キャラクターをお借りしますッ!
やばい。
1話で終わらせるつもりだったのに終わりませんでした!
フールさんちから
りとさんちから
ねずじょうじさんちから
長田先生んちから
nagatakatsukioekaki.hatenadiary.jp
突発的な無計画のお遊びにも関わらず快く、そして気前良く我が子をお貸しくださり誠にありがとうございます!
本来の学園PFCSではルビネルさんは教師だったりリリスちゃんは小等部だったりアスミちゃんは中等部だったりしますが、本SSは完全な
■今回限りのIF設定
・全員高等部で同級生
・呪詛は個性
~・~・~・~・~・~・~・~
テンポの良い軽快な音楽が響く校舎裏。
どうやら軽音楽部の部室がほど近いようだ。
時折、演奏が途切れては、また最初から始まる。
「ホラ、痛い目に遭いたく無かったら金出せって言ってんだよ」
そんな中、不穏な声が聞こえてくる。
一人の少女が、三人組の女生徒と対面している。
三人組の、恐らくリーダー各であろう真ん中の女生徒が乱暴に少女の襟首を掴む。
「シカトこいてんじゃねーぞ!?アアン!?」
胸倉を掴まれた少女は、その拍子に後ろ手に持っていた雑誌を落としてしまう。
ティーンに人気のコスメ雑誌だった。
「てめぇ1年だろ!?いっちょまえに色気づきやがってよぉ」
もう一人の女生徒が落ちた雑誌を踏み付け、ぐりぐりと足を回す。
表紙は無残に破れ、土汚れがひどい。
「お前みたいな
更にもう一人が声を上げたその瞬間。
胸倉を掴んでいた女生徒の腕が捻り上げられた。
ほんの一瞬の出来事だった。
「ッ!?イテテテテ!てめ、放せ!この・・・痛っ!」
ギリギリと悲鳴を上げる関節。
もうほんの数センチ動かされれば、折れてしまうかもしれない。
「下手に動くとマジで折れるからね。アンタたちもだよ?」
左右の二人に視線で釘を刺しつつ、リーダー格の女生徒の腕を、更にほんちょっとだけ捻った。
「いやああぁぁぁぁーっ!!!」
どうやら人には強く出るが自分の痛みには弱いらしい。
少女はワザとらしく大きなため息をついて言った。
「アンタらさ、弱っちいくせにこんなことすんの、ホントやめなよ?マジ格好悪いから。んで人の気にしてるコト言わない。そりゃあたしだってアウリィみたいな色白に生まれたかったけど仕方ないじゃん、肌の色はさ。そんでモノを粗末にしない。ちゃんと弁償してよその雑誌。まだ全部読んで無かったんだから」
言いたい事を一息に吐き出し、少女は手を放した。
リーダー格の女生徒は肩を押さえながら涙目になっている。
「よくもやってくれたな!お前たち!ボコボコにしてやんな!」
自分と相手の力量が読めないというのは、生物として致命的な欠陥と言える。
襲いかかって来た二人の女生徒を華麗な体捌きでいなすと、少女は真っ直ぐにリーダー格の女生徒に向かい、滑るように接近した。
「あたし、忠告したよ?これ、正当防衛だからッ・・・っと!」
見事な両足タックルだった。
リーダー格の女生徒が気付いた時にはもう背中が地面に強打され、一瞬呼吸が止まる。
そのまま少女は
ジャイアントスウィングである。
「きゃあああああ!!!」
こんな状況でも恥じらいと言うモノがあるのか、
「頭、受身取らないとダメージでかいよ?・・・そぉい!」
一応の注意を口にし、少女は
見事な放物線を描いて
その先にはガラス窓。
「あ!やっば!」
少女が後悔したときにはもう遅い。
その様子を見ていた他の二人は激しく青ざめ、お決まりのセリフで去って行った。
「お、覚えてろ!」
それはこちらの台詞だと言わんばかりに、少女は走り去る背中に向かって叫んだ。
「雑誌の弁償ぉぉー!!あとガラスもー!!」
エスヒナは困っていた。
困り果てていた。
まさかこんなことになるなんて。
校舎裏で
他の部員たちも割れたガラスで手を切ったり、驚いて逃げた拍子に足をひねったりと、運悪くメンバーの全員が負傷者となってしまった。
「手を放すタイミングがな~・・・悪かったよな~・・・」
休み時間の教室。
一番うしろの席。
椅子を引き上体を机に思い切り預けて後悔の念をこぼす。
紙パックの苺牛乳を飲み干し、ストローだけを口に咥えて先をガジガジと噛みながら教室の天井を見上げている。
そんなエスヒナに声を掛ける色白の少女。
「どうしたのエスヒナ。あなたが元気無いなんて、雨でも降らせる気?」
晴天の空から降り注ぐ眩しい陽光を背にして話し掛けられると、まるで後光を背負っているように見える。
白い肌と輝く銀髪がさらに神々しさを増幅させている。
「アウリィ~あたしやっちゃったよぉ~ピンチだよぉ~(泣)」
エスヒナは心配して声を掛けてくれたアウレイスに泣き付いた。
ついでに抱き付いた。
「こら!ちょっと、離れて・・・もう!」
「イヒヒッ。アウリィやーらかーい」
真剣に悩んでいるのかと思ったのにふざけた態度のエスヒナ。
アウレイスは気分を害したようだ。
抱き付くエスヒナを強引に引き剥がし、くるりと背を向けて去ってしまった。
「ご、ごめんよぉ~アウリィ~見捨てないでぇ~(泣)」
後悔先に立たず。
覆水盆に還らず。
アウリィ振り返らず。
完全な自業自得である。
実は軽音部員の負傷が原因だった。
「えええぇぇッ!?学園祭で演奏ぉ!?」
軽音部の部長が横たわる保健室のベッドの横で、エスヒナは大声を上げた。
現在、軽音部は廃部の瀬戸際に立たされているのだそうだ。
部員が4名だけで特に何かの功績があるわけでも無いのに、楽器の購入や維持、メンテナンスに部費が掛かり過ぎるということらしい。
学校側のその決定を覆す為には学園祭でステージを行い、最低でも300席が埋まる動員を果たさねばならないらしい。
その為に部員たちも猛特訓をし、来週末の学園祭に備えていたのだ。
「それなのに、あなたがカチ込んで来ちゃって・・・ぐすん(泣)」
カチ込んだのは
放り投げたのは確かに自分なのだ。
「だから、何としても学園祭で300人を呼べるステージをやってちょうだい!(怒)」
メンバー全員が負傷してしまった軽音部は、誰一人として満足な演奏ができる状態ではない。
「が・・・がんばってみる・・・」
とは言ったものの。
エスヒナは楽器の演奏など無縁の生活をしてきた。
小等部、中等部でリコーダーを吹いたくらいだ。
しかもメンバーを集めるという問題がある。
楽器を扱えない自分はボーカルを務めるとして、少なくともギターとベースとドラムの3人は確保したいところだ。
と、頭を抱えるエスヒナの背後で勢い良くカーテンが開く音がした。
「なにその話!超バイブスあがるんですけどー!!」
ギョッとして振り返るとそこには、いかにもな感じのギャルが居た。
江戸っ子の気より短いスカートと、青少年の未来より開いたブラウスの胸元。
そして、エスヒナと同じ肌の色。
ゆるゆるに緩められたリボンの色は、エスヒナと同じ1年生であることを示している。
「ねっ、ねっ、それユーミンにも手伝わせてッ!ねっ?」
どうやら彼女はユーミンという名前らしい。
貧血で寝ていたところ、隣のベッドから面白そうな話が聴こえて来たので飛び込んだのだとか。
もちろんエスヒナとは初対面だ。
生徒数が多いこの学園では、同じクラスでもない限り、なかなか面識を持つことは難しい。
しかしこれは願っても無い申し出だった。
これだけ積極的にアピールしてくるのだから、演奏にもさぞかし腕に覚えがあるのだろう。
「大歓迎だよ!ありがとう!あたし、エスヒナ!よろしくねユーミン!」
「エスヒナ?じゃあヒナぴーだねッ!アガるぅ~!」
こうして、保健室で劇的な邂逅を果たしたエスヒナとユーミンは、今週中に残りのメンバーを見付けることを約束し合った。
「ユーミンはねぇ、やっぱベースかな?なんかカッコイイじゃん!?」
口ぶりから察するに、どの楽器も担当できるようだ。
なんという心強さか。
残るギタリストとドラマーを探すのも、二人でなら何とかなるような気がする。
何とかなるような気がしていた。
しかし。
いざクラスメイトに声を掛けてみるも、皆一様に「ごめん」「ちょっと無理」などなど残念な回答を口にするばかり。
それでエスヒナは凹んでいたのだった。
教室を出て行ってしまったアウレイスを涙目で見送ったエスヒナ。
しかし元々、バンドメンバーにアウレイスを誘うつもりは無かった。
人前に出ることを極端に苦手としている彼女に無理強いはできないと、始めから選択肢には入れていなかった。
「さぁ、もうクラス全員に声かけ・・・あ」
そう言えば。
まだ一人だけ誘っていない子が居た。
でも特に親しいわけでもなく、正直なところ会話もした記憶が無い。
チラリと視線を送ると、自分の席に座って大人しく読書をしている。
いかにも優等生という印象。
住む世界が違うような気がして、こっちが勝手に劣等感を抱いてしまうような感じ。
でも、可能性はゼロじゃないはず。
限りなくゼロに近かったとしても、行動しなきゃ確実にゼロだ。
確か、あの子の名前は・・・。
「ねぇ、アスミちゃん。ちょっと良いかな?」
エスヒナは軽~く声を掛けた。
警戒されないように、怪しまれないように。
「あら、エスヒナさん。私にお話ですか?」
驚いた。
エスヒナは声を掛ける前にクラス名簿でアスミの名前を確認していた。
しかし当のアスミはエスヒナの名前を知っていたのだ。
「え?あたしの名前、知ってるの?」
「だって、クラスメイトでしょ?当たり前じゃない」
天使のような頬笑みを浮かべながらそう言われると、なんだか自分がひどく残念ないきものに思えてしまう。
「でも、この学校って生徒が多いし、顔と名前を覚えるのが大変よね」
ちょっとだけ眉を下げ、困ったように苦笑いしながら紡ぐアスミの言葉は間違いなくフォローそのもの。
それが分かっていながら、しかし心が軽くなるのはなぜだろう。
自分自身が落としてしまった気持ちを、アスミは笑顔と言葉で引き戻してくれた。
まさに天使。
いやもう女神。
「エスヒナさん?なんで泣いてるの?」
「あ、いや、目にゴミが入っただけ。それよりもさっ・・・」
エスヒナはアスミに経緯を話した。
すると、意外な答えが返ってきた。
「私、ピアノならちょっとだけ弾けるの。だからもしキーボードのパートがあるのなら、お手伝いさせてもらうわ」
確かバンドの構成にキーボードという楽器も在った気がする、という程度のエスヒナだが、とても心強い言葉だった。
「アスミちゃん!ありがとう!是非キーボードでお願いします!」
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いしますッ!」
ぺこりと頭を下げるアスミ。
やばい。
マジ天使。
ユーミンの勧誘は実に豪快だった。
もう、ナンパだった。
休み時間、教室の前を通る全生徒に声を掛けていた。
「ねぇねぇ!ユーミンとバンド組まない?チョー楽しいよ!」
「ねぇちょっと!イイ身体してンじゃん!ドラム叩くしか無いっしょ!?」
「あ、いま目ぇ合ったっしょ!?これって運命じゃん!?バンド組もーよ!」
惨敗だった。
誰一人として色よい返事をくれない。
学園祭でバンド演奏なんて、そんなに楽しそうな事になぜみんなノッてこないのか不思議でしかたがない。
でも、こうやって声を掛け続けていればきっと素敵な巡り合いがあるはずだ。
「やぁやぁ!ユーミンとバンド組まなぁ~い?」
「バンドとは、何ですか?」
何十人に声を掛けたか分からないが、ようやく会話が続きそうな返事があった。
見ればとても同級生とは思えないような小柄な子だ。
もしかしたら中等部の子が間違ってこの校舎にまぎれて来たのか?
いやいや、制服が高等部のものだし、リボンの色はユーミンと同じである。
しかし高校1年生には見えない・・・。
「バンドってね、わちゃわちゃしててさっ、めちゃヤババな感じ?」
「言葉の意味は良く分かりませんが、あなたは困っておられるのですね?」
「あれ、ユーミンが困ってンのよく分かったね!メンバー集めマジありえんてぃー」
「では協力させてください。困っている方の力になることが私の信条です」
なんだか難しい言葉を使うちびっこだが、どうやら協力してくれるようだ。
これでユーミンの声掛け活動も晴れて終了となる。
「私はリリスと申します。バンドというものについて、教えてください」
「ユーミンだよぉ~。バンドはねぇ、マジあげぽよだからッ」
放課後、窓ガラスが割れたままになっている軽音部の部室。
さすがにガラスの破片などは片付けられているが、窓の修理はきっと週明けになるだろう。
いずれ用務員さんがゴミ袋をガムテープで貼るような応急処置をしに来るはずだ。
そんな部室に、4人の姿があった。
「で、彼女が乃木アスミちゃん!キーボードなら手伝っても良いって言ってくれたの!」
エスヒナが嬉しそうにアスミを紹介する。
ユーミンは光の速さでアスミの手を取り、ブンブンと振った。
「キーボードとか超エグい!エモい!よろしくねアスミン!」
「わぁ!あすみんって私のことですか?可愛らしいニックネームをありがとう!」
アスミのエンジェルスマイルがあまりにも眩しくて、エスヒナは目を瞑ってしまった。
「あ、そだ。こっちのかわたん!リリちっちだよー!」
「リリスと申します。皆さんがお困りとお伺いし、お手伝いさせて頂こうと思いまして」
一見中等部、いや、もしかすると小等部に居てもおかしくないような小柄な子だが、果たしてギターやドラムが務まるのか、エスヒナは少々不安になった。
「あの、リリスちゃん?あたしもそんなに詳しく無いけど、バンドって結構体力を使うと思うよ?大丈夫?」
「ご安心ください!私、腕力には自信があります!」
言葉通り、自信に満ち溢れた頼もしい表情で言うリリスに、エスヒナは気押されて納得した。
腕力?とは思いながらも、しかし本人が大丈夫と言うのならば大丈夫だろう。
「じゃあギターとドラムは、どっちができそう?」
「ギターはジャジャーンってひいて、ドラムはドガガガッて叩くんだよッ」
エスヒナの質問にフォローのつもりなのかユーミンが説明を差し込むが、リリスに伝わっているかどうかは怪しいものだ。
しかし意外にもリリスはユーミンの説明に納得し、そして
「私、叩くのは得意なので、是非ドラムでお願いします」
ギター無しでもどうにかなるだろう、ということになった。
次に、もう来週に迫っている学園祭で、演奏する曲目を選ぼうという議題が上がったとき、割れたガラス窓の向こうから、何やら声が聞こえてきた。
「お・・・お姉さま・・・いけません、こんなところで・・・」
「フフフ。なにがイケナイのかしら?」
「あぁ!そんな・・・ダメ・・・」
「じゃあ止めても良いのだけれど?」
「・・・お姉さまのイジワル・・・」
どうやら上級生と下級生の逢瀬が、校舎裏で行われているようだ。
赤面してモジモジと俯いてしまったアスミ。
なぜかその場でスクワットを始めたリリス。
何やってんだろとハテナマークのエスヒナ。
割れた窓から顔を出して挨拶するユーミン。
「わぉ!らぶたんワッショイ!」
突然の横槍に驚愕したのは下級生。
ヒッと短い悲鳴を上げ、いそいそとブラウスの乱れを直しつつスカートを履き直しつつ口の周りを拭いつつ走り去ってしまった。
器用な子だ。
「ちょっとアナタ、良いトコロだったのに邪魔しないでくれる?」
上級生と思っていたその女生徒は、見ればエスヒナたちと同じ色のリボンを着用している。
しかし纏っているオーラと、しっとりした艶やかな黒髪に切れ長の目が、完全にお姉さまと呼ばせる雰囲気を持っている。
誰がどう見ても、どの角度からどんなフィルタを通して見ても、お姉さまだった。
その黒髪のお姉さまは部室の窓に手を掛けると、ひらりと身を躍らせた。
流れるようにしなやかで自然な動きを披露しつつ部室に侵入したお姉さまは、腕を組んで仁王立ちになり、ユーミンを含むその場の4人を睨みつけた。
「私の獲物を逃がした罪はおm・・・重い・・・わ、よ・・・?」
お姉さまはなぜか声を詰まらせ、視覚情報に集中している。
これが漫画なら瞳のアップの横にキュイイイーンという擬音が付きそうだ。
(色黒系の完全ギャルだけど豊満ボディで露出も高め。うん、美味しそう!)
(同じく色黒系だけどこっちはあまりにも無防備。開発が楽しそうで美味しそう!)
(うはっ!天使発見!こんな清楚系女子高生がまだ現存していたなんて!美味しそう!)
(えっ?この子同級生なの!?身体はともかく年齢的にはセーフよね?美味しそう!)
「全員合格よ。さっきのことは許してあげるわ」
何がどう合格で、一体何を許されたのかまるで分からない4人。
しかし機嫌が直ったようで何よりだ。
「あの、なんかごめんね?あたしはエスヒナ。ダメ元で聞いてみるんだけどさ、あなた、ギター弾いてみる気、無い?」
ぶしつけな質問だと、自分でも分かっていた。
しかしこれも何かの縁かも知れない。
「私はルビネル。ギタリストを探してるの?」
質問に対する答えを述べず、まず状況確認から入る慎重なルビネル。
「軽音部の代わりにね、急にやることになったんだー。ヒナぴーがボーカルでね、リリちっちがドラム。アスミンがキーボードなんだー!そんでユーミンがベース!ガチめでエグいっしょ!?」
ユーミンの説明と割れている部室の窓から状況を推察したルビネル。
(即席バンド。学園祭は来週。猛特訓が必要。きっと土日は合宿形式の泊り込み練習。いや、泊り込みにならなくても泊まり込む!)
「いいわ、ギタリストになってあげる。ただし、みんな本気で練習よ?」
「えぇッ!?良いの!?ホントに!?やったー!!」
「ルビルビめちゃギター似合いそーじゃん!鬼アガる~!」
「わぁ!メンバーが揃ってうれしい!よろしくねルビネルさん」
「私も練習が必要だと思っていました。的確なアドバイスありがとうございます」
かくして、5人になった即席バンドメンバー。
このあと全員で相談し、バンド名が決まった。
『ゆる
あまり頑張り過ぎず、ふんわりとやっていこう。
そんな思いが、込められてはいない。
ゆーみん
るびねる
えすひな
あすみ
りりす
名前の頭文字の縦読みである。
「さてと。ユーミン疲れちったから、帰るねー。ばいびー」
「私も、今日はピアノのお稽古があるので、また明日」
急に、電池が切れたようにテンションが下がったユーミン。
フラフラと部室を出て行ってしまった。
アスミもそれについて出ていく。
学校が終わった後に習い事・・・なんて健気な子なんだろうとエスヒナは思った。
「じゃあ、私も今日のところは帰ろうかしら」
立ち去ろうとするルビネルに、エスヒナが声を掛ける。
「あの、ルビネル・・・さん。ギターって、弾ける・・・の?」
呼び捨てでいいわ、と前置きしてから、ルビネルは妖艶な瞳をギラつかせながら答える。
「こんな名言を聞いたことがあるわ。『ギターは女性を抱くように弾け』ってね。なら問題無いわ。私が弾けないわけがない」
妙な自信が溢れた言葉を残し、ルビネルも帰っていった。
「ねぇリリスちゃん、ちょっとだけドラムの練習、してく?」
エスヒナは自分がボーカルであり、特に練習などは必要無いと思っている。
だから他のみんなに練習を強要するのは悪いと思ってしまう。
しかし付け焼刃で300人の動員など絵空事も甚だしいということは理解している。
「そうですね、やってみましょうか」
何か少しでも「進んだ」という実感が欲しかったのかもしれない。
「これで、叩けばいいのですね?」
木製のスティックを手にしたリリスがスネアドラムの前に立つ。
確かテレビで見たことがあるドラマーの人はもっと軽く握っていたような記憶があるが、まぁ最初だし。
次の瞬間、リリスは空を裂いてスティックを振り降ろした。
「チェストォォォォーッッッ!!!」
ガッ!
ヒュルルルル
ザクッ!
リム(ドラムの上下についた金属製の輪)を殴打したスティックは見事に中央付近で折れ、折れた先の部分は超高速で回転しながら窓の方へ飛んでいった。
そこには、いつの間にか窓ガラスの応急処置をしに来ていた用務員のパラさんがいた。
パラさんは、額からスティックを生やして静かに眠った。
「おかしいですね、こんなに簡単に折れてしまう棒では叩けません」
何か間違っているような気もするが、しかしエスヒナも正解を知っているわけではない。
「明日、簡単には折れない我が家特製の棒を持ってきますので」
というわけで、今日はお開きとなった。
学園祭での演奏まであと1週間。
山積みになっている課題は、誰にも見えていない。