カミューネちゃんと金弧さん3

カミューネは、危険なツノの消失が戦闘終了の合図だと知って安心した。

ふわりと頬を撫でる風の中、キスビット特有の簡素な衣装が緩やかに揺れる。

金弧の頭をそっと離したカミューネ。

 

「私、いままですごく狭い世界で生きてたんだなって、改めて思い知りました」

 

そう言いながらカミューネは、うっとりとした表情で金弧を見詰めた。

そしてその場にしゃがみ、金弧のキモい手に小さな掌を重ねる。

 

 「えぇッ、どどどどーゆー意味でござるかッ?」

 

生まれてこのかた、こんな雰囲気など経験したことが無い金弧。

今まで読んできた薄い本の脳内ライブラリをどれだけめくっても、この状況は相手がこちらに惚れているとしか思えなかった。

動揺を隠し精一杯に平静を保ったつもりの一言も、呆気なく声が裏返っている。

 

「怖くない鬼さんも、居るんだなって。えへへ」

 

そんな金弧に向かって、カミューネはとびきりの無垢な笑顔を見せた。

完璧なる天使の微笑パーフェクトエンジェルスマイルは、金弧のキモい心臓ハートを一撃で射抜いた。

まして金弧は今、カミューネを見降ろす視点である。

下から見上げる笑顔には、襟元から覗く無脂肪乳がプラスオンされている。

 

「くぁwせdドゥーんッ!」

 

奇声を上げながらバネのように起き上がり、直立不動になる金弧。

汗がダラダラと滴る。

 

「あははっ。金弧さんって、本当に面白いですね」

 

そう言ったあと、カミューネは少しため息をついて、そして想いを吐露し始めた。 

 

「初めて金弧さんと会ったときのこと、覚えてますか?あのとき私、鬼の方々が怖くて怖くて、ちゃんとお話もできなかった・・・。でも紫電さんはとても強くて優しかった。その紫電さんを迎えに来た金弧さんたちも、すごく良い人たちだなって思ったんです。私も周りに居た鬼さんたちは、本当に怖い方ばかりだったんですけど、でも、今はもう変わってるはずなんです!だから、私も考え方を変えなくちゃって。金弧さんたちは、どうしてそんなに強く優しくなれるんですか?さっきも私のこと助けてくれました」

 

偶然、とは言えない金弧だった。

何と答えるのがベストかも分からない。

ただただ目を泳がせカミューネの顔とロリ乳を見ないようにしながらキモい鼻息を吹き出している。

 

「あ、もしかして!世界中を航海してるからですか?海の大きさのおかげとか!なぁんちゃって・・・」

 

「その通りでござるッ!よくぞ見抜かれたああぁぁぁぁーッ!!!」

 

無根拠なハイテンションで乗り切ることに決めた金弧。

 

「広く大きな海原が拙者らのホームグラウンドでしてな。海なのにグラウンドとはコレいかにデュフフフ。拙者クラスになれば大洋のチカラを我がモノとし・・・」

 

「いいなぁ、羨ましいなぁ・・・私も、連れて行ってくださいませんか?・・・ねぇ、金弧さん・・・」

 

 

 

「金弧さんッ」

 

 

 

「金弧さんってばッ!」

 

 

 

「ちょっと!金弧さんッ!?」

 

 

 

「ぶるぅあぁぁッ!?」

 

脳天と鼻からだくだくと血を流しつつ、金弧は目覚めた。

ぼんやりとした視界が徐々に輪郭を鮮明にし、ようやくピントが合う。

自分を覗き込むカミューネの顔が見えた。

 

「大丈夫ですか金弧さん!いきなり飛んでくるからびっくりしましたよ?」

 

腐っても鯛、キモくても鬼。

金弧の回復力と生命力はさすが鬼と言えた。

出血はすぐに止まり、立ち上がろうとしている。

 

「せ、拙者は・・・?」

 

「私がダガライガに襲われてて、やっとの思いでやっつけたところに、金弧さんが降って来たんです」

 

なるほど、自分の下に獣の毛皮らしきものがある。

これが緩衝材として働いたのか。

 

「す、すまぬが、手を貸して欲しいでござる」

 

とにかく立ち上がろうとする金弧に、カミューネは少し顔を赤らめながらそっぽを向き、冷たく言い放つ。

 

「それだけ元気なら、私が手を貸す必要なんて無いと思いますッ」

 

指摘されてチン弧を確認する金弧。

忌刃のツノより主張する第三の足が隆々とに盛り上がっていた。

 

「こ、これは、エリート鬼だけが持つ、ひ、秘密の危険なツノですぞ!」

 

「あーそーですか・・・」

 

完全に棒読み状態のカミューネ。

以前のジネで奴隷として過ごしていたカミューネが、その辺の知識を持っていないハズが無いのだ。

ともすれば、薄い本からの知識しか無い金弧よりもむしろ、よっぽど生々しいコトを色々知っている。

 

「あ、いやぁ、だから・・・そのぉ・・・デュルフフ」

 

キモい苦笑いの金弧。

しかし意外にも、カミューネは金弧に笑顔で言葉を掛けた。

 

「でも、いまから一人でどうしようかって思ってたので、ちょうど良かったです。一緒にジネまでついてきてくれませんか?」

 

自分に向けられた屈託の無い笑顔に既視感を覚えつつ、二度目のハートにズッキュンをキメられた金弧。

 

「もちろんでありますッ!拙者とならば安全な旅をお約束できますぞ!」

 

「あ、でも3メートル以内には近寄らないでくださいね」

 

「コポォォwwwこれは手ひどいwww」

 

「なんでそんなに嬉しそうなんですか・・・ちょっと怖いんですけど・・・」

 

「むはははwwwいやなに、コレくらいの距離感の方がwww拙者的にはwww」

 

「意味わかんないです・・・」

 

「でしょうなwww」