「君たちを3人組のユニットとして計算し直してみよう」
テイチョスは額に人差し指を当て、しばらく目を閉じた。
一体何の計算なのか誰にも分からない。
「あ、あの・・・テイチョス、さん?」
ひとこが声を掛けたタイミングでテイチョスの目がパチッと開いた。
うわっと驚いた声を上げてしまったひとこに構わず、テイチョスは語り始める。
「求心力や歌唱力、カリスマ性、存在感、性的魅力、神々しさ、親しみやすさなど、アイドルとしてプラスになりそうな149の項目を数値化してみた。例えば君たちが敗北感に打ちのめされたという桜木烈火の数値だが・・・」
「いッ、言いかたッ!!」
歯に衣着せない露骨な表現に声を荒げたタオナン。
その話題は現在このメンバー内で最もセンシティブな内容である。
間違ってはいないが、表現がストレートすぎる。
しかし、そのタオナンを制したのは意外にも紫電だった。
「いや、タオ・・・黙って聞こう・・・」
紫電にも自覚はあった。
今の自分たちでは逆立ちしたって天帝には勝てないことを。
しかしそれは感覚的なものであり、客観的な情報はむしろ欲すべきと思った。
どんな戦いであれ、敵を知り己を知ることが基本となる。
「仮に彼女の数値を100としよう。そして君たち個々の数値の合計と、3人が奇跡的にうまく噛みあって得られる相乗効果も加味した上で、導かれる値は0.78だ」
セレアは黙ったまま腕組みをしている。
(確かに天と地ほどの差はあるが、この数値が正しいかどうかは眉唾モノじゃのう・・・)
「い・・・1にも満たないなんて・・・」
ひとこはヘナヘナと座り込んだ。
タオナンは唇を噛みしめている。
「ひとつ、聞きたい」
紫電が静かに切り出す。
テイチョスは顔だけ紫電に向ける。
「俺たちのその、相乗効果ってやつ、それは『足し算』じゃなく『掛け算』だな?」
(ほう、まさか紫電がそこに気付くとはのう)
「その通りだ。つまり・・・」
「つまり、俺たちの実力が上がれば上がるほど、さっきの数字は跳ね上がるッ」
テイチョスの言葉を遮り、紫電が力強く言い放った。
そしてひとこ、タオナンと視線を合わせ、ゆっくりと頷く。
三人の姿を見てセレアがにやりと笑った。
(ふむ。この三人なら、あるいは・・・)
「さて、この数値だが、プロモーションの仕方でほんの少しだが水増しすることができる」
テイチョスが淡々と続ける。
「君たちはスリーヒットセオリーという言葉を知っているか?ごく初歩的なセールスプロモーション用語だが、簡単に言えば『同じ広告を3回見ると、人はその商品を購入する確率が高くなる』というものだ。商品を売るのもアイドルとしてファンを獲得するのも同じだと思ってくれ。人間は3回同じものを知覚すると『最近これをよく見る』という心理状況になりやすい。これを『カラーバス効果』にまで引き上げることで、対象の中で忘れられない存在になることができる。この手法を用いれば、君たちのユニットの知名度をいくらか上げることができるだろう」
「ごめんテイチョス、さっぱりだわ」
「あ、俺も」
「・・・身近な存在になるってことかな?」
ひとこの言葉にテイチョスが頷く。
「その通りだ。そもそも、文字通り
「で、結局アタシらはどうすれば良いわけ?」
「例えば今、窓を開けて外が嵐だったとしたら、君たちは桜木烈火のライブを思い出すだろう?雨や風という、ごくありふれた日常の現象から彼女を想起する。もちろんそれは彼女のファンたちも同様だ。これは彼女の実力によるものだが、しかし似たような現象を作りだすこともできる。仮に、君たちのユニット名を『リボン』とし、大きなリボンが目立つコスチュームでステージを行ったとする。会場に来た観客にノベルティとして装飾用のリボンを配布してもいいだろう。さて、日常生活に戻ったファンたちが何のキッカケも無しに君たちのことを思い出すだろうか?残念ながら今の君たちにそれだけの実力は無い。しかしリボンをキッカケに思い出してもらえる可能性はある。どこかの誰かの服にあしらわれたリボンを見たとき、ふと君たちのことを想起する。これを繰り返すことによってじわじわと心に浸食していくという手法だ。もちろんリボンというのはモノの例えだが、ユニット名やコスチューム、楽曲のタイトルや歌詞など、実力を補うという意味で考えればそれらを日常に即したものにするのが望ましいだろう。ここで重要なのは、君たちが今後、既に在る
「テイチョス・・・キモいわ」
「だめだ、俺・・・眠い・・・」
「す、すごいです。あの、すごいです。テイチョスさん」
(なんじゃこのアルファ!アイドルのプロモーションとしては異質じゃが、確かに言っておることは間違っておらん・・・もしこの手法で売り出せば、大した実力の無い奴でもそこそこの数字は作れるじゃろうな。ドレプロの水に合うかどうかは別として、恐ろしい考え方じゃ・・・)
「もちろん、今のは参考情報のヒトカケラだと思ってくれ。基本的には君たちがそれぞれ死ぬ気で特訓し、各々が実力をつけることが最低条件だからな」