Bブロック 第1試合

Bブロック 第1試合
名前 朽神庭キュウカンバキウリ
種族 サターニア
性別 女性
性格 根暗
特徴

皮膚が緑で頭に皿があって背中に甲羅を背負ってる。

背中の甲羅が超硬くて防御力が高い。

泳ぎが上手く水中戦なら負け無しだが陸上では実力の半分も出せない。

頭の皿が乾くと失神する。

能力

怪力

VS
名前 焼煮炊やくにたきせいろ
種族 精霊
性別 男性
性格 お料理大好き
特徴

調理の神を信仰している。

能力

対象の口の中に思い出の味を再現することができる。

大嫌いな食べ物の味を口いっぱいに広げるのが攻撃。

ただ相手に嫌いな食べ物が無ければ何の効果も無い。

対象が食べた事の無い味を再現することはできない。

 

早く終わらせておうちに帰る・・・早く終わらせておうちに帰る・・・

 

オレンジ色の長髪を両手で弄りながら口の中で何やらブツブツと呟いているのは、緑色の皮膚が特徴的なサターニアの朽神庭キュウカンバキウリだ。

対して、そのキウリの様子を注意深く観察しながら、不気味な呟きが呪文の詠唱などで無いことを確認する慎重派の精霊、焼煮炊やくにたきせいろ。

 

あなたに恨みはありませんが・・・倒します・・・

 

試合開始からしばらくは睨み合いが続いたが、その沈黙を破り特攻をかけたのはキウリだった。

重そうな甲羅を背負っているとは思えない突進力で、一直線に突っ込んでいく。

 

「やれやれ、河童を扱うのは初めてだが・・・決して食材を無駄にはしないのが俺の流儀だ。安心して調理されるがいい」

 

腰に巻くタイプのエプロンを勢いよく下方に振ると、パンッという小気味の良い音がした。

まるで闘牛士がマントで猛牛を誘って避けるような動きでキウリの攻撃を回避したせいろ。

そのまま落ち着ついた動作でエプロンを腰に結んだ。

突進をかわされたキウリだが、ここで少し様子が変わった。

顔にダラリと掛かっていた鬱陶しそうな長髪を両手でバサッと後ろ側へ跳ね上げる。

ずっと俯き加減だった顔をガバッと上げ、せいろを睨みつけながら啖呵を切った。

 

「ケケケッ・・・だぁれが調理されるってぇ!? あタイの拳であンタをタタキにしてやんよォォ!!」

 

『どうやら彼女は戦闘中に性格が豹変するタイプのようですね。呪詛が発動された様子は有りませんので、恐らくは持って生まれた性格なのでしょう』

 

『ふむ。自らを鼓舞して戦闘力を向上させる例はいくつもあるが、攻撃的な性格に変わることでそれを図るというのは少々珍しいな』

 

タニカワ教授とガーナ元国王の解説が耳に入り、ふぅと小さく溜息をついたせいろ。

筋力が向上したり何らかの能力が発動したりしたのではないことに安心したのだ。

料理人であるせいろにとって、まずは対戦相手しょくざいをじっくり観察してから調理法を決めるのがいつもの方法だった。

とにかく猛攻で活路を見出そうとする押しのキウリと、それを見事にかわしつつ戦術を練るせいろ。

風を切る音が聞こえそうな剛腕の連撃を止めたキウリ。

まさか防御すらせずに全てを見切られるのは予想外だった。

もちろん、防御したが最後、その腕ごとヘシ折るつもりだったのだが。

 

「へぇ・・・見掛けによらないねぇ? 少しは楽しめそ・・・ウッッ!!?」

 

長い舌でベロリと唇を舐めるキウリが、突然手で口を押さえて後ずさる。

ゆっくりと手を離し掌を確認するが、特に異変は見られない。

 

「どうした? 攻撃も受けていないのに口の中に血の味でも広がったか?」

 

「オイ! あタイに何をしたッ!?」

 

狼狽するキウリ。

戦闘中に口腔内が切れて出血することはよくあることだ。

しかし今に限って言えば、せいろが何か攻撃を仕掛けてきた気配は感じなかった。

それなのに口の中には血の味が広がっている。

ただ奇妙なことに、掌につけた唾液は無色であり、出血は確認できない。

 

「見えない攻撃に動揺しているのか? 見掛けによらず小心者だな、フン」

 

「う・・・うるせぇーーーッッッ!!!!」

 

我武者羅に腕を振りまわすキウリの攻撃を無駄の無い動きで回避するせいろ。

動けば動くほど口の中の血の味は強く、濃くなっていく。

 

「どうした? 焦っているのか? 動きが単調になっているぞ?」

 

余裕綽々よゆうしゃくしゃくといった様子でキウリを見下すせいろは、恐ろしい言葉を続けた。

 

「随分と血の味が酷くなったんじゃないのか? 五臓六腑を引き裂かれたら、そんな味がするんだろうなぁ?」

 

「ッ!?」

 

特に痛みも感じてはいないが、確かに血の味がどんどん強くなる。

仮に、せいろの能力が見えない刃で内側から斬りつけるものだったら?

本人にダメージを感じさせず致命傷になるまでギブアップすらさせないものだったら?

キウリは瞬時に最悪のケースを何パターンも想像した。

そうしているうちに、なんだかどんどん体が重くなっていくような気がする。

すぐに降参して能力を解除してもらった方が良いのでは・・・。

しかし。

 

「・・・舐めンじゃねぇよ・・・このあタイをッッ!! 舐めるんじゃねぇよッッッ!!!!」

 

痛みは感じない。

体はまだ動く。

ならば動けなくなるそのときまで戦いを放棄しない。

真に恐ろしいのは肉体の死ではなく、精神の死である。

腹を決めたキウリの咆哮がビリビリと空気を震わせる。

その気迫に、せいろは思わず一歩後退してしまった。

 

「やっとだ・・・やぁっとそのイケ好かねぇ澄まし面から余裕が消えたじゃねぇか・・・ケケケ」

 

そう言いながら、自らの気概に負けないほど重い一歩を踏み出したキウリ。

闘技場の石床が大きな音を立ててひび割れた。

 

『凄まじい震脚しんきゃくじゃが、床を壊しても反則にはならぬのか?』

 

『ルールには特に記載は無いな。ただ、あの床の破片で攻撃したりすると反則になるようだね。事前に申請した武器以外の使用を禁止する、という項目がある。それよりもあの破損自体が次の試合に影響しないか心配だ』

 

『問題無い。あの程度の破損は想定内だ。全試合で全設備が破壊されたとしても速やかに次試合を行えるよう、充分な物資をドレスタニアから運ばせてある』

 

『さすがは元王様と言いたいところじゃが、それ、あの側近的に大丈夫なのじゃ?』

 

『ぐ・・・』

 

『こら、そういう無粋なことを聞いてはいけないよ? この方はそこらへんの覚悟も決めた上でこの解説席に座っているんだから。それにこの会話はマイクを通して会場の皆さんに聞こえていることを忘れてはいけないよ?』

 

『ふむ。すまぬのじゃ』

 

キウリが更に強くもう一歩を踏み出して距離を詰める。

せいろは同じく一歩退く。

明らかに優劣が逆転したかに見えた。

しかし、この試合はここまでとなった。

キウリが次の一歩を踏み出すことなくその場に倒れ伏してしまったのだ。

 

「ふぅ・・・危ない危ない。あのまま特攻されたら勝てなかったな・・・」

 

じっとりと浮かんだ額の脂汗を拭いつつ、せいろが勝者の判定を受ける。

なぜか審判の姿は見えないが、確かにキウリへの10カウントもせいろへのウィニングコールもしっかり聴こえてくる。

状況が分からない観客たちはザワめいている。

 

『何が起こったのじゃ!? なぜあの者は急に倒れてしまったのじゃ!?』

 

『なるほど・・・時間稼ぎということか』

 

『資料によれば精霊の彼の能力は“任意の味を相手の口の中に味わわせることができる”というものらしいが、恐らくそれを駆使して時間を稼いだということだろう』

 

『分からん! 時間稼ぎは分かったが、なぜあのサt-ニアが倒れたのかが分からんのじゃ!』

 

『それはワタシが説明しよう。彼女の頭部に平滑な部分があるだろう? あの部位が乾き切ってしまうと失神してしまうというのが彼女の一族の身体的特徴だ。対戦相手の彼はその情報を事前に得ていたため、最初から持久戦に持ち込むつもりだったのだろう。料理人を名乗るからには、扱う食材に対しての入念な情報収集は当然の仕事だ。対して彼女はそれを怠った。もし最初から彼が回避に専念すると予測できていたならば、彼女にも闘いようがあっただろうからな。つまり、試合が始まる前から勝負はほぼ決まっていたということだろう』

 

『な、なるほど・・・あれ? おぬし、審判は?』

 

『ワタシの担当はAブロックの第1試合だけだ。今の試合の審判はライスランドから招いているらしい。誰もその姿を確認しては居ないがな』

 

『ん? あ・・・あの選手入退場口、あの陰になっているところに誰か居るぞ?』

 

『なんじゃタニカワ、そんなところに誰も・・・本当じゃ! ムキムキの誰かがいるのじゃ!』

 

『彼こそがライスランドから招待した審判だ。本名は私にも分からんが、腕と眼は確かだ』

 

『それはそうと、さっきから一定間隔で聞こえてくるこの地響きのような音は何じゃ?』

 

『ああ、恐らく今の試合でひび割れてしまった闘技場の石床の替えを運んでいるのだろう。力自慢の鬼に運搬係を依頼しておいた』

 

自分の勝利が確定しホッと胸を撫でおろしたせいろは、急ぎ足で会場のすぐ傍に設営されている救護テントに駆け込んだ。

そして何かを引っ掴むとすぐに踵を返し、倒れたまま動かないキウリの元に駆け寄った。

 

「・・・ん・・・ぅんん・・・」

 

せいろが手にしていたのは水が入ったボトルだった。

それをキウリの頭の皿にかけてやる。

枯れたようだった表情にみるみる精気が戻ってきた。

小さく唸っているところをみると命はあるようだ。

 

「・・・良かった。食わないモンは殺さない主義なんだ、俺は」

 

ズシーン・・・

 

ズシーン・・・

 

「・・・んん・・・あタイは・・・ハッ! し、試合!」

 

どんどん近くなる地響きで眼を覚ましたキウリが、水の入ったボトルを持ったせいろを見上げる。

瞬時に状況を察したキウリ。

ギリリと歯を食いしばり、そして吐き捨てるように言った。

 

「チッ・・・まさかあンタみたいなヒョロっこい野郎に命水みょうすいを差されちまうなんてね・・・あタイもヤキが回ったモンさ。ケケッ・・・いいぜ、事実は事実だ。あタイを丸ごとくれてやらぁ!!」

 

「・・・は?」

 

「・・・んーだよいちいち言わせんじゃねぇよこのダボがッ・・・あ・・・ぁ?」

 

ここでバサバサと逆立っていたキウリの髪の毛が急にしゅんとストレートになった。

試合開始のときと同じく、長い髪が顔に掛かっている。

 

あの、あ、あたいを・・・お嫁さんに・・・

 

「えっ?」

 

『な、何を言っておるんじゃあの河童女は! 妾にはもう何が何だか!』

 

『資料によれば彼女の部族は、乾燥による瀕死状態から救護することを“命水を差す”と表現し、適齢の者が異性に命水を差された場合、両者ともに他の婚姻関係が無ければその対象と結婚するしきたりがあるそうだ』

 

『なぁおぬし、その説明って会場中に聴こえて・・・』

 

うおぉぉぉーッ!!!

わぁぁぁーッ!!!!

パチパチパチッッ!!

 

会場は割れんばかりの歓声と拍手喝采

今ここで新たに誕生した夫婦の門出を祝福する観客たち。

そこに、先程から聴こえていた地響きの主も現れた。

試合場の石床を担いで持ってきたらしい。

 

「良いモンを見せてもらッタからナ、その礼ダ」

 

天を衝くと思われるほど大きな鬼が、石製の場床を担いで運んできた。

重量として家一軒分はゆうにあろうかという厚みと大きさの石床を、大型重機など一切使わず己の肉体のみで運搬、設置するというパフォーマンスに、会場は更なる熱気を帯びる。

すぐに新しい石床が設置されたお陰で、Aブロック第2試合は滞りなく開始されることになった。

 

『彼女は、試合に負けて勝負に勝った、ということか・・・』

 

『ん? それはどういう意味じゃ?』

 

『この大会への参加理由だ。全選手が事前にアンケートに回答しているだろう』

 

『うむ。なになに・・・な、なんとっ!!』

 

『そうか。彼女は花婿探しでこの武闘大会に参加していたのか。これは確かに、本質的な勝者は彼女のようだね』

 

『これだけの“断れない状況”を作り出したところまでが計画だとしたら恐ろしい計算能力だが、恐らく彼女にそのつもりは無いだろうな』

 

『その通りだ。なにせワタシたちの実況解説がこの状況を作り出しているのだから』

 

『あ、自覚はあったんじゃな・・・』