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FLY ME TO THE MOON

下記の話の続きです。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

8.心よ原始に戻れ

9.Beautiful World

10.慟哭へのモノローグ

 

キャラクターをお貸りしています。

今回はコチラの方々です。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
ドレスタニア(近海) 女性 紫電 気絶 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 女性 メリッサ お米の 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
奏山県(ワコク) 人間 男性 町田 真人間 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
奏山県(ワコク) 人間 女性 アスミ 睡眠 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 男性 クォル・ラ・ディマ 女好き らん (id:yourin_chi)
コードティラル神聖王国 人間 女性 ラミリア・パ・ドゥ 常識人 らん (id:yourin_chi)
ライスランド 精霊 男性 カウンチュド お米ヤロー (id:yaki295han)
カルマポリス アルビダ 女性 ルビネル お米の フール (id:TheFool199485)

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「担当を決めよう」

 

抜き足差し足でこっそりと浴場へ向かう中、カウンチュドがクォルにヒソヒソと提案する。

完全に酒の勢いを借りた町田を先頭に、中央がクォル、後ろにカウンチュドという隊列だ。

 

「担当?どーゆー意味だ?」

 

カウンチュドのやること為すこと言うこと言わないこと全てが理解困難であると実感しているクォルは、眉をひそめて問い返す。

 

「町田はあの通り、アスミに一直線だろう?それ以外の女子には目もくれないはずだ」

 

「そりゃそーだろな」

 

確かに、とクォルは思った。

クォル自身は広く女性全般を愛してやまないのだが、町田のように一途な男に対する好感もある。

自分に無いものを持っている相手を認めるというのも、戦士として強くなる為の嗜みだ。

 

「で、残りはお前んとこのラミリアと、海賊の紫電、メイドのメリッサだろ?」

 

そーいえば浴場にはラミリアも居ることをすっかり忘れていた。

女好きであるという自覚はあるが、ラミリアを除外して考えてしまうのはなぜだろう?

身内感が強すぎると言うことだろうか。

覗きの対象として考えてもみなかった。

そんなことより。

 

「おい、ルビネルさんとカミューネちゃんを忘れてるぞ」

 

「なんだクォ、カミューネみたいな子供も守備範囲なのか?ちょっと引くぞ」

 

カウンチュドに引かれるという、ひどく心外な屈辱を受けてしまった。

しかしここまで言われてクォルはハッとした。

自分には『特定の誰かの裸体を堪能したい』という目的は無かった。

いま自身を突き動かすのは『女風呂を覗きたい』という欲求だ。

そこに誰が居るのかは問題では無い。

 

「あと、ルビネルは俺のだから候補から外してもらおう」

 

なるほど。

そう来たか。

ルビネルには残念なお知らせだが、どうやら彼女はカウンチュドのものらしい。

 

「じゃあ町田がアスミちゃんで、あんたがルビネルさん。俺様はそれ以外全員ということで」

 

「強欲にもほどがあるぞ!クォ!!」

 

「しっ!」

 

思わず声を上げてしまったカウンチュドを町田とクォルが制する。

二人とも人差し指を口の前に立て、必死の形相でカウンチュドを睨んでいる。

 

「メリッサは俺が貰うからな!」

 

しかしここで動じないのがカウンチュドの凄いところだ。

何のために顔に布を巻き付けて覆面をしているのだろうか。

忍ぶ気持ちなど微塵も無いように声を張り上げた。

 

「分かったから静かにッ」

 

「では最終確認だ」

 

階段を上がりきったところで三人は顔を突き合わせるように集まった。

あと曲がり角ふたつで裸の楽園パラダイスが待っている。

 

「町田のターゲットはアスミ単独で決まりだな?」

 

眼鏡のレンズの奥で、決意が宿る力強い瞳を光らせて町田は頷いた。

完全にカウンチュドに乗せられている。

 

「俺のルビネルとメリッサは譲れない。これも、良いな?」

 

有無を言わせない鬼気迫る声で言うカウンチュド。

町田は生唾をごくりと飲み込みながら頷き、クォルはやれやれと言わんばかりの適当な了承サインを送る。

 

「で、残りはクォ、お前にくれてやろう」

 

なぜカウンチュドから配給を受けるような流れになっているのか不明だが、ここで問答しても始まらない。

三人はまた、足音を殺しながら大浴場へと歩を進めた。

途中、エウス村長の部屋の前を通過するところが最も緊張したが、何事も無くパスすることができた。

天は我に味方せり。

そして、とうとう脱衣所への侵入が成功した。

扉一枚のみの隔たりを以って、その先は裸の楽園パラダイスである。

 

「こ、この向こうに・・・アスミちゃんが・・・」

 

町田は今更ながら湧き起こる罪悪感と戦っていた。

心臓が高鳴る。

もしかしたらこの鼓動の音で存在がバレてしまうんじゃないかと思うほど、とてもドキドキしていた。

 

「さてさて、どーやって覗こうかね」

 

クォルは浴場側の壁を調べ、隙間や穴などを探している。

まさか扉を開けて堂々と、という訳にもいかない。

 

「集合だ!もう一度確認だ!」

 

急にカウンチュドが声を上げた。

町田は心臓が口から飛び出るほど驚いた。

一瞬だけ気絶したかもしれない。

クォルは浴場内の気配を探り、こちらに気付いた様子が無いことに安堵した。

そしてカウンチュドに冷たい視線を送る。

 

「どういうつもりだ・・・」

 

女風呂を覗くという行為が極秘であり隠密であり水面下であることは万国共通の常識だと思っていたが、どうやらカウンチュドには当てはまらないらしい。

クォルは注意する気も失せて問い正す。

 

「これを見てくれ。アウレイスも中に居るぞ」

 

見ればカウンチュドは、脱衣所に置かれている衣服、つまり現在入浴中の彼女らが脱いだ衣類を手にしていた。

 

「だ、駄目ですよ勝手に触っちゃ!」

 

慌てる町田。

カウンチュドが乱暴にむんずと掴んでいる布の塊の中には、アスミの服も入っていたのだ。

クォルもそれを確認し、一歩下がって言う。

 

「まさかそこまでやるとは・・・さすがに引くわ」

 

「一向に構わんッ!!」

 

クォルに引かれることが構わないという意味だろうが、ここに忍び込んでいることがバても構わないのかと思ってしまうほどの声に、呆れる以外の選択肢が無い。

 

「俺はアウレイスに興味は無い!クォの担当で良いか!?」

 

「あー、好きにしてくれ」

 

「同感です」

 

と、謎の確認作業が行われたその時、浴場内から紫色の光が放たれた。

壁面や扉の隙間から差し込む眩しい光。

ああ、こんなに隙間があったのか、とクォルは思った。

そして。

 

ドッバァァァァーッ!!!!

 

ザザァーッッッ!!!

 

浴場内から大きな音がした。

そして内側から扉に水が打ちつけられるような音。

誰かの悲鳴。

またも壮絶なびっくりドッキリに見舞われた町田は、その場に座り込んだ。

この数分だけで数年分の鼓動を打った気がする。

クォルは判断に迷っていた。

中で何か事件があったのならすぐに救助すべきだが、しかし自分がここに居ることの言い訳ができない。

さらに、特に何事も無かった場合のリスクが大きすぎる。

だからと言って今の物騒な音を無視することも気が咎めた。

カウンチュドは迷わず扉を開けた。

 

「ちょ!おいっ・・・!」

 

クォルの制止は届かない。

カウンチュドは湯煙の立ち昇る浴場内へと消えて行った。

 

「きゃああああああッッッ!!!!」

 

恐らくカミューネのものと思われる悲鳴が聞こえてきた。

そりゃそうだろうな。

女湯にいきなり男が入ってくれば。

 

「ま、待て!俺は・・・ぐはッ・・・物音が・・・うぐッ」

 

激しい打撃音と共に、カウンチュドの言い訳と呻きが聞こえる。

カウンチュドほどの猛者がこんなに打たれるとは、相手は誰だろう?

 

「乙女のやわ肌をタダ見なんて、それなりの覚悟はあるんでしょ?」

 

地を這うような、腹の底から絞り出したこの声に、クォルは聞き覚えがあった。

ラミリアだ。

ああ、ラミのやつ本気と書いてマジで怒ってやがる、と考えただけで、クォルの背中には冷たい汗が流れた。

とは言え中の状況は音だけでは分からない。

クォルはそっと、カウンチュドが開け放った扉から浴場を覗いた。

視界の中央で、カウンチュドがラミリアからめった打ちに遭っている。

ラミリアは腰にタオルを巻き付け、左手で胸を覆いながら右拳の連撃を放っている。

その少し奥に人の塊が見える。

よく見るとメリッサの上にアウレイス、その上にアスミが覆いかぶさっている。

アスミは気を失っているように見える。

何があったんだ一体。

その傍らにはルビネルが立っており、腰に手を当ててカウンチュドが打たれる様をただ見ている。

体を隠す気はまるで無いようだ。

すぐ隣にはしゃがみこんだカミューネがいる。

おや?

 

紫電サンが居ねーな・・・」

 

クォルが紫電の姿を探していると、背後から声が聞こえた。

 

「アスミちゃん!?」

 

どうやら町田が気を失っているアスミに気付いたようだ。

しかし扉が開いているこの状態で声を上げるのは非常にマズイ。

クォルは咄嗟に浴場へ背を向け、叫んだ。

 

「ラミ!すまねぇ!カウンチュドを止めらんなかったわ!大丈夫か!?」

 

全ての罪をカウンチュドに被せ、自分は止めに来た風を装うことにしたのだ。

まるで今来たように、そして紳士的に中を見ないように。

一瞬で考えたにしては上出来なこの策は、どうやら通用したようだ。

町田の声も一緒に誤魔化せたらしい。

 

「もう成敗したから大丈夫だけどコッチ向いたらアンタも殺スッ!!」

 

「お、おう・・・」

 

どうやらカウンチュドは還らぬヒトとなってしまったようだ。

自業自得を絵にかいたような最期だったな。

 

「あ、そうだ。クォ、町田くん、ちょっと来てくれる?」

 

思わぬ声の主はルビネルだった。

クォルも町田も驚いたが、一番驚いたのはラミリアだった。

 

「ル、ルビネルさん!?なんであいつら呼ぶの!?」

 

「だって、寝ちゃってるアスミちゃんも、気を失ってる紫電さんも、どうやって運ぶ気?男手があった方が良いじゃない」

 

至極もっともなことを当然のように言ってのけたルビネルだが、しかしここが女湯であり、自分たちが裸であることがまるで勘定に入っていない。

 

「そ、そりゃそうだけど・・・だってホラ、私たち、は、裸だし?」

 

これがルビネルの狙いなのかどうなのか、ラミリアは狼狽が勝り、さっきまでの怒気が消え失せている。

ルビネルの言葉でアスミが寝ているだけだということが分かり、町田も安心したようだ。

 

「では部屋まで運ぶのをお手伝いしますので、タ、タオルを!」

 

町田は浴場に背を向けながら、脱衣所に置かれていた大きめのタオルを数枚差し出した。

それをカミューネが受け取る。

ラミリアとルビネルがアスミを抱き起こし、タオルを巻きつける。

その間にようやく解放されたアウレイスもいそいそとタオルを手に取った。

 

「メリッサさんも!ほら、隠す隠す!」

 

ラミリアに促されたメリッサはタオルを巻こうとするが、しかしタオルの長さが足りない。

ん~ッと頑張ってみるものの、やはり無理なようだ。

その様子をアウレイスが恨めしそうに眺めている。

 

「あれ?そう言えば紫電サンは?」

 

「あぁッ!!!やっば!!」

 

クォルの問いに、ラミリアが大声を上げた。

 

 

 

「ん~・・・」

 

喉の渇きと頭の重さで目が覚めたアスミ。

じっとりと髪の毛が濡れている。

 

「あ、アスミちゃん!目が覚めたんだね、良かった」

 

ふいに隣から聞こえたのは町田の声だった。

顔を向けると、安堵の笑顔を浮かべる町田が見えた。

 

「私・・・確かお風呂に入ってて・・・」

 

まだぼんやりする頭で霞む記憶の糸をたどる。

しかし上手く思い出すことが出来ない。

 

「アスミちゃん、お水飲む?喉乾いたんじゃない?」

 

町田は水差しを取りに立ちあがった。

グラスに水を注ぎ、アスミに振り返る。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう・・・」

 

確かにすごく喉が渇いている。

でもなんで町田くんは私がお水を飲みたいのが分かったんだろう。

ぼんやりしながら、グラスを受け取るために上半身を起こしたアスミ。

と、町田が慌ててそっぽを向いた。

どうしたんだろう?

不思議に思っていると、なんだか体がスースーすることに気が付いた。

 

「きゃあっ」

 

小さな悲鳴を上げて、アスミは掛け布団を掴んだ。

どうして自分が裸なのか分からない。

 

「お、お風呂場で、寝ちゃってたんだよ、アスミちゃん」

 

顔だけ横を向いた町田は、再び手だけをアスミに向けてグラスを差し出した。

そっと手を伸ばしてグラスを受け取りながら、町田の言葉でだんだんと状況を思い出してきたアスミ。

とても冷えた、とは言い難い水だが、とにかく美味しいと感じた。

喉を通りすぎた水が体中に広がって行くのが分かる。

同時に頭もはっきりとしてきた。

 

「そうだ、私、お風呂でお酒を飲んで、寝ちゃったんだね」

 

寝ている間に何があったのかは分からない。

でも誰かがここまで自分を運んできてくれたことは確かだ。

 

「町田くんが部屋まで連れて来てくれたの?」

 

あのとき、タオルを巻いただけのアスミを、町田はここまで運んだ。

本当はお姫様抱っこがしたかった。

しかし熟睡して完全脱力している人間一人を抱えるというのは予想以上に筋力を必要とする。

結局、ルビネルとラミリアに協力してもらい、おんぶの体勢でここまで運んだ。

幸いにもアスミの部屋は浴場からそう遠くなかった。

 

「う、うん・・・」

 

アスミを運んだ時の感触が、手に、背に、じわじわと蘇る。

町田はまだアスミの方を向けずにいた。

変な汗が流れる。

 

「ありがと・・・。重くなかった?」

 

「全然ッ!軽かったよ!心配になるくらい軽かった!!」

 

アスミに向き直り、町田は大きな声で言った。

町田の反射的で全力な気遣いが手に取るように分かった。

女性に重いと言ってはいけないという刷り込みが、こんな反応を起こしたのだろう。

それが可笑しくて、愛しくて、アスミは笑った。

つられて、町田も笑った。

笑うと言う行為は不思議なもので、心を軽くしたり前向きにしたりする作用がある。

 

「ねぇ、町田くん、私を運ぶときね・・・見た?」

 

「みっ、見てないよ!絶対見てない!!」

 

アスミは何を、とは言っていないが、町田は全力で否定した。

 

「じゃあ、見たい・・・?」

 

「え・・・」

 

「向こう、向いててくれる?」

 

町田はアスミに言われるまま、背を向けた。

心臓が高鳴る。

脱衣所に忍び込んだときよりも、更に大きな音がする。

自分の耳のすぐ横に心臓がある気分だ。

かすかに、衣擦れの音がした。

その後は特に何も聞こえない。

アスミも、何も言わない。

 

「ア、アスミちゃん?」

 

町田が問い掛けるが、しかし返事は無い。

意を決した町田は思い切って振り返った。

そこには、静かに寝息を立てるアスミの姿があった。

 

「・・・おやすみ、アスミちゃん」

 

町田は静かにそう呟くと、カーテンを閉める為に窓に近付いた。

明るい満月が青い光を降り注いでいた。

 

 

 

自動的にペンが動き、すごい速度で文字を書いている。

その様子をポカンと口を開けて見ているのはメリッサだ。

ルビネルの呪詛をまじまじと見つめている。

 

「す、すごいです!ルビネルさん、これ、すごいです!」

 

語彙力が足りないのは残念だが、しかし感心しているのはよく伝わる。

素直に褒められるのは嬉しい。

 

「こうすると、ホラ、こんなこともできるわよ」

 

複数のペンを器用に操り、グラスに水を注いで見せた。

 

「わぁー!!すぐにお城で働けそうですー!!」

 

メリッサは、自分の代わりにペンが掃除をしてくれる様子を想像してニヤけた。

自分がお菓子を食べているときもペンが勝手に作業をしてくれる。

そんな夢のような能力。

 

「私も、頑張ったらできますか!?」

 

的外れで真剣な問い掛けに、ルビネルはフフッと笑った。

そしてメリッサの頬に手を伸ばし、優しく撫でながら言う。

 

「可能性は、ゼロでは無いかも知れないわね」

 

頬を撫でる指をゆっくりとスライドし、人差し指で唇に触れる。

妖艶な流し目でメリッサを見おろしながら、ルビネルは指をほんの少しだけ離した。

 

「舌を出して」

 

頭の上にハテナマークがたくさん浮かんでいるメリッサ。

ルビネルがなぜそんなことを言うのかまるで分からない。

しかし、ハッと思い付くことがあった。

もしかしたらペンを自在に操るための修行かもしれない!

ならばやるしかない!!

 

「んべぇ」

 

根限りの全力で舌を出したメリッサ。

あまりの盛大さにルビネルの調子が狂う。

 

「あ、あのね、もうちょっと控えめに。こんな感じで」

 

ルビネルは舌先だけをちろりと出し、メリッサに見せる。

普通はこうなるハズなのだが・・・。

メリッサがお手本を真似て舌を引っ込めたのを確認すると、ルビネルは気を取り直して続ける。

舌先に人差し指を当てる。

 

「このまま、舐めなさい」

 

「ふぁい」

 

ぱくっ。

んぐんぐ。

 

「ち、違う!そうじゃないわ!」

 

「ふえ?」

 

ルビネルの脳内で、今までの女性エモノたちの姿が再生される。

が、どの娘ももっと蕩けるような反応だった。

 

「ペンが動かせるようになるなら私、何でもしますよ!☆」

 

なぜメリッサは思い通りにならないのだろう。

目を輝かせながら自分を見詰めるメリッサに、ルビネルは軽い眩暈を覚えた。

しかし大事なセリフな聞き逃さない。

 

「何でも、と言ったわね?」

 

「はい!☆」

 

ここは少し強引でも、直接的手段に移るのが得策と判断したルビネル。

メリッサに、ベッドで横になるように指示をした。

そして、その首筋に舌を這わせようと身を乗り出した。

するとルビネルの見事な黒髪がメリッサの顔にかかる。

偶然にも鼻腔をくすぐる結果となった。

 

「ふぇ・・・へくちッ!」

 

「痛ッ!!!」

 

図らずも頭突きを喰らわす形となってしまった。

ルビネルは頭を押さえながらベッドを降り、窓際へフラフラと歩いた。

 

(ダメだわ・・・こんな手ごわい娘、初めて・・・)

 

窓の外にはキレイな満月が輝いている。

 

 

 

「よいしょっと」

 

クォルは抱えていた紫電が壁や扉に当たらないように気をつけながら、足で器用に扉を開けて部屋に入った。

あとはこのまま紫電をベッドに放り投げて任務完了。

の予定だった。

 

「・・・んん、ん?」

 

「あら?お目覚めかい紫電サン」

 

紫電はぼんやりとした視界の中に人の顔を認識し、焦点を合わせようと眉間にシワを寄せた。

これは、クォル?

 

「・・・ッいてて、オレは・・・?」

 

なぜか頭痛がする。

気分も悪い。

自分の状態を把握しなくては。

打撲や骨折などの怪我は無いようだが、ひどく体が重い。

座っているような気がする。

いや、寝ているのか。

 

「なッ!!!!」

 

ふいに覚醒した紫電の時間が止まった。

身に纏うのはタオルだけという半裸状態でクォルにお姫様抱っこされている。

どうしてこうなった。

 

「ああ、悪い悪い。すぐ降ろすから」

 

クォルはそう言って紫電をベッドにそっと降ろした。

あのあと、紫電を部屋まで運ぶのに、クォルが最適ということになったのだ。

半ばルビネルの独断だったが。

 

「お・・・王子さm・・・」

 

「は?」

 

無意識に口を衝いて出た言葉をどうにか途中で止めた紫電

しかしギリギリアウト。

ほとんど言ってしまっている。

幸運にもクォルには聞こえていなかったようだが。

 

「オレ・・・なんで、ってかクォルが何でオレの部屋に!?」

 

状況を整理したいが記憶も感情もぐちゃぐちゃでまとまらない。

とにかく昔からの夢であった『お姫様抱っこされる』が寝ている間に叶ったということだけは実感していた。

しかしなぜ半裸?

まさか・・・。

 

「オレたち・・・その、な、な、何かあった、ワケじゃないよな?」

 

目玉焼きが焼けるほどに熱くなった顔を隠すように俯きながら、紫電はクォルに尋ねる。

紫電が言う『オレたち』は、もちろん自分とクォルのことだが、しかしクォルの解釈は違っていた。

あの浴場で起きた事件のことを指しているのだと思ったのだ。

クォルからしてみれば何が起きたのか詳細は知らない。

しかし、紫電は気を失って湯船に浮かんでいた。

何かあったに決まっている。

 

「無くはないけど、まぁ、そんなに気にするほどのことじゃねーと思うぜ」

 

無くはない。

無くはないって結局のところあったってことか?

何があったんだ?

何が?

紫電の頭はパンク寸前だ。

 

「な、な、な・・・何かあった・・・の?」

 

「そりゃまぁ、何も無きゃこの状況にはならないしなぁ」

 

 タオル一枚という紫電の姿を直視するのは良くないだろうというクォルの気遣いは、紫電からすると都合が悪くて目を逸らしているように見える。

まさかこの男は、自分が寝ている隙にあんなことやこんなことを!?

想像しただけで紫電の頭はオーバーヒートしてしまった。

ここは難しく考えるのをやめよう。

海賊は海賊らしく。

紫電はガバッと起き上がり、ビシッとクォルに人差し指を突きつけた。

 

「この責任はしっかり取っt・・・ありゃふぇくぁwせdrf・・・」

 

ぼふっ。

ベッドに倒れ込んだ紫電

無理も無い。

今まで横になっていたところを、急に立ち上がったりすればまた酒が回る。

本日何度目かの『やれやれ』で、クォルは紫電に掛け布団を掛けてやる。

少し開いていた窓からは涼しい夜風が吹き込みカーテンを揺らす。

ベッドの中とは言え紫電の格好を考えると、窓は閉めておいた方が良さそうだ。

クォルは空に浮かぶ大きな満月に向かって、負けないくらい大きなため息をついた。

 

 

 

ヒヒキニスの入ったグラスを片手に、館の裏庭で月を眺めながらチビチビと飲んでいるのはラミリアだった。

思えば怒涛の展開でここまで来た。

今の目的はカミューネの兄を救出することだ。

しかし今日の話では、それ以上に大変なことになりそうな予感がする。

エウス村長はこのキスビットから差別を無くしたいと考えている。

それはもちろん素晴らしいことだし、もし協力できることがあるなら喜んで力になりたいと思う。

しかし、では具体的に何を、と考えても何も浮かばない。

果たして自分に何が出来るだろうか。

 

「どこで見たって、同じお月さまなのにねぇ」

 

故郷で見ていた月も、ここで見る月も、変わらず美しい。

なのに国が違えば習慣も思想もまるで違う。

同じ空の下で、こうも差が出るものなのか。

そこまで考えて、ラミリアは考えるのを止めた。

 

「私らしくないね、こんなの。やめたやめた」

 

気持ちに迷いや不安があるときは、体を動かすに限る。

風呂上がりなので汗をかかない程度に軽く、と思いながらスッと腰を落とす。

単純な正拳突きを2回、3回。

相手をイメージして、急所までの最短距離を最速で突くことをイメージする。

そのイメージをトレースするように、拳を突き出す。

と、ふいに背後から拍手が聞こえた。

驚いたラミリアは身を反転して構える。

そこには昼間、船の操縦をしていたアルファが立っていた。

全く気配を感じなかったことに不気味さを覚えながら、ラミリアは声をかける。

 

「あら、アルファさんじゃない。こんばんわ」

 

するとアルファは頭を下げて挨拶をした。

言葉は無い。

 

「あなた、声は出ないの?」

 

「いえ、必要とあらば」

 

「あら。良い声」

 

抑揚の無い短い言葉だった。

しかしその声は見た目とは裏腹に、機械的な音声ではなく生身の人間の声に聞こえる。

だが会話を続ける気は無いようだ。

 

「何しに来たの?」

 

「・・・」

 

「ま、無理に答えることも無いけどね」

 

「ワタシに・・・」

 

「ん?」

 

「武術を教えてくれませんか」

 

「え?」

 

ラミリアは突拍子もない申し出に、心の底から驚いた。

なぜ急にアルファがそんなことを願い出るのか、理解できない。

 

「なんで?」

 

そう尋ねるのが精いっぱいだった。

別に教えるのが嫌なわけではない。

ただ単純に、不思議だっただけなのだ。

 

「ワタシには、ココロというモノが理解できません」

 

アルファは視線を月に送り、そしてラミリアを見た。

 

「アナタは先ほど、月を見て何か悩んでいましたね。しかしそのあと空気をパンチするたびに、その悩みが消え去るように見えました」

 

そんなところから見られていたのかと恥ずかしくなったラミリア。

それを紛らわす為に少し声を大きくして返す。

 

「別に悩んでたわけじゃないけどね。でも『型』をやるとスッキリするってのはあるかな」

 

「ワタシには、アナタが先に頭脳で演算した軌道を、拳が追っているように見えました。そしてその予測軌道と実際の軌道の差が少なくなるにつれ、アナタの表情から曇りが消えていきました」

 

ラミリアは驚いた。

確かに『型』は、最も理想的な動きをまずイメージし、それに肉体をどこまで合わせられるかが肝となる。

先ほどの正拳突きも、そのようにやっていた。

しかしそれは自分の中の話であって、それを傍から見ていてここまで理解できるものだろうか。

 

「じゃあ、ちょっとやってみる?」

 

これが、アルファの求める心探しの役に立つかどうかは分からない。

しかしラミリアは、久しく感じていなかった感情を思い出していた。

自分が初めて師範代として道場に立ったあの日の気持ち。

 

「じゃあ、まず始めにこう言うのよ。『よろしくお願いします!』」

 

「よろしくお願いします」

 

アルファの声に相変わらず抑揚は無かったが、稽古は続いた。

丸く大きな月の光が降り注ぐ裏庭で。

 

 

 

カウンチュドは寒さで目を覚ました。

全身びしょ濡れである。

ここは大浴場。

全身が痛い。

そうだ、ラミリアの百烈拳を喰らったのだった。

だが目的は達せられた。

ルビネルとメリッサの全身をしっかりと脳裏に・・・あれ。

肝心な部分の記憶が無い。

おかしい。

寒い。

体が動かない。

お米が食べたい。