↑時系列としてはこれの続きです。
「ボク・・・ハロウィン好きじゃない・・・」
カボチャの被りモノをゴロリと床に転がして、オジュサが言った。
その瞳には光が無く、『ジャック・オー・ランタン』という名称を耳にしたときの輝きはすっかり失われてしまっていた。
「わしもコレ・・・アイタタタッ!」
腰が曲がっているのでマントの裾が地面についてしまうダクタス。
歩くとその裾を踏んでしまい首が後方に持っていかれ、腰に大ダメージとなる。
ダクタスはマントを取り去った。
「一度着ておいて何だけど、ごめんラニッツ。私これ着て出歩けないわ」
エコニィはそそくさと更衣用の部屋へ戻り、いつもの格好に着替えてしまった。
大剣をガシャリと担ぐと、満足そうな表情で小さく「よし」と言った。
「み、みなさんっ!考え直してください!村の大切な催しなのです!」
ラニッツの言葉はしかし、彼らの耳には届かなかった。
ただ一人を除いて。
「ねぇラニッツ、あたしもエコニィの猫が良い!エコニィが要らないならあたしが貰っても良い?」
「ダメですよ!他の誰かに代わってもらうのですから!」
すでにラニッツの頭の中では仮装案内人を引き受けてくれそうな村人のサーチが始まっていた。
他ならぬエウス村長からの依頼なのだ。
絶対に失敗するわけにはいかない。
「ちぇ~。ラニッツのケチっ。ケチラニッツっ。ケチッツ。ケツっ」
意味不明な悪態をつくエスヒナに構わず、ラニッツは屋敷を飛び出した。
一刻も早く代理を見つけなければ。
その場にポツンと放置されてしまったエスヒナ。
「・・・おおっ!閃いたッ!あたし天才かも!」
嫌な予感しかしない言葉を発しつつ、ダクタスの家に向かった。
恐らく家路をたどれば帰宅途中のダクタスに追いつけるはずである。
そう思いながら駆けていくと、予想通り腰の曲がった背中が見えてきた。
「おーい!ダクタスー!あたしに猫の耳としっぽを付けてよぉー!」
エスヒナの名案とは、こういうことだった。
物や人の外見を変えることができるダクタスの能力で、エコニィのような猫の格好を創出すれば、わざわざ衣装を着る手間も省けるというものだ。
「んん?エスヒナか?お前も物好きじゃのう。どれ、・・・ほいな」
ダクタスが能力を発現すると、包帯ぐるぐる巻きのエスヒナに猫の耳としっぽが現れた。
「それで良いかの?」
「うん!ありがと!」
ブンブンと手を振りながら元来た道を駆けて戻るエスヒナ。
本人としてはミイラをやめて猫娘になるつもりだったのだが、ハイブリッド猫ミイラの姿を気に入ってしまったエスヒナ。
すれ違う村人に陽気な挨拶を繰り返す。
「にゃおー!たーべちゃーうぞー!」
「ハッピーハロウィーン!にゃはははは☆」
皆は苦笑しつつも「すごい仮装だ」「エスヒナらしい」「可愛いね」と褒めてくれた。
気を良くしたエスヒナは日が暮れるまで村を練り歩いた。
「・・・ん?ありゃ?」
気付いたことが2つあった。
ひとつ目は、周囲が暗くなっていること。
いつの間にそんなに時間が経ってしまったのか。
ふたつ目は、ミイラの衣装である包帯がずいぶん解けてしまっていること。
一日中歩き回ったおかげで緩んだのだろう。
「あれ・・・上手く巻けない・・・暗くて、見えない・・・」
解けた包帯の先は絡まり結ばれ、容易には巻き直せない状態である。
こうなったらまず一度完全に解いてしまった方が早いかもしれない。
そう考えたエスヒナは地ベタに座り込み、絡まった包帯を解くことに専念した。
「まさか全員に断られるなんて・・・」
ラニッツは半泣き状態だった。
村中を駆けまわりイベントの協力を申し出たのだが、やはり仮装がネックとなり誰も引き受けてくれる者が現れなかったのだ。
仮装を諦めて普通に案内役を立てれば良さそうなものだが、一度決めた事柄を曲げられない不器用さも、ラニッツの魅力である。
と、もうすっかり暗くなってしまった道の先に、なにやら動くものが見えた。
「こ、こんな時間に・・・誰ですっ?」
「呼んだかにゃ~?」
「ぎゃあああああーっっっ!!!!」
自分の持つランタンの明かりに照らされた化け猫がくるりと振り返り、返事をした。
ラニッツは大声で叫び反転したと思ったら猛然と走り始めた。
「今の声は、ラニッツ?どしたんだろ?」
包帯が解けないまま悪戦苦闘するエスヒナの元に、ラニッツが呼んだ自警団が駆け付けたのはそのすぐあとだった。
「ちょっ、ちょっとみんな!包帯巻くまで待ってよぅ!」
「え?あれ?エス・・・ヒナ・・・さん?」