【アイラヴ】三つ子の魂って三歳の子供の性格って意味なんだぜ

「チッ・・・こんなガキに見られちまうたぁ、俺もヤキが回ったな」

 

今は誰も寄り付かない廃工場。

その中で、誰にも言わず秘密で犬を飼っていた。

家族に見つからないように食べ物を持ち出すのは苦労したし、有刺鉄線をくぐってこの廃工場に入るのも楽では無かった。

しかし、会いに来れば喜んでくれるその犬の嬉しそうな表情が忘れられなかった。

ワンワンと鳴く声は爽やかなリンゴ味。

クゥ~ンと甘える声は完熟みかんの味。

初華はこの犬が大好きだった。

だから、今日も来た。

でもその犬は今、見知らぬ男の足元に転がっている。

開いた口からダラリと垂れた舌からは、生命力が感じられない。

両手に抱えたパンとハムが、転がった。

 

「おっちゃん、誰?・・・みかりん、なんで寝てんの?」

 

「キャンキャンうるせぇから黙らせてやっただけだ。ガキ、騒ぐならお前も同じだぞ」

 

男は腰に下げていた大振りのナイフを取り出した。

足元のカバンを拾い上げ、刃をギラつかせながらゆっくりと迫る。

 

「なぁ、みかりんに何したん?」

 

「黙れと、言った」

 

男はその体躯に似合わず素早い動きで、地面を滑るように接近してきた。

突き出されるナイフ。

しかしその銀色の光は目の前で止まった。

 

「ぐっ・・・なんだてめぇッ!!」

 

見上げると、男の腕を後ろから掴んでいる青年が居た。

黒いブルゾンのフードを深く被ってはいたが、精悍な顔立ちが見て取れる。

一瞬の間があり、男の腕はぐるりと捻じり上げられる。

 

「うわぁ!お、折れるぅ!折れちまうっ!やめてくれッ!!」

 

男は情けない声で赦しを乞う。

出し過ぎた渋いお茶のような苦味のある声が一転、出涸らし同様の薄い味になっている。

 

「なぁお前、チームの奴だろ?これを取り戻しに来たんだろ?返す、ブツは返すから・・・」

 

ゴキィッ!!

今まで味わったことのない音を聞いた。

血抜きがうまくできていない魚のような生臭い味。

 

「ギャヒィィィィーッッ!!!」

 

そして男が発する、発酵し過ぎたヨーグルトのような酸っぱい味。

ナイフとカバンを落とし、折れた腕を押さえながら転がるように逃げて行った。

 

「・・・大丈夫かい?」

 

「・・・みかりん・・・」

 

青年の優しい声はかぼちゃのように甘く深い味だったが、それよりも動かなくなってしまった犬の方が気になる。

 

「そうか・・・。悪いけど、みかりんは俺が貰っていくよ?あんまり可愛いから、俺が飼うことにしたんだ。大切に、するからね」

 

青年はそう言って犬の亡骸を丁寧に抱き上げ、くるりと背を向けて廃工場から出て行った。

外に出たその刹那、少し強めの風が吹き、青年のフードをめくる。

 

「・・・ワンちゃんや」

 

薄暗い廃工場の中から見える青年の姿は、もはやシルエットだけではあったが、頭部に犬のような耳が見えた。

 

 

 

 

「ってことがあってん。可愛い可愛い5歳くらいの初華ちゃん。その大ピンチを、オオカミはんが救ってくれはったってワケや」

 

「・・・犬の、耳?」

 

「まぁ今思えば、風で偶然に髪がそんな形になっただけやと思うけどな。子供ん頃は犬や思っとったけど、オオカミの方が合ってんねんな。もしかしたら、おかちさんみたいに寝癖がヒドかっただけかも。そんでな、たぶんあのとき、犬は死んでたんやろなぁ。そんでもあのオオカミはんのお陰で当時のウチはホンマ、救われたんよ」

 

「そ、そうだな。うん。そうだろうな・・・」

 

昼食を終え、移動中の車内。

自分の好みのタイプについて、御徒町のような俗物的理由ではなく尤もな理由があるのだと、初華が話した過去の経験談

しかしそれは御徒町に、少なからず動揺を与えることとなった。

 

「せやから、ウチを助けてくれた、その男の人みたいなんがタイプなんや。おかちさんのヤラシィのとは全ッ然ちゃうからな」

 

「うん。そうだな・・・」

 

「え?凹んでんの?冗談やで冗談。ちょ、別にウチ、ホンマは何にも気にしてへんよ?」

 

「あ、ああ、うん・・・ありがとう・・・」

 

車内に漂う微妙な空気。

初華は、ちょっとふざけ過ぎてしまったかと反省し、口をつぐんだ。

 

「もう着くからね。今日はすごい先輩のステージだから。しっかり学ぼう」

 

少し業務的な口調になった御徒町

やはり機嫌を損ねてしまったようだと、初華は後悔した。

御徒町が優しいので、ついイジってしまう。

自重せねばならない。

 

「うん。分かった。さすがに録画録音はアカンのやろ?メモは構わんの?」

 

「そうだな。メモなら構わないだろう」

 

バッグの中からペンとメモ帳、そしてドレプロ所属を示す名札を取り出す。

これのお陰で、客席ではなく撮影スタッフが陣取るカメラポジションからの観覧が可能になる。

 

「とは言え、今日のステージは格が違い過ぎて、参考になるかどうか怪しいけど」

 

「そうなん?」

 

「天帝セブン、序列第七位の東雲ひじきvsたい序列第六位の琴浦 蓮の、対バンだからね」

 

 

 

f:id:sakatsu_kana:20170719133205j:plain