慟哭へのモノローグ

下記の話の続きです。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

8.心よ原始に戻れ

9.Beautiful World

 

今回はコチラのお二人です。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
チュリグ アルビダ 無性 ハサマ つおい ハヅキクトゥルフ初心者
メユネッズ 精霊 男性 ダン 夢追い たなかあきら (id:t-akr125)

 

ウチのおっさん。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
キスビット(タミューサ村) 人間 男性 エウスオーファン におい 坂津佳奈

※ちなみにキスビットは『血族』とか『家柄』みたいな思想が弱く、苗字というものが存在しません。

なので長いですが、エウスオーファンは全部名前です。

長い名前が略されるのはよくあることで、みんなエウス村長と呼んでいます。

また、血統に縛られないというだけで、家族は大事にします。

逆に家族でなくとも、種族が同じということで親近感を覚える文化が根付いています。

※長田先生! (id:nagatakatsuki)最新の地図をお借りしました!

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「ビットの能力うでは、時間と共にどんどん長くなった」

 

そう言ってエウスオーファンは、一枚の地図を机に広げた。

現在確認されている大陸の全てが記された世界地図だ。

 

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「これは推測だが確証にも近い。ビットの能力うでの範囲だ」

 

そう言いながら指で地図を示す。

想像していたよりもあまりに広い範囲が対象となっており、ダンは狼狽した。

 

「馬鹿な・・・ドレスタニアにすら届く、と?」

 

エウスは黙って頷いた。

土壌神ビットは、これだけの広範囲から多種多様な年代、性別、種族をキスビットへ攫ってきていた。

その大半は慣れぬ環境に死滅していった。

しかし徐々にではあるが、増えてきた民も存在する。

第一に土着の精霊であるキスビット人。

それに対抗できるまで勢力を拡大したのがアスラーン。

そして次に団結したのが、鬼であった。

彼らは寿命こそ短いものの、その身体能力と生命力は他の種族を遥かに凌駕していた。

文明が発達していない時代ほど、個としての戦闘力の高さが重要となる。

人間も、辛うじて小規模の団体が組織されていたが、しかし他の種族に対抗できるほどではなく、身を隠しながらひっそりと生きながらえていた。

こうして人間以外の種族が三すくみの状態になったキスビットは、それぞれの種族が牽制し合うこととなった。

事態が膠着していて面白くないのはビット神である。

もっと、もっと、もっと攫ってこなくては。

憎悪と恐怖、疑心暗鬼と憤怒と絶望。

それら甘美な感情を味わうにはもっとやつらを増やさねば。

すでにビットの存在に、信仰は無用となっていた。

少し時代が移り、最もビットを喜ばせることに成功したのは、なんと人間だった。

人間らはいつの間にか武器を作り技術を磨き、環境に適応していた。

そしてあっという間に他の種族を凌ぐまでに成長したのである。

今までの怯える生活の借りを返すかのように人間は、アスラーンを、精霊を、鬼を、どんどん駆逐していった。

彼らから恐れられ、恨まれ、憎まれるようになるのに、さほど時間はかからなかった。

人間が急成長したのは、他ならぬビットの姦計によるものだったのだが、しかしこの効果はビットの想像を超えていた。

ねっとりとした黒い感情が無限に製造されるのを感じたビットは歓喜していた。

 

「あまりにも、あまりにも突飛な話で、いささか・・・」

 

「信用に欠ける、かな?」

 

額に滲む汗をぬぐいながら言うダンの二の句をエウスが奪う。

 

「ハサマも、そう思うけど」

 

少しだけ口角が上がり笑顔と取れなくもないような無表情で聞いていたハサマも、やはり同感のようだった。

1,000年前のこと、しかも神という存在がどのように変遷していったのかという非現実的な物語が、あまりに具体的に語られ過ぎている。

エウスの創話なのではないかという疑いすら、不可避である。

 

「当時、まだ人に近い姿をしていたビットはたびたび目撃されていたらしい。声も聞こえていたのだとか」

 

そう言いながらエウスは、壁際に置かれている石碑を指し示した。

木造の部屋に似つかわしくないオブジェだ。

酒樽よりも大きい石の塊である。

しかしよく見ると、その表面にはびっしりと文字が刻まれていた。

 

「これが、我々の調査結果の結晶だ」

 

石碑自体は相当に古いものだと思われるが、しかし記されているのは現代の文字に見える。

驚くことに『エウス村長へ』と読める部分が存在する。

 

「ビットの能力うではついに距離ではなく、時を超えるようになってしまった・・・」

 

邪心にとり憑かれた邪神は考えた。

どうすればもっと争いが起こる?

どうすればもっと憎しみ合う?

どうすればもっと殺し合う?

こいつらが自然に増えて自然に諍いを起こすのを、もう待っていられない!

ビットは腐っても神であった。

その人智を超越したチカラは時を超え、進んだ文化、道具、知恵、技術のある時代からも、生贄たみを攫うようになったのだ。

効果はてきめんだった。

より多く殺す武器が製造つくられた。

より多く蹂躙する文化が創造つくられた。

憎しみの濃度は上がり、殺意の強度は増し、純度の高い絶望がビットに流れ込んだ。

最初に連れて来られたのは人間だった。

そして人間という種族が一強にならぬよう、他の種族にも均等に未来のチカラを分け与えることにしたビットは、益々増長していった。

 

「やがて肥大化した土壌神ビットは、文字通りこの国の土壌となった」

 

ハサマは小さく舌打ちをした。

自分の能力が制限されている理由が判明したが、しかし解決法が無いからだ。

自然災害を起こす、それは相手が『自然』だからこそ作用する能力だ。

国土全体が一個の生物であるならば、そこに『自然災害』は起こせない。

もちろんこのキスビットという国が海に浮いているので無い限り、必ず地盤の上に乗っているはずであり、そこから巨大地震を起こせば国ごと灰燼に帰す事は出来るかもしれない。

しかし、それでは誰も救えない。

だが、本当に土壌全てが生物と言うことであれば、コントロールが出来ないというよりもむしろ完全に能力が使えないはずだが、そうでも無い。

このタミューサ村に入ってからは、若干ではあるが能力を使えそうである。

 

「で、どうするの?」

 

ハサマの短い問い。

もしかすると、被害の拡大とキスビットの全国民を天秤にかけているのかも知れない。

 

「約1,000年前のビットが伸ばした能力うでは三本確認できています」

 

エウスオーファンはハサマに向き直って答えた。

キスビットの三大都市を実質的に治めている者がおり、彼らが秘密裏に隠匿している施設内が、その場所なのだと。

そしてそれを密かに探り当てたこと。

タミューサ村の者が潜入し、1,000年前に飛ばされ、この石碑を残したこと。

情報はこの石碑以外にも数種類あり、それらの解読によって先ほどまでの話が確証に足るものであると証明されたこと。

 

「エイ マヨーカの人間、ラッシュ ア キキのアスラーン、そしてジネの鬼。それぞれの都市を統治している一部の者は、この能力うでの存在に気付いています。そして1,000年前の時代に武器や技術を送り込み、自分たちの種族が有利になるよう工作しているのです」

 

現在いま差別意識を持った民らが1,000年前むかしへ行き、一層の差別意識を植え付ける。

そうすることで現在いま差別意識が更に倍増するという負の無限螺旋。

さらに言えば、黒い感情で大きく育ったビット神が一体化した土壌で採れた農作物は、心に負の感情を起こしやすくする作用があると言う。

実はビットの存在に気付く以前より、キスビットの大地に不信感を持ったエウスオーファンは、ここタミューサ村を開拓するあたり他国の土を混ぜて開墾するようにした。

その活動は現在でも続いており、大型の輸送船で諸外国から土を運んでは、土を混ぜているのである。

しかし最近は、ビットが土壌に一体化する速度が速まってきており、国土全体が完全にビットに成ってしまうのも時間の問題と思われた。

ハサマが完全に能力を封じられていないというのは、まだ一体化が完全ではないことが理由である。

 

「誰かが、この循環を断ち切り、国を救わねばならん」

 

エウスの言葉にハサマは絶句した。

まさかエウスの考えとは・・・。

ここでようやくダンが口を開いた。

 

「やっと理解できた・・・。貴殿の夢が探知できない理由が」

 

ダンは深くため息をついた。

そしてエウスオーファンを真っ直ぐに見据えて続ける。

 

「貴殿は既に夢ではなく、使命としているのだな。この革命たたかいを」

 

ダンの真剣な眼差しに、しかしエウスはふっと自嘲気味に答えた。

 

「やれやれ、私には夢があったはずなんだが。君に探知されないというのは、つまりその夢がもう私の中に無いということなのかね?」

 

はぐらかされたような気分ではあるが、しかしダンは気を取り直した。

確かに『エウスには大きな夢があるはず』という思い込みが先行し、もしかすると微かな夢を見落としていたかもしれない。

ダンはエウスに集中し、短く「あっ」と漏らした。

 

「それで、人選は?」

 

割って入ったハサマの問いに、エウスが答える。

 

「明日、皆にもこのことを説明して、協力を仰ぎます。しかし、まともな神経の者はまず受けんでしょうな。なにせ片道になる可能性が高い上に、勝算などまるで無いのですから」

 

そしてダンに向き直って続ける。

 

「君にも明日、正式に依頼をする。もちろん断ってくれて構わない。それと・・・さっき見たものはくれぐれも内密に、な」

 

そしてエウスは棚から酒が入った瓶を出しながら、二人に視線を送る。

 

「戴こう」

 

こんな気分の時は強めの酒を飲むに限る。

ダンはエウスから受け取ったヒヒキニスを、間を空けず飲み干した。

 

「ココアなら飲むけど」

 

「ハサマ王、大変申し訳ないのですが今はココアはありませんのでマーウィンに運ばせます。しかし、少しだけお待ちください。今ここを出ると彼らの楽しみを奪ってしまうことになりますので」