜した。

これで義父さんを安心させられる。

そして、喜びの握手をしようとエスヒナが差し出した手を、フェンネルはその場に膝をついて受け取った。

さらにそのまま手の甲に口付けをし、予想外の言葉を続けた。

 

「ですが愛する人マイスウィートエスヒナ先輩、これだけはお伝えしておかねば。純粋無垢ピュアな僕は嘘をつくことができないのです。つまり、を演じることはできません・・・」

 

「へ? ・・・じゃあ、どうするの・・・」

 

「こう、するんですよ?」

 

手へのキスにも少し驚いたエスヒナだが、彼氏役ができないという言葉にはもっと驚いた。

そして、この次のフェンネルの行動にはもっともっと驚かされるのだった。

地面に片膝をついた状態でエスヒナの手を取っていたフェンネルは、言葉と同時にすっくと立ち上がり、その手を引いた。

不意を突かれたエスヒナはよろけるようにフェンネルに倒れかかるも、しかし片手を支えられているので体がくるりと反転する。

その上体を支えるよう、背中から腰にかけて腕を回したフェンネル

気付けばエスヒナは、フェンネルの腕の中にすっぽりと収まっていた。

さらに空いている手でエスヒナの顎をクイッと上げると、顔を近づける。

 

「こうしてしまえば、嘘じゃなくなります、ね?」

 

唇が触れる寸前で接近を止め、にっこりと微笑んだフェンネル

しかしその真意はエスヒナに伝わらない。

されるがままの状態で目をパチクリさせつつ問い返す。

 

「ん? どゆこと?」

 

「あっははは! なんて奥ゆかしいんだ可愛い人マイラバエスヒナ! 恥ずかしがり屋の君にはストレートに伝えた方が良かったかな? つまり彼氏役じゃなく、本物の彼氏になれば良いってことさ」

 

当然と言えば当然のことなのだが、フェンネルの大袈裟な動作とやたら通る声のせいで、二人は異常に目立っていた。

人垣とまではいかないが、周囲には遠巻きに二人を眺める生徒が徐々に増えている。

しかし、そんなことが気にならないほど、エスヒナはただただ感心した。

 

「ほ、本当だね! そっか、そうすれば義父さんに嘘つかなくても良いんだ!」

 

自分が本当の彼氏を作る、つまり、誰かと交際するという手段を、ハナから考えていなかったエスヒナ。

これは正に目からウロコの発想だと思った。

 

「OK。じゃあ今から正式に、彼氏と、彼女だねッ☆」

 

微笑みとともに、語尾から星が飛び出てキラリと輝いた。

ように見えた。

そして気付けばごく自然に敬語を使わなくなっていたフェンネル

衆人環視のもと、一瞬にして成立した男女交際。

朝っぱらからゲリラコントを見せられたような状態の生徒たちは、やがて始業が近いことを思い出し、それぞれの教室へと移動しはじめる。

そう、時は朝の始業直前。

場所は学園の正門。

そんな悪目立ちの極致で行われたセンセーション。

そこに登場したのは生活指導のエルギス先生ション。

 

「おいおいお前たち! 青春するのは構わないが、そろそろ始業のチャイムが鳴るぞ? ほら、教室までダッシュ・・・と言いたいト、コ、ロ、だ、がっ、廊下は走っちゃあいけないなッ! よぅし! 先生と一緒に競歩だ! そぉれっ!!」

 

こうしてエスヒナは、人生初の彼氏をゲットすることになった。

 

 

「聞いたよエスヒナ・・・そんなに切羽詰まってたの・・・?」

 

休み時間。

声をワナワナと震わせながら、涙目のキリコがやってきた。

しかしそんな言葉を掛けられたエスヒナは、何の事だか分かっていない様子。

 

「そりゃあさ、あたしたちは花の女子高生だよ? 青春ド真ん中だよ? あたしだって彼氏の1人や2人は欲しいんだぜ? それにしたってよ、フェンネルに手ぇ出すか!?」

 

「リコちゃん、さすがに彼氏2人はマズいよ~」

 

「そこは流せよっ!」

 

「分かった」

 

「素直かっ!」

 

「あのね、あたし義父さんに『彼氏ぐらい居る』ってタンカ切っちゃってさ、そしたら義父さんが『じゃあ連れてこい』なんて言うから、ホント困ってたんだよ~」

 

「えっ? じゃあ、その・・・当面の代役みたいなものってこと? なんだそれならそうと早く言えよ~もぉ~」

 

あのキリコがツッコミ役に回ってしまうほど、エスヒナに彼氏ができたという状況は彼女にとってショッキングなものだったらしい。

しかし詳しい事情を聞いて、少し安堵した。

 

「うん。でもフェンネル君、役を演じるのは無理だから、本当の彼氏になってくれるんだって。だから、あたし義父さんに嘘つかなくて済んだんだよね。よかった~!ホント大助かりだよ~」

 

「待て待て待てぃ!! それって、やっぱ普通に付き合うってコトじゃないのか!?」

 

安堵は束の間に終わり、またもや慌てるキリコ。

机越しにがっぷり四つ、エスヒナに額を突き合わせ真剣な表情で迫る。

 

「あんたもう結構ウワサになってんだぞ!? 校門でフェンネルと三年女子がッ・・・キ・・・キ・・・キス・・・してたって!」

 

「え? ああ、あれ? やだな~、まだしてないよ? エルギス先生に止められてさぁ」

 

「『マダ』ッ!!!? 何言ってんだエスヒナ! 正気!? まだってことはつまり、い、い、いずれは・・・す、する・・・つもり・・・?」

 

エスヒナを心配しているのか、二人の関係が気になるだけなのか、自分自身でもよく分からなくなってきたキリコ。

しかしハタと自分の使命を思い出した。

 

「あのなエスヒナ、親友として忠告するけど、本当にあのフェンネルだけはやめとけ! 良くない噂しか聞かないから!」

 

心の中で勝手に彼氏居ない同盟を協定していたエスヒナが交際を始めたことよりも、相手が悪いということに心配を向けるキリコ。

その友情は十二分に伝わってはいるものの、エスヒナは実際にフェンネルと対面し、そしてそんなに悪い印象を受けてはいなかった。

 

「ありがとうリコちゃん。来週の日曜日、義父さんに会わせるまでだから、大丈夫だよ」

 

「自分を大事にするんだぞ! マジで!」

 

 

そして放課後。

エスヒナは夕焼けに染まる校門でフェンネルを待っていた。

いつの間にかブラウスの胸ポケットに手紙が入っていたのだ。

恐らく朝のドサクサに紛れての仕業だろうが、なんとも周到だ。

 

『僕たち2人の放課後スウィートタイム出逢った場所アヴァロンで待っていてくれ』

 

ちょっと解読に時間がかかったが、放課後に正門ということだろうと解釈し、こうして待っている。

エスヒナとしては日曜日に家に来てもらうよう、頼まなければならない。

そこにようやくフェンネルがやってきた。

 

「あっ! フェンネルくん! やっほー!」

 

さっきまで普通に歩いていたのに、エスヒナに気付いた瞬間から舞うように移動し始めたフェンネル

 

バッ!

シュンッ!

クルクル・・・

ズザァー!

 

「随分待たせてしまったようだね大切な人エスヒナ。君の胸を焦がす罪な僕を許しておくれ」

 

「ん~大丈夫だよ~。今日は部活も無いし」

 

「つ・ま・り、この後は空いてるってコトだね? 奥ゆかしい君の誘惑の言葉モーション、聡明な僕には伝わっているから安心しなよ。どこか、行きたい場所があるかい?」

 

フェンネル君も暇なの? やった! じゃあちょっと話聞いてくれる? あ、でもあたし今月ちょっとお小遣いキビシイからお店じゃなくて、そこの公園でも良いカナ?」

 

こうして、学園近くにある公園にやってきたフェンネルエスヒナ。

朝はフェンネルの勢いに押されてなし崩し的に展開が進んだが、やはりエスヒナとしてはきちんと事情を説明し、その上で本当に引き受けるかどうかを決めて欲しかったのだ。

 

「でね、義父さんは本当のお父さんじゃないんだけど、あたしを引き取って、ここまで育ててくれたんだ。義母さんが早くに死んじゃったあとも、男手ひとつでさ」

 

「おお、なんという悲運・・・さぁ、涙をお拭き?」

 

フェンネルが差し出したハンカチを受け取ってはみたものの、特に使い道が分からず、持ったまま話を続けるエスヒナ。

別に涙など微塵も出ていない。

 

「あたしは実はまだ付き合うとか彼氏とか、よく分かんないんだ。でも、それで義父さんが安心するんだったらって思ってね。 ほら、次の日曜日って父の日じゃん?」

 

「ブラァッヴァ! なんて心優しいんだエスヒナ! 君の気持ちはよぉっく理解した。つまり、男性パートナーとして完璧パーフェクトなこの僕を交際相手フェアンセにすることで父君の心に巣食う将来への不安を取り除こうと、そういうワケだね?」

 

「? うん、まぁ、そーゆーコト・・・かな?」

 

難しいことはよく分からなかったエスヒナだが、世話になっている養父を安心させたいという趣旨が伝わったようなので、ひとまず胸を撫でおろした。

 

「で、僕たちはいつから付き合っている設定なんだい?」

 

しかしフェンネルの言葉に、エスヒナは狼狽せざるを得なかった。

そうなのだ。

仮にも付き合っているということになるのだから、それなりの『設定』を用意し、お互いにそれを『暗記』しつつ、当日の養父からの何気無い質問にサラリと回答できなければならない。

確かにあのとき自分が勢いでついてしまった嘘は、『いつから』などという詳細は語っていなかったが、それでも昨日今日というような短い期間というニュアンスでも無かった。

 

「実は・・・あたしホントにさ、付き合ったコトとか無いし、そーゆーのに疎いから、どういう風にするのが良いのか分かんないんだよ。アハハ・・・」

 

「つまり、そういう意味でも、愛の伝道師ラブエキスパートたる僕を選んで正解だったというワケだね。大丈夫、時間はあるさ。今から決める設定に追いつくよう、仲を深めようじゃないか」

 

そう言いながら、ブランコに座るエスヒナの顎に手を伸ばしたフェンネル

朝の続きと言わんばかりにスッと顔を近づける。

特に逃げる素振りも無いエスヒナ。

マジでキスする5秒前。

 

「あ゛ーーーーーーーッ!!!!!」

 

キリコが乱入してきた。

グッジョブ。

 

「待てゴルァーッ! 何やってんだこんなトコロでッッ!!!」

 

「あー! りこちゃ~ん!」

 

「おやおや、また僕のファンが1人嫉妬に駆られて・・・嗚呼、知らず知らずに恋を振り撒く僕を許しておくれ。大丈夫、愛の器キャパには自信がある僕だから、2人まとめて愛しアッッ!!!

 

エスヒナ! 大丈夫!?」

 

「私は大丈夫だけどたぶんフェンネル君が大丈夫じゃないよね?」

 

 

こうして、卑劣に迫る悪魔の手から親友の純潔を守ったキリコ。

親友のピンチに駆け付け鉄拳制裁も辞さない勇猛果敢なキリコ。

決して自分より先に彼氏を作ったことに嫉妬はしてないキリコ。

ホントだよ?本当に心配だっただけだよ?だから来たよキリコ」

 

「ねぇ、今ナレーションが途中からリコちゃんの声に変わったよね!?」

 

「そ、そう? 気付かなかったけど? あ、そんなことはどうでもいいんだ! あのなエスヒナ、コレだけはしっかり肝に銘じとけ!」

 

「う、うん?」

 

「空気も読まず段階も踏まずいきなりキスしようとする男にロクな奴ぁ居ねぇ!!!」

 

「分かった。覚えたっ」

 

「それにな、義父おやじさんだって、嘘をつき通されるより、素直に打ち明けられた方が絶対嬉しいはずだろ?」

 

「・・・そう、だね。うん。そうだね!」

 

 

結局、エスヒナに彼氏(?)が居たのはたったの半日程度だった。

しかも本人に自覚無し。

 

一方、キリコによる会心ツウコンの一撃をお見舞いされたフェンネル必要以上ドラマティカルに吹き飛び無駄ゴージャスに転がり、学園正面の道路で為す術なくラグジュアリーに大の字を描いていた。

それを遠巻きに眺める生徒たち。

「あれ、あのマスクって・・・」「さっき三年の女子とあっちに・・・」「今朝正門で派手な・・・」

口々にヒソヒソと話す声は次第に広がり、やがてまた人だかりができてきた。

下校時刻の学校前、こうならない方がおかしい。

そこへ、エスヒナに渇を入れたキリコが帰ってきた。

 

「あぁ~、今日は軽くシャドーだけして帰・・・ん?」

 

見れば、さっきブッ飛ばしたフェンネルを中心に人が集まっている。

 

(え? ちょ、マジか!? し、死んだ!?)

 

ちょっと本気で焦ったキリコは、さすがに前科者にはなりたくないとフェンネルに近付いた。

まずは生死を確認せねばならない。

証拠隠滅やアリバイ工作はとりあえず後だ。

そのとき、ヴェネツィアンマスクの奥でキラリと瞳が輝いた。

ガバッと起き上がるフェンネル

そして。

 

「戻ってきてくれたんだねキリコ! 嫉妬させてごめんよ! もう一人にさせない・・・あぁ、君に会えて僕は本当に幸せ者だ・・・さぁ、恥ずかしがらずに僕の胸へ飛び込んでおいで、可愛い女マイエンジェルキリコ!」

 

キリコはフェンネルの胸に飛び込んだ。

いや、正確には、キリコだ。

あと、正確には、フェンネルだ。

それと、正確には飛び込んだではなく

 

フェンネルの芝居がかった大袈裟な身振り手振りとセリフ、そしてキリコの容赦無い攻撃、物理的に不可能と思えるような放物線、星になったフェンネル

これらの要素は、周囲の学生たちがこの事態をフィクションと解釈するに充分な出来事だった。

彼らは口々に「あ、もしかしてこれ、劇の練習か何か?」「なんだよ、部活?人騒がせな」「じゃあ朝のアレもか?」「そりゃそうだろうよ」と囁き、そして解散した。

 

本当に星がきらめく夜空を見上げながら、フェンネルは校舎の屋上で目を覚ました。

 

「ふふふっ。照れ隠しが暴力的なトコロは玉にきずだけど、そこがまた可愛らしいトコチャームポイントでもある。ああ、どうして僕はこうもごうが深いんだろう!? 全ての女性に等しく愛を捧げようとしているのに、彼女たちは神に愛されたデラックスな僕に可愛い嫉妬を向ける・・・許しておくれよ世界中の女性達マイラヴァーズ!」

 

どこまでもキモい独白が、夜空に吸い込まれた。

 

同時刻。

 

「あぁあ~、今日もよぉっく働いたぜぇ~っと・・・?」

 

焼肉ゲンゴロウの営業時間が終わり、明日の仕込みを終えた池田いけだ源志郎げんしろうは、店の二階の我が家に帰ってきた。

普段なら自分の部屋に居ることが多いエスヒナが、なぜか居間で正座をしている。

 

「義父さんっゴメン!」

 

からの土下座。

 

「・・・おう、分かった。まず頭ァ上げな」

 

「うん・・・」

 

「で、どうした? 何か壊したか? 人様に迷惑かけたか?」

 

マスクと鼻骨が壊れ・・・

 

「あ? なんだって?」

 

「な、何でも無い! あのねっ、あの・・・こないだ、あたし・・・」

 

「おう」

 

「か、彼氏いるよって、言ったの、覚えてる?」

 

「おお。今度連れてくンだろ?」

 

「あれさ、嘘なんだ・・・ゴメン!」

 

「だろうよ?」

 

「へぇっ?」

 

源志郎の意外な返答に、素っ頓狂な声を上げたエスヒナ。

 

「し、知ってたの?」

 

「当ったりめぇよ。良いかヒナ坊、女ってなぁな? 色恋に目覚めたときから、そりゃあもう顔つきから何から全っ部ガラッと変わるモンなんだ。それがお前ェさんと来たら、何ひとつ変わらずじゃねぇか」

 

「うぐぐ・・・」

 

「まぁしかし、俺らオイラぁ安心したぜ。よく正直に言ったな! 適当に誤魔化すためにどっかの馬の骨でも連れてきやしねぇかと思ってたが、考え過ぎだったか!」

 

「ギクッ(リコちゃんありがとぉぉぉッッッ!!!)」

 

「ま、焦るこたぁねぇよ。その正直さがあれば、いつかどっかの誰かが貰ってくれらぁな」

 

「義父さん・・・義父さ・・・ん・・・? ちょっと義父さんッッ!!?」

 

源志郎の親心に触れ、はからずも感動の涙に瞳を潤ませたエスヒナだったが、その視界にふと、源志郎が腰に巻いている前掛けが映った。

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「えっ!? 何で!? ソレ、何で着けてるの!!?」

 

「おうっ! ありがとうなヒナ坊! コレ、くれんだろ?」

 

「そうだけど! だってソレ父の日用に・・・まぁた勝手にあたしの荷物開けたんでしょ!」

 

俺らオイラんちにある物を俺らオイラが開けて何が悪りィんでい!」

 

「年頃の女の子のもの勝手に触るってどういうことよ!」

 

「年頃の女の子ぉ? そーゆー物言いは恋人の一人や二人作ってから言うこったな!」

 

ぐぬぬぅー! 義父さんの馬鹿ぁー!!」

6月の花嫁

エコニィとラニッツが交際を始め、数カ月が経過していた。

ラニッツが一人暮らしをしていた家にエコニィが転がり込むかたちで、同棲をしている。

二人の仲睦まじい関係は村でも評判であり、結婚も間近ではと囁かれていた。

 

「よぉ! エコニィちゃん、今日も可愛いね。良かったらコレ、持ってくかい?」

 

「アラおじさんありがとう! すっごく助かるわ!」

 

「ありがとうございますダイコムさん。お代は後で届けますので」

 

「なぁに言ってんだよラニッツ。俺らオイラはエコニィちゃんにんだぜ?」

 

「それはいけません。いくら村の仲間とは言えこういうことはキッチリ・・・」

 

「まぁまぁ良いじゃないの。おじさん、ありがと! また今度お礼するわね!」

 

エコニィは村に来たばかりの頃と比べてずいぶん明るくなったと、村人は口々に言った。

恋をすると女は変わるなどと知った風なことを冗談半分で言う輩も居たが、あながち間違っていないようにも思われた。

 

「エコニィは本当に、村の人気者ですね」

 

ラニッツは苦笑いしながら、貰った野菜を抱えて歩くエコニィに言う。

 

「そうかな? それだけ馴染めてきてるなら、嬉しいことだわ」

 

葉の部分からひょっこりと出てきた虫をそっとつまみ、足元の草に放してやりつつ、エコニィは屈託の無い笑顔でラニッツを見上げる。

 

「私、本当に毎日幸せよ。ありがとう、ラニッツ」

 

少し前の彼なら動揺と赤面と冷や汗の三重奏に身悶えていたところだが、最近ではどうやら耐性がついてきたらしい。

まるで天使のような笑顔だ、と内心で惚れ惚れしつつ、しかし冷静に返すことができるようになっていた。

 

「私もですよ、エコニィ。愛しています」

 

 

こんな幸せな日々が永遠に続くと、思っていた。

ひとかけらの不安も無い、温かで柔らかな幸福の日常はしかし、不意に、崩れ去った。

 

 

灯りの点いていない薄暗い部屋。

ポニーテールのシルエットで、そこに居るのがエコニィだと判る。

机に両肘をついた状態で椅子に座っている。

もう、どれくらいこうしているだろうか?

胸が痛む。

ギリギリと締め付けられるような苦しさ。

自業自得。

なぜあんなことを言ってしまったのだろう。

 

「私は・・・大馬鹿だ・・・うっ・・・ラニッツ・・・ぅ・・・うぅぅ・・・」

 

溢れ出る嗚咽を必死に押さえつつ、それでも零れ落ちる涙は止められない。

こんこんと湧き出る大粒の涙は頬を伝い流れ落ち、机の上の書き置きを濡らす。

インクが滲んでしまったその手紙には、こう書かれてある。

 

『今日も遅くなります。先に寝ていてください。ラニッツ』

 

朝起きると、すでに彼の姿は無い。

ここ最近はいつもこんな調子だ。

彼は、他の女をとっかえひっかえ遊んでいるらしかった。

 

「うっ・・・ラニッ・・・ツ・・・ひっ・・・ひっく・・・」

 

後悔と自責の念に締め付けられたエコニィの慟哭だけが、部屋に響いていた。

 

 

タミューサ村に企業というものは未だ存在せず、村人は自給自足と物々交換で暮らしている。

村の人口の大半が農業を営んでおり、朝日とともに起き、日没とともに家に帰るような生活をしていた。

しかし手に職のあるもの、例えば鍛冶屋や薬師などは、特に毎日必ず仕事があるわけでも無かった。

必要なときに必要な働きをするだけ。

それは村の実働を担う、村長を始めとした幹部メンバーにも言えることだった。

つまりラニッツには、毎日朝早くに出掛ける用事など、無いはずなのだ。

最日は特に気にも留めていなかったエコニィ。

しかし翌日も、その翌日も、目が覚めると書き置きだけが机に置いてあった。

また、帰ってくる時刻も遅く、少し心配になったエコニィは、疲労困憊で帰宅したラニッツに尋ねてみた。

 

「おかえり。ねぇ最近どうしたの?」

 

「な、なんのことです?」

 

「朝も早いし、帰りも遅いじゃない。すごく疲れてるみたいだし」

 

「ああ、ちょっと、任務で・・・」

 

「ふ~ん。ま、あんまり無理しないでね?」

 

「ありがとうございます」

 

ラニッツは明らかに隠し事をしていた。

エコニィだから判るとかそういうものでは無く、もともと嘘が下手なのだ。

だが敢えて追及はしなかった。

言いたくないのなら、無理に言わなくても良いと思った。

しかし、次の日。

村の女性たちが集う井戸端会議の内容を、偶然にも耳にしてしまった。

 

 

「あんた、ラニッツさんとこ、行った?」

 

「いやねぇもう、私みたいなオバサンじゃダメよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「なんでも、若い子ばっかり呼んでるみたいよ?」

 

「まぁそりゃそうよね。だってエコニィちゃんが・・・」

 

「あのっ!」

 

「わあっ!エ、エコニィちゃん!?」

 

「あの、今の話・・・」

 

「えっ? 何のことだい? さぁ仕事仕事! ああ忙しい忙しい!」

 

「あ、あの・・・」

 

挙動不審な奥様方は一瞬で解散してしまった。

どういうことなのだろうか・・・。

ラニッツが、若い子を呼んでいる?

どこに? 何のために?

エコニィは村長邸に走った。

エウス村長ならばラニッツの任務について知っているはずである。

しかし。

 

「つまりな、もしエコニィにラニッツのことを聞かれても、知らぬ存ぜぬで通すんじゃ。わかったな?」

 

「うん。でも何でそんなことするの?」

 

「男にゃ見栄ってモンがあるじゃろ。それに、エコニィから言われたらしいぞ? 『ナンバーワン』とか何とか・・・ラニッツのやつそれを気にして・・・ハッ! エ、エコニィ!?」

 

ダクタスとオジュサの会話を聞いてしまった。

その内容はまたもや自分たちのことだった。

 

「あの、ダクタスさん、さっきの話・・・」

 

「んんん!? 何のことじゃ!? ワシ最近物忘れがひどくてなぁ・・・のう、オジュサ?」

 

「えっ? ああ、うん。もう、しっかりしてよねダクタス~」

 

 

こうしてあからさまな隠蔽工作に遭遇したエコニィ。

しかし情報の一端を聞くことができた。

自分が何かラニッツに言ったらしい。

エコニィは彼との会話を必死で手繰った。

 

そして、思い当たるものが、あの言葉だった。

 

『きっと私は、ラニッツにとってのオンリーワンだと思うよ? それは分かる。でも、ナンバーワンじゃ無いんだよね。あんたさ、ちょっとくらい、他の女の子と遊んだって良いんじゃない?』

 

自分で発した言葉であることは間違いない。

だがそれは『昔の価値観』から出た言葉だった。

今まで男女交際をしたことの無いラニッツにとって、エコニィは唯一の存在である。

しかし、比較対象が存在しないことには、決してナンバーワンにはなれないのだ。

そしてエコニィには少なからず、ラニッツの中で一番になりたいという欲求があった。

ふとした瞬間、それを思わず言葉にしてしまったのだ。

吐いた唾は飲めない。

自分で自分の言葉に違和感を覚えつつ、しかし『まさかラニッツが今の言葉を本気にするとは思えない』という甘えもあり、特に訂正することも無かった。

それが、こんな形で返ってくるとは。

 

彼と二人で過ごすうちに、いつしか彼の価値観が自分に移ったのだと思う。

彼は自分の『唯一』であるし、自分もそうで在りたいと思う。

ならば『逆』もあるかもしれない。

自分の価値観が、彼に移ることだって考えられる。

彼は今、私を『一番』だと認定するために手当たり次第に女性と交遊している。

 

■失言■【ぷらいべったー】

※パスワードは「kis」と「bit」の間の1文字です。

※読まなくても何ら問題なく進められます。

 

「嫌だ・・・嫌だよぉ・・・ふぐ・・・うっ・・・うぅっ・・・」

 

彼が自分なんかより遥かに相性の良い相手を見つけてしまったらどうしよう。

考えれば考えるほど自分の欠点ばかりが頭に浮かび、ラニッツが自分を好きでいてくれる要素が何ひとつ思い当たらない。

彼の経験の無さの上に胡坐をかいて慢心し、浮かれ、とんでもない失言をしてしまった。

激しい自己嫌悪と後悔、焦りと寂しさで心が擦り切れてしまいそうになる。

 

そこに。

 

「・・・ふぅ・・・。おや? エコニィ、起きていたのですか? ただいま」

 

ラニッツが帰宅してきた。

気付けば時刻は深夜をまわっていたようだ。

疲労困憊を絵に描いたようなラニッツだったが、すぐにエコニィの只ならぬ気配を察した。

 

「ど、どうしました!? 何かあったのですか!?」

 

駆け寄り、少し背を曲げ、小柄な彼女に視線を合わせる。

ラニッツの目が、泣き腫らしたエコニィの目と交差する。

途端にエコニィの顔がくしゃっと歪んだ。

 

「うええぇぇぇぇッッッ!! ラ゛ニ゛ッヅゥゥ~~~!!」

 

抱き付き、泣きじゃくるエコニィ。

事態が飲み込めないラニッツは驚いたものの、すぐにその体を優しく抱き締め、落ち着くまで頭を撫でてやった。

 

「ごめっ・・・なさっ・・・ひっぐ・・・うっ・・・は、離れ・・・ない、でっ・・・ううっ・・・」

 

なぜ彼女が謝るのかさっぱり分からなかったが、ラニッツはできるだけ優しく、答えた。

 

「私はどこにも行きませんよ。ずっと貴女と一緒です。よしよし」

 

どれほどそうしていたのか、ようやくエコニィは落ち着きを取り戻してきた。

鼻をすすりながら途切れ途切れで経緯を話す。

 

「わ・・・わたっ・・・私が、あんなこと、言ったからっ・・・ラニッツが・・・ほ、他のっ・・・」

 

「分かりました分かりました。もう大丈夫ですよ。落ち着いて」

 

ラニッツはもう一度エコニィを優しく抱き締めると、そのままの姿勢でそっと囁いた。

 

「心配をかけてすみませんでした。でも安心してください。私がここ最近出掛けていたのは、そんな理由では、決して、ありません」

 

そしてゆっくり抱擁を解くと、エコニィの手を取り、家の外に誘った。

彼女は為されるがままついて行く。

泣いて体温が上がった肌に夜風が涼しく、心地良かった。

しばらく歩いた。

ラニッツは散歩で気分転換でも図ろうとしているのだろうか。

幾分かまともな思考ができるようになったエコニィが考えていると、ポツリポツリとラニッツが話し始めた。

 

「貴女がそんな不安を抱えていたなんて、本当に申し訳ありません。ただ、どうしても秘密にしておきたかったんですよ」

 

「・・・何を?」

 

「・・・以前、貴女が夕食を作ってくれたときのこと、覚えていますか? 交際し始めて1月の・・・」

 

「うん。覚えてる」

 

そのとき、エコニィは普段よりも張り切って、少し豪勢な夕食を準備した。

自分でも美味しくできたと思ったし、ラニッツも褒めてくれた。

とても嬉しかった。

 

「その時、貴女は言ったんです。もうちょっと広い台所だったら、もっとすごいご馳走が作れるってね」

 

そう言われれば、確かにそんなことを言った記憶がある。

自分で言っておいて何だが、特に深い意味は無い発言だったので忘れていた。

 

「その時に決心したんです。で、やっと、今日、ようやく完成したんです。さ、到着しましたよ」

 

ラニッツが笑顔で示すその先には、建物らしき影が見えた。

月明かりに照らされたそれは、近付くと真新しい木材の香りがした。

 

「あ・・・これ・・・うそ・・・」

 

エコニィは軽くパニックになっている。

目の前のそれはどう見ても新築の家だった。

そして玄関の前には『ラニッツ&エコニィ』と書かれた立て札が。

 

「本当は明るくなってからお披露目の予定だったのですが、月明かりの中でというのも味があって良いですよね?」

 

ここ最近ラニッツが家を空けていたのは、この新居の内装を整えていたからだった。

若い女性が好むようなセンスが自分に無いことも十分に理解していた彼は、村の年頃の娘たちに色々とアドバイスを求め、エコニィが気に入るようなインテリアを目指していたのだ。

 

「これぐらいはきちんと用意してからでないと、自信を持って言えないですからね」

 

と、前置きしたラニッツ。

すぅっと息を吸い込むと、意を決したように言った。

 

「エコニィ、貴女を愛しています。どうか、これからもずっと、私のそばに居て欲しい。結婚してください」

 

 

■このあと滅茶苦茶※※※■【ぷらいべったー】

※パスワードは「kis」と「bit」の間の1文字です。

※読まなくても何ら問題なく進められます。

 

 

所によっては雨季でもあるこの時期、しかしタミューサ村においては、雲ひとつない快晴だった。

抜けるような青がどこまでも続く空に、それと同じ色をした真っ青な花弁が舞っている。

ミィニという名のこの花は、キスビットでは特別な意味を持っている。

 

「エコニィ、おめでとう!」

 

ラニッツ!やったなぁ!」

 

村人たちが口々に祝福の言葉を掛ける。

その先には、まるで空に浮かぶ雲のように真っ白な衣装を身に纏った、ラニッツとエコニィが居た。

青い空、緑の草原、真っ白い服の二人。

そこに、人々から空と同じ色のミィニが投げられ、風に吹かれてゆく。

牧歌的かつ幻想的な光景が広がるこれは、結婚式だった。

衆人は祝福の青で二人の門出を彩るのだ。

村の牧師が二人の前で神に祈り、報告し、祝福を乞う。

ラニッツとエコニィは互いに誓いの言葉を交わした。

ここに、新たな夫婦が誕生した。

キスビットに棲む魔獣たち

キスビットに生息する生物は、大きく分けて二通りです。

愛玩用や家畜として、民の生活に深く関わり、その生態の詳細が解明されているものと、飼育や調教が不可能だとされる野性の動物です。

前者はごく普通に『動物』と呼ばれ、後者は『魔獣』と呼ばれます。

ちなみに現在は動物として扱われているものも、過去には魔獣でした。

つまり魔獣の中から、手懐ける方法や飼育の手段などが解明され、安全性が確保された種が動物認定を受けていくというわけです。

 

今回は三種の魔獣について説明します。

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■オノドン -onodon-

草食魔獣。

巨体に似合わず、非常に臆病な性格をしている。

鼻から額にかけて伸びるなたの刃のような鋭利なツノを器用に使い、樹木の新芽や果実などを切り落として食べる。

定期的に地面や巨木の幹、岩肌などにツノを擦り付ける習性があり、これによってツノの鋭利さが保たれている。

敵と認識した相手からは逃げ出すのが基本だが、逃げる場所が無かったり、相手の方が足が速かったりなど、逃げ切れない場合には応戦することもある。

その場合、鋭いツノを振り乱しつつ、装甲のような厚く硬い皮膚に包まれた巨体で突進してくることが多く、大抵の相手は一瞬で肉塊と化す。

 

 

■アカゲンサン -akagensan-

肉食魔獣。

鋭いツメと長く鋭利なキバを持つ密林のハンター。

高い身体能力も去ることながら、最も恐ろしいのは彼らが連携したときである。

基本的に捕食目的以外での狩りはしないため、満腹時であれば真横を通っても襲われることは無い。

しかしいざ食事認定されてしまえば、彼らから逃げ切ることは非常に難しくなる。

一頭のメスを中心に、三~四頭のオスと、その仔らで形成される集団でひとつのナワバリを管理する。

 

 

■ライハジン -raihajin-

雑食魔獣。

長い手足と、長い尻尾を器用に使い、木の上で暮らしている。

個体同士が独特な鳴き声でコミュニケーションを図っているらしく、しばしば、まるで会話のような鳴き声の応酬が聴こえる。

現在では与太話扱いをされているが、その昔『長く生きたライハジンは魔法を使う』と信じられていた。

それほど知能が高いということだ。

ただしそれも、人類で言えば3~4歳児並みの知能とされている。

 

※実はタミューサ村の村長エウスーファンは、若かりし頃に魔法を使うライハジンに遭遇している。

しかし1,000年の歴史がそっくり入れ替わってしまった現在、そのライハジンが未だ密林に生息しているのかどうかは不明である。