【アイラヴ】寝て待ってないから果報じゃないのか

約束の時間より、ずいぶん早く事務所に到着しそうなウィーカは、ひとり街をブラつくことにした。

まだ午前9時頃ということもあり、開店前の店も多い。

当てもなく歩くウィーカ。

どこかのコーヒーショップにでも入って時間を潰そうかと考えていると、ふいに「干し葡萄レーズン味の」声を掛けられた。

 

「お嬢さん、占いに興味は無いかえ?」

 

目を向けると、歩道に面した店舗と店舗の隙間の狭い路地に安っぽい机を置いた、いかにもな雰囲気の占い師が居た。

特に占いが好き、ということもないウィーカだったが、ドライフルーツは大好きだった。

干し葡萄レーズン味の声に惹かれ、つい近寄ってしまう。

 

「ウチ、占いに使えるほど、お金に余裕無いで?」

 

素直に言うウィーカ。

本当は今住んでいるマンションですら分不相応だった。

研究生(補欠)に対しても惜しみなく経費をかけてくれるドレプロには感謝している。

もちろん、半年で芽が出なければ容赦無く取り上げられてしまう生活だが。

 

「お金は要らないよ。お嬢さんの運命が面白そうだったから、個人的に詳しく見てみたくなったのさ」

 

「ふ~ん。まぁええけど」

 

「じゃあ、まず名前を」

 

「ウィーカ」

 

「・・・?・・・それは、本名かえ?」

 

「・・・なんで?」

 

「いや、あまりにも不吉で、先が無い・・・」

 

「えっ?」

 

「本当にその名前なら、お嬢さんの人生はこの先ヒドイものだろうねぇ」

 

「・・・初華ういか。ホンマは美作みまさか初華ういかや」

 

「ッ!!!?」

 

占い師はバッと顔を上げ、目を見開き、ウィーカの顔を見た。

突然のことに驚き、占い師の迫力に気押され一歩下がるウィーカ。

 

「な、何なん・・・?」

 

「初華・・・美作・・・なんという劇的な名前じゃッ!!」

 

「名前だけでそないに・・・?」

 

「姓名判断を馬鹿にしてはいかんよお嬢さん!良いかい?お嬢さんの名前は非常に特殊な運命を持っておる。天格は『逆転成功』で、地格は『積極的』。じゃが人格は『不遇』で、外格は『挫折』。それでいて総格は『開運、勇気、成功』ッ!」

 

「全ッ然わからへんよ」

 

「ああ、すまないね。取り乱してしまった」

 

「簡単に言うと、どーゆーことなん?」

 

「・・・まずお嬢さんの姓な、文字を並べ替えてごらん。『みまさか』を並べ変えると『かみさま』になるじゃろ?つまり神様。最高の天運が付いておると思えば良い」

 

「おお!いままで全く気付かへんかった!なんちゅー有り難い苗字なんや、ウチ!」

 

「大切にしなされよ。この姓を捨てるようなことがあれば、どんな不運が舞い降りることか分かったもんじゃない。できれば結婚後も姓が変わらないようにした方が良い」

 

「・・・マジか・・・」

 

「それから要注意なのは人格の『不遇』。これは人間関係、特にライバルの存在が大きく人生に関わってくるということだが、心当たりは無いか?」

 

「あり過ぎて怖いくらいや・・・」

 

「それから気になるのは、外格の『挫折』か。これは、困っても助けてくれる存在が居ないということを示しておる。お嬢さんにこれから必要なのは、信じて頼れるパートナーということじゃな」

 

「・・・その点は、まぁ、今んとこ大丈夫かな?」

 

「・・・いや、久々に面白い運命を見させてもらった。ありがとうよ」

 

占い師は干し葡萄レーズン味の声でウィーカに礼を言うと、机をたたんで路地の奥へ去って行った。

怒涛の勢いに飲まれてしまっていたが、少しずつ冷静になってきたウィーカ。

 

「こりゃ、おかちさんに相談やなぁ・・・」

 

 

 

「ほ、本当ですかッ!?」

 

御徒町は思わず立ち上がってしまった。

そして周囲の視線に気が付き、ハッとなって座る。

最後の議題が片付き、最終の質疑応答後の解散ムード漂う会議室でのことだった。

もののついでのように告げられた一言が、御徒町にとっては盛大に重要な内容だったのだ。

それは上司からの一言だった。

 

御徒町、お前が抱えてる補欠の子な、正規の研究生にって話が挙がってるぞ?」

 

なんという幸運だろう。

降って湧いた夢のような話。

しかしまだ何の実績も無いウィーカが、なぜ急に抜擢されることになったのだろうか。

 

「とても有り難いお話です。できれば経緯をお聞かせください」

 

上司の説明はこうだった。

いま研修中の研究生の中に、3人組での活動を希望しているメンバーが居るらしい。

ユニットを組むこと自体は特に問題は無いのだが、実はすでにドレプロには3人組のアイドルが複数存在しており、いわゆる「パターン被り」は避けたい状況だった。

それに対し、そこに1人加えて4人組にするという案が浮上したわけだ。

しかし誰を加えるか、それが問題になった。

現状研究生として活動している者はみなすでにある程度進路が決まっているし、たった1名の補充のために新規オーディションを行うのは大袈裟すぎる。

そこで白羽の矢が立ったのが、補欠という存在のウィーカだったらしい。

 

「つまり、その四人組カルテットに加わるのであれば、ということですね?」

 

「そうだ。悪い話じゃないと思うが」

 

「・・・本人と、相談させてください」

 

「分かってると思うが、基本的にNOノーは無いぞ?」

 

「ですよね・・・」

 

「ちなみにこれが、その3人組の資料だ。持っていけ」

 

「ありがとうございます」

 

気付けば上司と自分だけになっていた会議室。

時計に目をやると、ウィーカとの約束である10時まであと5分しか無い。

急いで机の上の資料をカバンに突っ込み、会議室を出た御徒町

 

「ウィーカは何て言うだろうなぁ・・・」

 

 

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占いすげぇ・・・。