ライスランドへ

私たちは、ひょんなことから潜入捜査を行うことになりました。

かつて私たちの国、キスビットを救うために死力を尽くしてくださったカウンチュドさんからの依頼とあれば、断ることなんてできません。

しかも、邪神ビットが関わっているかもしれない怪事件と聞かされては尚更です。

 

「まだ可能性の話なのだが、しかしあの邪神ビットが関わっているかもしれないとなれば、村長らに報告しておかねばならんと思ってな」

 

カウンチュドさんは真剣な表情で話してくれました。

それを聞くエウスオーファン村長も、とても深刻な顔で聞いていました。

 

「なるほど・・・謎のゴーレムか。確かに、所有者や術師が不在のゴーレムが自然発生することは考えにくいな。よし、調査に行こう」

 

こうして私たちはカウンチュドさんの祖国、ライスランドへ行くことになりました。

エウス村長以下のメンバーは次の通りです。

まずオジュサさん。

実際に邪神ビットが関わっているとしたら、その精霊的要素を感じることができるかもしれない、キスビット由来の精霊が居た方が良いとの判断でした。

次にエコニィさん。

あの戦いの中、キスビットメンバー内では対ゴーレム戦闘を最も多く経験していたので、本当にゴーレムが邪神によるものであれば何か気付くかもしれないということでした。

そしてエスヒナ。

自分だけがあの戦いに参加できなかったとひどく悔やんでいて、もし次に何かあれば真っ先に声を掛けて欲しいと村長に言っていたみたい。

そして最後に私、アウレイス。

肉体を邪神の依代よりしろとして利用されてしまったこともあり、共鳴など何らかの反応があれば邪神をいち早く感知できるかもしれないから。

 

「いずれもあの邪神との戦いを共に経験した者たちだから申し分無いが、しかし逆に言えば奴と面識があるということだ。効果があるかどうかは分からんが、気休め程度に変装は必要だろうな」

 

カウンチュドさんの心配も、もっともだと思いました。

もし仮に邪神ビットがライスランドで何かを企てていたとして、そこに私たちが現れれば警戒するでしょう。

今回の調査が空振りになってしまう可能性もあります。

だから、なるべくライスランドに溶け込めるような自然な変装は必須だと、みんな納得していました。

準備のために先に帰国したカウンチュドさんを追いかけるように、私たちは数日後に出発しました。

船がライスランドの港に到着すると、カウンチュドさんは大きな荷物を抱えて出迎えてくれました。 

潜入の始まりです。

 

「じゃあエウス村長はこの服に着替えてくれ。それから、そうだな、名前もライスランド風にしておいた方が良いだろう。エウスチャーハンでどうだ?」

 

「分かった。私はエウスチャーハンだな」

 

「次はアウレイス。お前はこれを着てくれ。そして名前は・・・アウライスで良いか」

 

「えぇ・・・はい、分かりました・・・アウライス・・・アウライス・・・」

 

「オジュサはこれを着ろ。サイズは間違いないはずだ。名前は、ジュンサイだ」

 

「は?なにそれ、ボクがオジュンサイ・・・?オジュンサイってなんだろう・・・」

 

「それからエコニィはこの衣装だ。名前は、そうだな、炊き込みぃだ」

 

「タキコミィ・・・ねぇ、名前がなんかどんどん適当になってない?」

 

「最後にエスヒナはこれに着替えるんだ。そして名前は、う~ん・・・エスニック支那そばで行こう」

 

「・・・あたしだけ妙に長くない?え、エスニックシナソバ・・・?」

 

こんな感じで、私たちはカウンチュドさんが用意してくださったライスランド風の衣装に着替え、ライスランド風のコードネームを付けてもらい、ライスランドを歩き始めたのでした。

 

のですが。

 

「・・・ッしまった!みんな隠れろ!」

 

港から街までの道を歩いていた時です。

カウンチュドさんが急に声をあげました。

 

「あれを見ろ、アレが謎のゴーレムだ!」

 

「・・・あ、あれが?えっと、あの・・・カウンチュドさん?」

 

「なんだアウライス、何か気付いたことでも?」

 

「いやぁ~・・・ねぇ、本当にあれが今回のゴーレムなの?」

 

「おいジュンサイ、何が言いたい?」

 

私たちが呆気にとられて絶句したのも無理ないことだと思います。

だって、カウンチュドさんが示した方向に居たのは・・・。

 

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「カウンチュド・・・あの白黒のやつが、そうなの?」

 

「何度も言わせるな炊き込みぃ、ヤツがそのゴーレムだ」

 

「ねぇねぇ、あの白い部分ってもしかしてお米?」

 

「その通りだエスニック支那そば。よく分かったな」

 

私たちは、そこにドドンと立っている大きな白黒のゴーレム(?)を、茫然と眺めていました。

そして、沈黙を破ったのはエスヒ・・・エスニック支那そばでした。

 

「あれって、おにぎりだよね?」

 

「ゴーレムだ!」

 

「でも白い部分は?」

 

「炊いた米だな」

 

「黒い部分は?」

 

「海苔だな」

 

「じゃあやっぱおにぎりだよね?」

 

「ゴーレムだ!」

 

「ねぇねぇ、ほらこれ、お昼に食べようと思ってたお弁当ね」

 

「おお、そう言えば腹が減ってきたな」

 

「待って待ってそうじゃなくて、ほらこれ」

 

「ん?それがどうした?」

 

「この、ご飯を握って海苔で巻いたやつ、何て言う?」

 

「馬鹿にしているのか?おにぎりだろう」

 

「そうそう。じゃあ、アレは?」

 

「ゴーレムだ!」

 

ここでエウス村長がクスクスと笑い出しました。

もう我慢できないといった様子で、肩を震わせながら。

 

「なんだ村長、もうバラすのか?」

 

「いやカウンチュド、さすがにアレでゴーレムは無理があるな。よし、私から説明しよう」

 

エウス村ちょ・・・エウスチャーハン村長はそう言うと、今回のことを説明してくれました。

あの戦いのあと、みんなそれぞれに思うところがあって、気分が落ち込んでいたり深く悩んでいたりしました。

自分があのときこう動いていれば、もっと自分に力があれば・・・。

そんなタイミングで、キスビット国内の周遊を終えたカウンチュドさんが帰国前にタミューサ村に寄ってくれたんだそうです。

村長とカウンチュドさんは二人で話し合い、気分転換に海外旅行はどうだろうということになりました。

 

「どうせなら三杯酢を仕掛けたいと思うが」

 

「それを言うならサプライズだろう?私は構わんよ」

 

カウンチュドさんのアイデアは、もう一度邪神ビットに対峙する緊張感と、それが杞憂に終わるという緩和によって、精神的なリラックス効果を期待するものでした。

一足先にライスランドに帰国したカウンチュドさんは仕掛けのゴーレム作成に取り掛かり、村長は手はず通り私たちを連れて出発した、ということでした。

ちなみにメンバーの選出は、落ち込みが激しい順だったそうです。

ダクタスさんは休養時間さえあれば復活できるし、ラニッツさんは新しい任務を与えれば立ち直るだろうとのことだったので。

 

「つまり、これは潜入捜査ではなく、か、観光旅行・・・ですか?」

 

「平たく言えば、そうなるな」

 

「わざわざそんなことのために、ボクたち用の衣装まで用意したの?」

 

「せっかくライスランドに来たんだ。国の文化に触れるのは良いものだろう?」

 

「よし、せっかくだから記念写真を撮ってやろう。そこに並べ」

 

「え・・・いや、あの・・・」

 

「村長は真ん中で、こうやって構えてくれ」

 

「こんな感じで良いか?」

 

「おっ、サマになってるな!」

 

「エウス村長・・・なんでそんなにノリノリなんですか・・・」

 

アウライスは隣でこう、祈るようなポーズをだな」

 

「もうアウレイスで良いですよね?・・・えっと、こう・・・ですか?」

 

「そうだ。いいぞいいぞ。じゃあジュンサイは・・・」

 

「ボクはもうこれで良いよ」

 

「ほう、よく分かってるじゃないか。それがベストだぞ?」

 

「適当に座っただけなのに・・・」

 

「じゃあ炊き込みぃアウライスの横へ」

 

「私、このヘルメット脱いで良いの?」

 

「そうか、そりゃそうだな。もちろん脱いでくれ」

 

「じゃあいつもの髪型にするからちょっと待って」

 

「あとエスニック支那そばジュンサイの横だ」

 

「ねぇオジュサ、あたしにそのゴーグル貸してくんない?」

 

「やだよ。これはボクの衣装なんだから」

 

「ちぇ~。なんだかんだ言って気に入ってんじゃないの」

 

「よぉし!じゃあ撮るぞ!俺が『三度の飯より』と言ったら『おにぎり』と言うんだぞ?」

 

「なにその合図・・・初耳なんだけど」

 

「『おにぎり』と言えば自然と笑顔になるだろう?さぁ、『三度の飯よりぃ~?』」

 

カシャッ

 

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