キスビットの大陸中央を東西に分断するように流れる大きな河川、エイアズ ハイ川。
その川を遡上し、タミューサ村へ向かう輸送船の仮眠室。
ルビネルは旅の疲れを理由に、休息を取っていた。
↑上記、フールさんのSSの、最後の一行の直前に挿入されるオハナシです。
是非フールさんのお話を読んでから、お進みください。
「ええ。約束するわ。引きずり出してでもあなたを迎えに行くから!」
今まで自分に良くしてくれた人は多く居た。
村長のエウスオーファンをはじめ、村の人々は皆自分に優しくしてくれる。
しかし、出逢って間もないルビネルがなぜこんなに好意的なのか、アウレイスには分からなかった。
他の人たちと何が違うのだろう?
ルビネルと話していると、とても安心する。
自分がここに居ても良いと思える。
認められているような気がする。
求められているような気がする。
なぜか、アウレイスの瞳からは自然と涙が流れていた。
「こっちにいらっしゃい、アウレイス」
涙の理由も問わず、優しく呼びかける。
ルビネルはベッドに腰掛けたまま隣にアウレイスを誘う。
「あの、ルビネル・・・お、お願いがあるんだけど・・・」
隣に腰を下ろし、おずおずと、探るように言葉を紡ぐ。
なぁに?と囁きながら肩に腕を回すルビネルに、アウレイスは続ける。
「アウリィって、呼んで欲しい・・・ダメ?」
ルビネルは気が遠くなるほどの愛しさを覚えた。
この子の上目遣いにNOと言える人なんて居るのかしら?
しかも愛称で呼んで欲しいだなんて、可愛いにも程があるわ。
「もちろん構わないわよ、アウリィ」
どれだけ精神的に腰砕けていても、そう容易くポーカーフェイスを崩さないのがルビネルだ。
主導権を握るのはいつだって自分なのだ。
「良かった!ありがとうルビネル!」
破顔して抱き付いてくるアウレイス。
そのまま背中に腕を回し、ルビネルは優しく銀髪を撫でた。
「良い子ね、アウリィ・・・」
自分からベットに倒れ込んでアウレイスを引き寄せるか、それとも押し倒すかの二択でルビネルが迷っていると、アウレイスの告白が始まった。
お互いに抱き合い、肩の上にあごを乗せるような体勢のため、自然と耳元でささやくことになる。
「アウレイスって名前ね、嫌いじゃないのよ?でも、気軽に呼ぶには固い感じがしない?だからね、アウリィって呼ばれると、とても身近に感じられて安心するの。もっとも、そう呼んでくれるのは一人しか居なかったんだけどね。でもルビネルで二人目。嬉しいな」
突然、ルビネルの内から嫉妬の感情が湧き起こった。
皆が愛称で呼んでいるのなら構わない。
自分だけならばなお良い。
しかし二番目?
今までこの子を愛称で呼んでいた唯一の存在とは誰なのか。
「それ、誰なの?」
意図せずきつい口調になってしまった。
その短い質問に、一瞬その意味を考える間があった。
「えっと、エスヒナって子よ?村に来た時期が同じで、親友なの」
そうか。
ルビネルは突然理解した。
親友と聞いて湧き起こる安堵の感情と、それでもまだ消えない嫉妬の炎。
私、アウリィの全部が欲しいんだわ。
現在も未来も、過去までも・・・。
そんなこと、できるはずもないのに。
「私は自分で思っていたより、ずいぶん欲張りだわ」
少し自嘲気味に言うルビネルに、アウレイスは戸惑うばかり。
「え?何?どうしたの?」
「何でもないわ。アウリィが、欲しいってだけ・・・」
押し倒すことに決めたルビネル。
アウレイスも抵抗することなくベッドに倒れ込む。
「あ、あの・・・もうひとつ、お願いが・・・」
頬を赤く染め視線を逸らしながら、アウレイスは言った。
次の言葉がなかなか出て来ない。
よほど勇気のいる要望なのか。
それでもルビネルはじっと、待った。
そして、耳まで真っ赤にしながらやっとアウレイスが囁いたのは、なんとも奇妙な言葉だった。
「や・・・優しく、しないで・・・」
「え?」
今までルビネルは、優しくしてと言われてきたことは何度もあった。
しかし。
「どういうこと?」
疑問を口に出してから、ルビネルは後悔した。
すぐに答えにたどり着いたからだ。
しかし発した言葉は飲み込めない。
瞬時に路線変更だ。
「さぁ、どういうことか、自分の口で説明しなさい」
ルビネルは敢えてキツイ口調を選んだ。
その言葉だけで、アウレイスの吐息が熱いものに変わった。