作品についての勝手な印象

私の勝手な、すんごく勝手な、本当に身勝手なイメージなのですが、皆様の作品に触れたとき、頭の中で流れる楽曲があります。

歌詞の内容が、と言うよりもむしろ曲の印象って感じなのですが。

 

長田先生(id:nagatakatsuki)のこの記事で「ああ、やっぱイメージする曲ってあるよな」と思いました。

nagatakatsukioekaki.hatenadiary.jp

 

で、PFCS界をフラフラと巡ったとき、私の脳内に流れる曲のうち、youtubeにあったものだけ貼ってみます。

「お前は壮大な勘違いをしている」と思われるかもしれませんが、ご容赦ください。

あと昭和生まれのオタクに相応しく、すごく偏ったジャンルです。

 

 

 

りぶろ(id:Hirtzia)さんはこの曲なんですよ。

hirtzia.hatenablog.com


Record of Lodoss War Adesso E Fortuna Japanese Version HD

初めてりぶろさんのイラストを拝見したときに「あ、なんか懐かしい」という錯覚を覚えたのは、この曲を聞いた時に私の中で広がるイメージに近かったからなんだと思います。

今ではこの曲を聞くと、一人寂しくベッドに座って、もう誰も開くことのない扉を見ているマトリカリアの背中が思い浮かびます。

 

 

 

りとさん(id:rito-jh)はこの曲なんですよ。

ritostyle.hatenablog.com


Dragon Half - Watashi No Tamagoyaki

最初に国の名前と主人公の名前で「半濁音多いな!」って思ったときから、頭の中ではずっとこの曲が流れてまして。

支離滅裂な歌詞とゴージャスな曲と三石琴乃さんの可愛い声のミスマッチが、なんだかパラくんたちの珍道中にも通じるものがあるなぁと思っております。

 

 

 

ほうさんは(id:o_osan)はこの曲なんですよ。

o-osan.hatenablog.jp


Zabadak feat. MOE - Kaerimichi

ルウリィドがこんなに「官能大国」であることを知らなかったときの印象です(笑)

ずっとセピア色の世界が広がっているような、そんなイメージを持っていました。

しかし今はピンク色の世界でサラトナグがぬるぬるしてるイメージが勝つwww

そっちの曲はありませんm(_ _)m

 

 

 

長田先生(id:nagatakatsuki)は2曲あるですよ。

pfcsss.hatenadiary.jp


sukisukianison 016 ビースト

こっちはもう完全にメリッサの影響です。

曲の雰囲気が私の中のメリッサによく合ってるんですよ。

 


Tank! Cowboy Bebop (Full version)

これはドレスタニアの夜明け頃ってイメージです。

夜の世界がそろそろ終わるよ~昼間の世界に交代するよ~って感じ。

脛に傷のある彼らが「あばよクソッタレ」と言いながら去って行くイメージです。

 

 

 

なんちゅさん(id:poke-monn)はこの曲なんですよ。

pfcsnatuyu.hatenablog.com


おはよう。

あんまりドロドロしてないときのイメージですw

ソラくんもシュンくんも、特に何も無いごく普通の平和な一日。

この曲を聞くと二人を思い出すんですよね。

取り立てて描くこともないような平穏だけど、二人にとってはとても大切な、そんな感じです。

 

 

 

フールさん(id:TheFool199485)はこの曲なんですよ。

thefool199485pf.hateblo.jp


映画『火の鳥 鳳凰編』主題歌

呪詛の神秘性と設定の壮大さが、とてもぴったりだと思うんですよねぇ。

この曲は不意に聞いて油断してると泣いてしまうような、変な感覚がします。

なんとも形容しがたいムワッとした感じが、カルマポリスの緑の霧を想起させるんでしょうかね。

 

 

というわけで、私の勝手な印象でした。

繰り返しますが、歌詞からの言葉の意味付けで選曲はしておりませんので。

あと古くてマイナーな曲が多いので知らない方の方が大半だと思います。

イメージする曲はあるけどyoutubeに無かった分は、残念ながらこのまま胸にしまっておきますね。

とり娘が加わりました ~外伝SS~

大きな嵐だった。

山の天候は変わりやすいと言うが、しかしこれはあんまりだ。

 

「夕方には天候が悪化する。早く帰りなさい」

 

私は、育ての親の言葉を今更思い出し、ひどく後悔した。

ここは険しい山の中である。

国を東西に走るウーゴ ハック山脈の中央付近、エイアズ ハイ川の源流を遥か足元に見降ろす位置だ。

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人間中心の都市、エイ マヨーカから落ち延びた私は今、マカ アイマスの地でキスビット人と共に暮らしている。

彼らキスビット人は自然と共に生きており、山の天候にも詳しい。

それは理解していた。

しかし私もも十七歳オトナである。

自分の身は自分で守ることが出来るし、なにより天気の変わり目はニオイで察知できる。

そんな慢心と過信、油断が今の状況を招いた。

自業自得である。

 

「こんなに雲の足が速いとは・・・」

 

天候の変化に気付き、下山しようとしたが間に合わなかった。

辛うじて岩の窪みに避難し、雨に打たれることは回避できたのだが、しかし身動きが取れない。

視界が悪くなるほどの豪雨と、それが横殴りになるような暴風。

私は荷物の中から毛布を取り出し体に巻き付けた。

天候の回復がいつになるか分からない以上、ここでしばらくじっとしていなければならない。

そのうち上空から嫌な音が聞こえ始めた。

山全体を揺らすようなゴロゴロという響き。

雷である。

 

「やれやれ、いよいよツイてないな」

 

私が愚痴を漏らすのと、暗い空が一瞬の閃光で白むのは同時だった。

そしてその直後、耳をつんざく轟音が鳴り響く。

こんなにうるさくては眠ることすらできない。

また空が光った。

と、私はその中に影を見た。

大小の鳥が二羽、暴風に煽られながら必死に飛んでいるのである。

もしやあれは。

 

「幸と不幸は表裏一体、か」

 

私は荷物の中から短剣を取り出し、それだけ持って豪雨の中に身を躍らせた。

先ほどの影を追うためである。

もともと私がこの山に入った目的は、弓矢の製造に使う矢羽根ヤバネの採集である。

キスビット人がミーアと呼ぶ人型有翼の生物、その羽根が矢羽根ヤバネとしてとても優秀なのだ。

 

■ミーア -mia-

ミーアには基本的にメスしか存在しない。

性染色体が他の生物よりも極めて優性であり、どの種族のオスと交配してもミーアのメスしか生まれない。

ミーアがどのようにして交配相手を選別するのかは解明されていない。

ごくごく稀に劣性遺伝子を持つメスの個体もおり、その個体が子を持った場合はオス側の特性を持って生まれたり、ミーアのオスになる場合もある。

ミーアのオスは30,000体に1体程度の確率でしか発生せず、非常に貴重である。

繁殖は胎生であるため、妊娠後期は胎児の重さによって飛べなくなる。

そのため出産をひかえたミーアのメスは巣に食料を蓄え、備える。

知能は極めて低く、人間換算では5歳児程度。

教育によってはもう少し賢くなるケースも確認されている。

ミーアを両親とするミーア(つまりオスのミーアが必要)の場合は高い知能を持つとも言われる。

発声器官を有しており、人語を話すことができるが、ミーア同士のコミュニケーションは簡単な鳴き声と翼の動きなどで行うため、訓練無しに会話はできない。

腕を持たないため足がとても器用だが、繊細な作業には向かない。

羽根の色、形状は多種多様であるが、ミーア自身は色を認識できないのであまり関係ない。

通常は5~6体の小さな群れで行動し、標高の高い山の洞窟などを住処にする。

寿命は30~40年程度(推測)。

 ~『原生生物とその亜種』より~

 

恐らく、先ほど私が見た影はミーアのものだろう。

この嵐の中を飛ぶということは、十中八九、巣へ戻る途中であるはずだ。

巣を突きとめることができれば羽根を拾うことは容易い。

そう考え、私はたまに光る空に一瞬だけ浮かぶ影を追った。

 

「ぐっ・・・」

 

体を宙に持って行かれそうなほどの突風が吹き、私はたまらず呻いた。

頬を打つ雨のつぶてが勢いを増し、痛みを覚えるほどだ。

と、その突風にバランスを崩したのか、小さい方の影がみるみる降下していく。

大きな影はそのまま飛び続けている。

私は一瞬だけ迷い、小さな影を追うことにした。

 

「なー! なー! なー!」

 

まるで子猫が鳴いているような声が、かすかに聞こえてきた。

滑る足元に注意しながら進み、ようやく声の主と対面した。

そこにはミーアの幼生が居た。

全長は私の膝まであるか無いか。

雨でずぶ濡れであり、全身泥まみれであった。

ミーアの幼生は私の存在に気付くと、鋭い目つきでキッと私を睨んだ。

 

「るぅー・・・・るぅ、るぅ、るぅ・・・」

 

警戒音だろうか、喉を鳴らすような声を発しつつ、私から離れようとする。

しかしそれもままならないようだ。

恐らく落下の衝撃によるものだろうが、脚が折れているように見える。

 

「怖がることはない。大丈夫だ、助けてやる」

 

私は精一杯優しい声をかけた。

腰を落とし視線の高さをミーアに合わせ、じりじりと距離を詰める。

ようやく触れられる距離まで近づき、手を伸ばしたその時。

 

「わ゛うッッ!!」

 

ミーアが私の腕に噛み付いてきた。

鋭い牙が2本、皮膚を破り突き刺さった。

よし、これで暴れられることなく捕まえられる。

腕を噛ませたのは私の作戦だった。

不用意に近付けば必要以上に暴れ、結果的に傷が悪化する恐れがある。

しかし攻撃をした直後なら動きが止まると踏んだのだ。

狙いは成功した。

ただ思ったよりも牙が逞しかったことは計算外だった。

想定よりも深手を負ってしまった。

 

「なんて牙だよ、まったく」

 

私は腕を噛ませたままミーアの目をじっと見つめ、空いている左腕でその頭を撫でた。

辛抱強く、優しく、撫で続けた。

どのくらいそうしていただろうか、ミーアが腕を噛む力が緩んできた。

 

「んあ・・・」

 

私の血とミーアの唾液が雨にうたれ流れていく。

 

「そう、良い子だ。暴れるなよ?」

 

ミーアは私の顔と、赤い血が溢れる腕を交互に見て、そして腕の傷を舐めた。

ぺろぺろと数回舐めては、ちらりと私の顔を見る。

 

「ありがとう。もう、治ったよ」

 

というのは根も葉もない嘘だが、しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。

私はゆっくりと腕を引き、服の左袖を裂いて傷に巻き付けた。

ミーアが幼生ではなかったら、片腕では運べなかっただろう。

私は左腕だけでミーアを抱え、下山した。

 

「エウスオーファン、また珍しいものを拾ってきたな」

 

やっとの思いで家のある集落まで帰りついたのは翌朝のことであった。

すっかり嵐は過ぎ去り、忌々しいほどに太陽が輝いている。

 

「脚が折れているんだ。診てやってくれないか」

 

そう言って私はミーアの幼生を、育ての親に差し出そうとした。

すると。

 

「なー!なー!」

 

ミーアが私の方に向かって鳴いた。

 

「いたく気に入られたらしいな。お前も怪我をしているんだろう?まとめて診てやるから入りなさい」

 

 

 

それから半年ほど経ち、すっかり怪我も治ったミーアだったが、自分の世界へ帰ろうとはしなかった。

何度も飛び立たせようとするのだが、すぐに私の元へ戻ってきてしまう。

 

「なー!なー!」

 

集落の年長者に色々と尋ねて回ったが、今までミーアに遭遇したことはあっても、飼ったことなど誰も経験していなかった。

私は困り果て、本日何度目かの飛来帰還を果たしたミーアに語り掛けた。

 

「お前、山には家族が居るんだろ?いいのか帰らなくて」

 

「なー!え・・・ぅ・・・えうすっ!なー!」

 

驚いた。

人語を話す器官を有していることは知っていたが、まさか名前を呼ばれるとは思ってもみなかったからだ。

 

「エウスオーファン、これもビットのお導きかも知れんぞ?」

 

「また『ビットの贈り物チュリオビット』か?やれやれ・・・」

 

キスビット人には、自身に起こる全ての事柄を、信仰の対象である土壌神ビットが遣わしたものであると考えて、ありのまま受け入れる習慣がある。

人間である私がすんなり受け入れられ、今まで庇護されてきたのも、この習慣のおかげではあるのだが。

 

「こいつがビットの贈り物チュリオビットか。とんだ贈り物だな」

 

「えうす!ちゅりお!なー!なー!」

 

 

 

そして数年後、私は自分の能力を充分に磨き、集落を出ることを決意した。

私を救ってくれたキスビット人、タミューサの意思を継ぐために。

この国の在り方を変え、差別に苦しむ人を救うために。

 

「チュリオも行く!エウスと一緒!行く!」

 

「駄目だ。お前はここに残りなさい」

 

「やだ!チュリオも!・・・やだ・・・いく・・・」

 

「・・・」

 

「お風呂、入るから。葉っぱ、食べるから。チュリオも・・・」

 

「・・・蛇は?」

 

「食べない!」

 

「仕方ないな。ちゃんと言うこと聞けよ?」

 

「チュリオ聞くよ!良いチュリオだよ!葉っぱ食べるよ!」

 

「分かった分かった」

 

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FLY ME TO THE MOON

下記の話の続きです。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

8.心よ原始に戻れ

9.Beautiful World

10.慟哭へのモノローグ

 

キャラクターをお貸りしています。

今回はコチラの方々です。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
ドレスタニア(近海) 女性 紫電 気絶 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 女性 メリッサ お米の 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
奏山県(ワコク) 人間 男性 町田 真人間 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
奏山県(ワコク) 人間 女性 アスミ 睡眠 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 男性 クォル・ラ・ディマ 女好き らん (id:yourin_chi)
コードティラル神聖王国 人間 女性 ラミリア・パ・ドゥ 常識人 らん (id:yourin_chi)
ライスランド 精霊 男性 カウンチュド お米ヤロー (id:yaki295han)
カルマポリス アルビダ 女性 ルビネル お米の フール (id:TheFool199485)

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「担当を決めよう」

 

抜き足差し足でこっそりと浴場へ向かう中、カウンチュドがクォルにヒソヒソと提案する。

完全に酒の勢いを借りた町田を先頭に、中央がクォル、後ろにカウンチュドという隊列だ。

 

「担当?どーゆー意味だ?」

 

カウンチュドのやること為すこと言うこと言わないこと全てが理解困難であると実感しているクォルは、眉をひそめて問い返す。

 

「町田はあの通り、アスミに一直線だろう?それ以外の女子には目もくれないはずだ」

 

「そりゃそーだろな」

 

確かに、とクォルは思った。

クォル自身は広く女性全般を愛してやまないのだが、町田のように一途な男に対する好感もある。

自分に無いものを持っている相手を認めるというのも、戦士として強くなる為の嗜みだ。

 

「で、残りはお前んとこのラミリアと、海賊の紫電、メイドのメリッサだろ?」

 

そーいえば浴場にはラミリアも居ることをすっかり忘れていた。

女好きであるという自覚はあるが、ラミリアを除外して考えてしまうのはなぜだろう?

身内感が強すぎると言うことだろうか。

覗きの対象として考えてもみなかった。

そんなことより。

 

「おい、ルビネルさんとカミューネちゃんを忘れてるぞ」

 

「なんだクォ、カミューネみたいな子供も守備範囲なのか?ちょっと引くぞ」

 

カウンチュドに引かれるという、ひどく心外な屈辱を受けてしまった。

しかしここまで言われてクォルはハッとした。

自分には『特定の誰かの裸体を堪能したい』という目的は無かった。

いま自身を突き動かすのは『女風呂を覗きたい』という欲求だ。

そこに誰が居るのかは問題では無い。

 

「あと、ルビネルは俺のだから候補から外してもらおう」

 

なるほど。

そう来たか。

ルビネルには残念なお知らせだが、どうやら彼女はカウンチュドのものらしい。

 

「じゃあ町田がアスミちゃんで、あんたがルビネルさん。俺様はそれ以外全員ということで」

 

「強欲にもほどがあるぞ!クォ!!」

 

「しっ!」

 

思わず声を上げてしまったカウンチュドを町田とクォルが制する。

二人とも人差し指を口の前に立て、必死の形相でカウンチュドを睨んでいる。

 

「メリッサは俺が貰うからな!」

 

しかしここで動じないのがカウンチュドの凄いところだ。

何のために顔に布を巻き付けて覆面をしているのだろうか。

忍ぶ気持ちなど微塵も無いように声を張り上げた。

 

「分かったから静かにッ」

 

「では最終確認だ」

 

階段を上がりきったところで三人は顔を突き合わせるように集まった。

あと曲がり角ふたつで裸の楽園パラダイスが待っている。

 

「町田のターゲットはアスミ単独で決まりだな?」

 

眼鏡のレンズの奥で、決意が宿る力強い瞳を光らせて町田は頷いた。

完全にカウンチュドに乗せられている。

 

「俺のルビネルとメリッサは譲れない。これも、良いな?」

 

有無を言わせない鬼気迫る声で言うカウンチュド。

町田は生唾をごくりと飲み込みながら頷き、クォルはやれやれと言わんばかりの適当な了承サインを送る。

 

「で、残りはクォ、お前にくれてやろう」

 

なぜカウンチュドから配給を受けるような流れになっているのか不明だが、ここで問答しても始まらない。

三人はまた、足音を殺しながら大浴場へと歩を進めた。

途中、エウス村長の部屋の前を通過するところが最も緊張したが、何事も無くパスすることができた。

天は我に味方せり。

そして、とうとう脱衣所への侵入が成功した。

扉一枚のみの隔たりを以って、その先は裸の楽園パラダイスである。

 

「こ、この向こうに・・・アスミちゃんが・・・」

 

町田は今更ながら湧き起こる罪悪感と戦っていた。

心臓が高鳴る。

もしかしたらこの鼓動の音で存在がバレてしまうんじゃないかと思うほど、とてもドキドキしていた。

 

「さてさて、どーやって覗こうかね」

 

クォルは浴場側の壁を調べ、隙間や穴などを探している。

まさか扉を開けて堂々と、という訳にもいかない。

 

「集合だ!もう一度確認だ!」

 

急にカウンチュドが声を上げた。

町田は心臓が口から飛び出るほど驚いた。

一瞬だけ気絶したかもしれない。

クォルは浴場内の気配を探り、こちらに気付いた様子が無いことに安堵した。

そしてカウンチュドに冷たい視線を送る。

 

「どういうつもりだ・・・」

 

女風呂を覗くという行為が極秘であり隠密であり水面下であることは万国共通の常識だと思っていたが、どうやらカウンチュドには当てはまらないらしい。

クォルは注意する気も失せて問い正す。

 

「これを見てくれ。アウレイスも中に居るぞ」

 

見ればカウンチュドは、脱衣所に置かれている衣服、つまり現在入浴中の彼女らが脱いだ衣類を手にしていた。

 

「だ、駄目ですよ勝手に触っちゃ!」

 

慌てる町田。

カウンチュドが乱暴にむんずと掴んでいる布の塊の中には、アスミの服も入っていたのだ。

クォルもそれを確認し、一歩下がって言う。

 

「まさかそこまでやるとは・・・さすがに引くわ」

 

「一向に構わんッ!!」

 

クォルに引かれることが構わないという意味だろうが、ここに忍び込んでいることがバても構わないのかと思ってしまうほどの声に、呆れる以外の選択肢が無い。

 

「俺はアウレイスに興味は無い!クォの担当で良いか!?」

 

「あー、好きにしてくれ」

 

「同感です」

 

と、謎の確認作業が行われたその時、浴場内から紫色の光が放たれた。

壁面や扉の隙間から差し込む眩しい光。

ああ、こんなに隙間があったのか、とクォルは思った。

そして。

 

ドッバァァァァーッ!!!!

 

ザザァーッッッ!!!

 

浴場内から大きな音がした。

そして内側から扉に水が打ちつけられるような音。

誰かの悲鳴。

またも壮絶なびっくりドッキリに見舞われた町田は、その場に座り込んだ。

この数分だけで数年分の鼓動を打った気がする。

クォルは判断に迷っていた。

中で何か事件があったのならすぐに救助すべきだが、しかし自分がここに居ることの言い訳ができない。

さらに、特に何事も無かった場合のリスクが大きすぎる。

だからと言って今の物騒な音を無視することも気が咎めた。

カウンチュドは迷わず扉を開けた。

 

「ちょ!おいっ・・・!」

 

クォルの制止は届かない。

カウンチュドは湯煙の立ち昇る浴場内へと消えて行った。

 

「きゃああああああッッッ!!!!」

 

恐らくカミューネのものと思われる悲鳴が聞こえてきた。

そりゃそうだろうな。

女湯にいきなり男が入ってくれば。

 

「ま、待て!俺は・・・ぐはッ・・・物音が・・・うぐッ」

 

激しい打撃音と共に、カウンチュドの言い訳と呻きが聞こえる。

カウンチュドほどの猛者がこんなに打たれるとは、相手は誰だろう?

 

「乙女のやわ肌をタダ見なんて、それなりの覚悟はあるんでしょ?」

 

地を這うような、腹の底から絞り出したこの声に、クォルは聞き覚えがあった。

ラミリアだ。

ああ、ラミのやつ本気と書いてマジで怒ってやがる、と考えただけで、クォルの背中には冷たい汗が流れた。

とは言え中の状況は音だけでは分からない。

クォルはそっと、カウンチュドが開け放った扉から浴場を覗いた。

視界の中央で、カウンチュドがラミリアからめった打ちに遭っている。

ラミリアは腰にタオルを巻き付け、左手で胸を覆いながら右拳の連撃を放っている。

その少し奥に人の塊が見える。

よく見るとメリッサの上にアウレイス、その上にアスミが覆いかぶさっている。

アスミは気を失っているように見える。

何があったんだ一体。

その傍らにはルビネルが立っており、腰に手を当ててカウンチュドが打たれる様をただ見ている。

体を隠す気はまるで無いようだ。

すぐ隣にはしゃがみこんだカミューネがいる。

おや?

 

紫電サンが居ねーな・・・」

 

クォルが紫電の姿を探していると、背後から声が聞こえた。

 

「アスミちゃん!?」

 

どうやら町田が気を失っているアスミに気付いたようだ。

しかし扉が開いているこの状態で声を上げるのは非常にマズイ。

クォルは咄嗟に浴場へ背を向け、叫んだ。

 

「ラミ!すまねぇ!カウンチュドを止めらんなかったわ!大丈夫か!?」

 

全ての罪をカウンチュドに被せ、自分は止めに来た風を装うことにしたのだ。

まるで今来たように、そして紳士的に中を見ないように。

一瞬で考えたにしては上出来なこの策は、どうやら通用したようだ。

町田の声も一緒に誤魔化せたらしい。

 

「もう成敗したから大丈夫だけどコッチ向いたらアンタも殺スッ!!」

 

「お、おう・・・」

 

どうやらカウンチュドは還らぬヒトとなってしまったようだ。

自業自得を絵にかいたような最期だったな。

 

「あ、そうだ。クォ、町田くん、ちょっと来てくれる?」

 

思わぬ声の主はルビネルだった。

クォルも町田も驚いたが、一番驚いたのはラミリアだった。

 

「ル、ルビネルさん!?なんであいつら呼ぶの!?」

 

「だって、寝ちゃってるアスミちゃんも、気を失ってる紫電さんも、どうやって運ぶ気?男手があった方が良いじゃない」

 

至極もっともなことを当然のように言ってのけたルビネルだが、しかしここが女湯であり、自分たちが裸であることがまるで勘定に入っていない。

 

「そ、そりゃそうだけど・・・だってホラ、私たち、は、裸だし?」

 

これがルビネルの狙いなのかどうなのか、ラミリアは狼狽が勝り、さっきまでの怒気が消え失せている。

ルビネルの言葉でアスミが寝ているだけだということが分かり、町田も安心したようだ。

 

「では部屋まで運ぶのをお手伝いしますので、タ、タオルを!」

 

町田は浴場に背を向けながら、脱衣所に置かれていた大きめのタオルを数枚差し出した。

それをカミューネが受け取る。

ラミリアとルビネルがアスミを抱き起こし、タオルを巻きつける。

その間にようやく解放されたアウレイスもいそいそとタオルを手に取った。

 

「メリッサさんも!ほら、隠す隠す!」

 

ラミリアに促されたメリッサはタオルを巻こうとするが、しかしタオルの長さが足りない。

ん~ッと頑張ってみるものの、やはり無理なようだ。

その様子をアウレイスが恨めしそうに眺めている。

 

「あれ?そう言えば紫電サンは?」

 

「あぁッ!!!やっば!!」

 

クォルの問いに、ラミリアが大声を上げた。

 

 

 

「ん~・・・」

 

喉の渇きと頭の重さで目が覚めたアスミ。

じっとりと髪の毛が濡れている。

 

「あ、アスミちゃん!目が覚めたんだね、良かった」

 

ふいに隣から聞こえたのは町田の声だった。

顔を向けると、安堵の笑顔を浮かべる町田が見えた。

 

「私・・・確かお風呂に入ってて・・・」

 

まだぼんやりする頭で霞む記憶の糸をたどる。

しかし上手く思い出すことが出来ない。

 

「アスミちゃん、お水飲む?喉乾いたんじゃない?」

 

町田は水差しを取りに立ちあがった。

グラスに水を注ぎ、アスミに振り返る。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう・・・」

 

確かにすごく喉が渇いている。

でもなんで町田くんは私がお水を飲みたいのが分かったんだろう。

ぼんやりしながら、グラスを受け取るために上半身を起こしたアスミ。

と、町田が慌ててそっぽを向いた。

どうしたんだろう?

不思議に思っていると、なんだか体がスースーすることに気が付いた。

 

「きゃあっ」

 

小さな悲鳴を上げて、アスミは掛け布団を掴んだ。

どうして自分が裸なのか分からない。

 

「お、お風呂場で、寝ちゃってたんだよ、アスミちゃん」

 

顔だけ横を向いた町田は、再び手だけをアスミに向けてグラスを差し出した。

そっと手を伸ばしてグラスを受け取りながら、町田の言葉でだんだんと状況を思い出してきたアスミ。

とても冷えた、とは言い難い水だが、とにかく美味しいと感じた。

喉を通りすぎた水が体中に広がって行くのが分かる。

同時に頭もはっきりとしてきた。

 

「そうだ、私、お風呂でお酒を飲んで、寝ちゃったんだね」

 

寝ている間に何があったのかは分からない。

でも誰かがここまで自分を運んできてくれたことは確かだ。

 

「町田くんが部屋まで連れて来てくれたの?」

 

あのとき、タオルを巻いただけのアスミを、町田はここまで運んだ。

本当はお姫様抱っこがしたかった。

しかし熟睡して完全脱力している人間一人を抱えるというのは予想以上に筋力を必要とする。

結局、ルビネルとラミリアに協力してもらい、おんぶの体勢でここまで運んだ。

幸いにもアスミの部屋は浴場からそう遠くなかった。

 

「う、うん・・・」

 

アスミを運んだ時の感触が、手に、背に、じわじわと蘇る。

町田はまだアスミの方を向けずにいた。

変な汗が流れる。

 

「ありがと・・・。重くなかった?」

 

「全然ッ!軽かったよ!心配になるくらい軽かった!!」

 

アスミに向き直り、町田は大きな声で言った。

町田の反射的で全力な気遣いが手に取るように分かった。

女性に重いと言ってはいけないという刷り込みが、こんな反応を起こしたのだろう。

それが可笑しくて、愛しくて、アスミは笑った。

つられて、町田も笑った。

笑うと言う行為は不思議なもので、心を軽くしたり前向きにしたりする作用がある。

 

「ねぇ、町田くん、私を運ぶときね・・・見た?」

 

「みっ、見てないよ!絶対見てない!!」

 

アスミは何を、とは言っていないが、町田は全力で否定した。

 

「じゃあ、見たい・・・?」

 

「え・・・」

 

「向こう、向いててくれる?」

 

町田はアスミに言われるまま、背を向けた。

心臓が高鳴る。

脱衣所に忍び込んだときよりも、更に大きな音がする。

自分の耳のすぐ横に心臓がある気分だ。

かすかに、衣擦れの音がした。

その後は特に何も聞こえない。

アスミも、何も言わない。

 

「ア、アスミちゃん?」

 

町田が問い掛けるが、しかし返事は無い。

意を決した町田は思い切って振り返った。

そこには、静かに寝息を立てるアスミの姿があった。

 

「・・・おやすみ、アスミちゃん」

 

町田は静かにそう呟くと、カーテンを閉める為に窓に近付いた。

明るい満月が青い光を降り注いでいた。

 

 

 

自動的にペンが動き、すごい速度で文字を書いている。

その様子をポカンと口を開けて見ているのはメリッサだ。

ルビネルの呪詛をまじまじと見つめている。

 

「す、すごいです!ルビネルさん、これ、すごいです!」

 

語彙力が足りないのは残念だが、しかし感心しているのはよく伝わる。

素直に褒められるのは嬉しい。

 

「こうすると、ホラ、こんなこともできるわよ」

 

複数のペンを器用に操り、グラスに水を注いで見せた。

 

「わぁー!!すぐにお城で働けそうですー!!」

 

メリッサは、自分の代わりにペンが掃除をしてくれる様子を想像してニヤけた。

自分がお菓子を食べているときもペンが勝手に作業をしてくれる。

そんな夢のような能力。

 

「私も、頑張ったらできますか!?」

 

的外れで真剣な問い掛けに、ルビネルはフフッと笑った。

そしてメリッサの頬に手を伸ばし、優しく撫でながら言う。

 

「可能性は、ゼロでは無いかも知れないわね」

 

頬を撫でる指をゆっくりとスライドし、人差し指で唇に触れる。

妖艶な流し目でメリッサを見おろしながら、ルビネルは指をほんの少しだけ離した。

 

「舌を出して」

 

頭の上にハテナマークがたくさん浮かんでいるメリッサ。

ルビネルがなぜそんなことを言うのかまるで分からない。

しかし、ハッと思い付くことがあった。

もしかしたらペンを自在に操るための修行かもしれない!

ならばやるしかない!!

 

「んべぇ」

 

根限りの全力で舌を出したメリッサ。

あまりの盛大さにルビネルの調子が狂う。

 

「あ、あのね、もうちょっと控えめに。こんな感じで」

 

ルビネルは舌先だけをちろりと出し、メリッサに見せる。

普通はこうなるハズなのだが・・・。

メリッサがお手本を真似て舌を引っ込めたのを確認すると、ルビネルは気を取り直して続ける。

舌先に人差し指を当てる。

 

「このまま、舐めなさい」

 

「ふぁい」

 

ぱくっ。

んぐんぐ。

 

「ち、違う!そうじゃないわ!」

 

「ふえ?」

 

ルビネルの脳内で、今までの女性エモノたちの姿が再生される。

が、どの娘ももっと蕩けるような反応だった。

 

「ペンが動かせるようになるなら私、何でもしますよ!☆」

 

なぜメリッサは思い通りにならないのだろう。

目を輝かせながら自分を見詰めるメリッサに、ルビネルは軽い眩暈を覚えた。

しかし大事なセリフな聞き逃さない。

 

「何でも、と言ったわね?」

 

「はい!☆」

 

ここは少し強引でも、直接的手段に移るのが得策と判断したルビネル。

メリッサに、ベッドで横になるように指示をした。

そして、その首筋に舌を這わせようと身を乗り出した。

するとルビネルの見事な黒髪がメリッサの顔にかかる。

偶然にも鼻腔をくすぐる結果となった。

 

「ふぇ・・・へくちッ!」

 

「痛ッ!!!」

 

図らずも頭突きを喰らわす形となってしまった。

ルビネルは頭を押さえながらベッドを降り、窓際へフラフラと歩いた。

 

(ダメだわ・・・こんな手ごわい娘、初めて・・・)

 

窓の外にはキレイな満月が輝いている。

 

 

 

「よいしょっと」

 

クォルは抱えていた紫電が壁や扉に当たらないように気をつけながら、足で器用に扉を開けて部屋に入った。

あとはこのまま紫電をベッドに放り投げて任務完了。

の予定だった。

 

「・・・んん、ん?」

 

「あら?お目覚めかい紫電サン」

 

紫電はぼんやりとした視界の中に人の顔を認識し、焦点を合わせようと眉間にシワを寄せた。

これは、クォル?

 

「・・・ッいてて、オレは・・・?」

 

なぜか頭痛がする。

気分も悪い。

自分の状態を把握しなくては。

打撲や骨折などの怪我は無いようだが、ひどく体が重い。

座っているような気がする。

いや、寝ているのか。

 

「なッ!!!!」

 

ふいに覚醒した紫電の時間が止まった。

身に纏うのはタオルだけという半裸状態でクォルにお姫様抱っこされている。

どうしてこうなった。

 

「ああ、悪い悪い。すぐ降ろすから」

 

クォルはそう言って紫電をベッドにそっと降ろした。

あのあと、紫電を部屋まで運ぶのに、クォルが最適ということになったのだ。

半ばルビネルの独断だったが。

 

「お・・・王子さm・・・」

 

「は?」

 

無意識に口を衝いて出た言葉をどうにか途中で止めた紫電

しかしギリギリアウト。

ほとんど言ってしまっている。

幸運にもクォルには聞こえていなかったようだが。

 

「オレ・・・なんで、ってかクォルが何でオレの部屋に!?」

 

状況を整理したいが記憶も感情もぐちゃぐちゃでまとまらない。

とにかく昔からの夢であった『お姫様抱っこされる』が寝ている間に叶ったということだけは実感していた。

しかしなぜ半裸?

まさか・・・。

 

「オレたち・・・その、な、な、何かあった、ワケじゃないよな?」

 

目玉焼きが焼けるほどに熱くなった顔を隠すように俯きながら、紫電はクォルに尋ねる。

紫電が言う『オレたち』は、もちろん自分とクォルのことだが、しかしクォルの解釈は違っていた。

あの浴場で起きた事件のことを指しているのだと思ったのだ。

クォルからしてみれば何が起きたのか詳細は知らない。

しかし、紫電は気を失って湯船に浮かんでいた。

何かあったに決まっている。

 

「無くはないけど、まぁ、そんなに気にするほどのことじゃねーと思うぜ」

 

無くはない。

無くはないって結局のところあったってことか?

何があったんだ?

何が?

紫電の頭はパンク寸前だ。

 

「な、な、な・・・何かあった・・・の?」

 

「そりゃまぁ、何も無きゃこの状況にはならないしなぁ」

 

 タオル一枚という紫電の姿を直視するのは良くないだろうというクォルの気遣いは、紫電からすると都合が悪くて目を逸らしているように見える。

まさかこの男は、自分が寝ている隙にあんなことやこんなことを!?

想像しただけで紫電の頭はオーバーヒートしてしまった。

ここは難しく考えるのをやめよう。

海賊は海賊らしく。

紫電はガバッと起き上がり、ビシッとクォルに人差し指を突きつけた。

 

「この責任はしっかり取っt・・・ありゃふぇくぁwせdrf・・・」

 

ぼふっ。

ベッドに倒れ込んだ紫電

無理も無い。

今まで横になっていたところを、急に立ち上がったりすればまた酒が回る。

本日何度目かの『やれやれ』で、クォルは紫電に掛け布団を掛けてやる。

少し開いていた窓からは涼しい夜風が吹き込みカーテンを揺らす。

ベッドの中とは言え紫電の格好を考えると、窓は閉めておいた方が良さそうだ。

クォルは空に浮かぶ大きな満月に向かって、負けないくらい大きなため息をついた。

 

 

 

ヒヒキニスの入ったグラスを片手に、館の裏庭で月を眺めながらチビチビと飲んでいるのはラミリアだった。

思えば怒涛の展開でここまで来た。

今の目的はカミューネの兄を救出することだ。

しかし今日の話では、それ以上に大変なことになりそうな予感がする。

エウス村長はこのキスビットから差別を無くしたいと考えている。

それはもちろん素晴らしいことだし、もし協力できることがあるなら喜んで力になりたいと思う。

しかし、では具体的に何を、と考えても何も浮かばない。

果たして自分に何が出来るだろうか。

 

「どこで見たって、同じお月さまなのにねぇ」

 

故郷で見ていた月も、ここで見る月も、変わらず美しい。

なのに国が違えば習慣も思想もまるで違う。

同じ空の下で、こうも差が出るものなのか。

そこまで考えて、ラミリアは考えるのを止めた。

 

「私らしくないね、こんなの。やめたやめた」

 

気持ちに迷いや不安があるときは、体を動かすに限る。

風呂上がりなので汗をかかない程度に軽く、と思いながらスッと腰を落とす。

単純な正拳突きを2回、3回。

相手をイメージして、急所までの最短距離を最速で突くことをイメージする。

そのイメージをトレースするように、拳を突き出す。

と、ふいに背後から拍手が聞こえた。

驚いたラミリアは身を反転して構える。

そこには昼間、船の操縦をしていたアルファが立っていた。

全く気配を感じなかったことに不気味さを覚えながら、ラミリアは声をかける。

 

「あら、アルファさんじゃない。こんばんわ」

 

するとアルファは頭を下げて挨拶をした。

言葉は無い。

 

「あなた、声は出ないの?」

 

「いえ、必要とあらば」

 

「あら。良い声」

 

抑揚の無い短い言葉だった。

しかしその声は見た目とは裏腹に、機械的な音声ではなく生身の人間の声に聞こえる。

だが会話を続ける気は無いようだ。

 

「何しに来たの?」

 

「・・・」

 

「ま、無理に答えることも無いけどね」

 

「ワタシに・・・」

 

「ん?」

 

「武術を教えてくれませんか」

 

「え?」

 

ラミリアは突拍子もない申し出に、心の底から驚いた。

なぜ急にアルファがそんなことを願い出るのか、理解できない。

 

「なんで?」

 

そう尋ねるのが精いっぱいだった。

別に教えるのが嫌なわけではない。

ただ単純に、不思議だっただけなのだ。

 

「ワタシには、ココロというモノが理解できません」

 

アルファは視線を月に送り、そしてラミリアを見た。

 

「アナタは先ほど、月を見て何か悩んでいましたね。しかしそのあと空気をパンチするたびに、その悩みが消え去るように見えました」

 

そんなところから見られていたのかと恥ずかしくなったラミリア。

それを紛らわす為に少し声を大きくして返す。

 

「別に悩んでたわけじゃないけどね。でも『型』をやるとスッキリするってのはあるかな」

 

「ワタシには、アナタが先に頭脳で演算した軌道を、拳が追っているように見えました。そしてその予測軌道と実際の軌道の差が少なくなるにつれ、アナタの表情から曇りが消えていきました」

 

ラミリアは驚いた。

確かに『型』は、最も理想的な動きをまずイメージし、それに肉体をどこまで合わせられるかが肝となる。

先ほどの正拳突きも、そのようにやっていた。

しかしそれは自分の中の話であって、それを傍から見ていてここまで理解できるものだろうか。

 

「じゃあ、ちょっとやってみる?」

 

これが、アルファの求める心探しの役に立つかどうかは分からない。

しかしラミリアは、久しく感じていなかった感情を思い出していた。

自分が初めて師範代として道場に立ったあの日の気持ち。

 

「じゃあ、まず始めにこう言うのよ。『よろしくお願いします!』」

 

「よろしくお願いします」

 

アルファの声に相変わらず抑揚は無かったが、稽古は続いた。

丸く大きな月の光が降り注ぐ裏庭で。

 

 

 

カウンチュドは寒さで目を覚ました。

全身びしょ濡れである。

ここは大浴場。

全身が痛い。

そうだ、ラミリアの百烈拳を喰らったのだった。

だが目的は達せられた。

ルビネルとメリッサの全身をしっかりと脳裏に・・・あれ。

肝心な部分の記憶が無い。

おかしい。

寒い。

体が動かない。

お米が食べたい。

慟哭へのモノローグ

下記の話の続きです。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

8.心よ原始に戻れ

9.Beautiful World

 

今回はコチラのお二人です。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
チュリグ アルビダ 無性 ハサマ つおい ハヅキクトゥルフ初心者
メユネッズ 精霊 男性 ダン 夢追い たなかあきら (id:t-akr125)

 

ウチのおっさん。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
キスビット(タミューサ村) 人間 男性 エウスオーファン におい 坂津佳奈

※ちなみにキスビットは『血族』とか『家柄』みたいな思想が弱く、苗字というものが存在しません。

なので長いですが、エウスオーファンは全部名前です。

長い名前が略されるのはよくあることで、みんなエウス村長と呼んでいます。

また、血統に縛られないというだけで、家族は大事にします。

逆に家族でなくとも、種族が同じということで親近感を覚える文化が根付いています。

※長田先生! (id:nagatakatsuki)最新の地図をお借りしました!

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「ビットの能力うでは、時間と共にどんどん長くなった」

 

そう言ってエウスオーファンは、一枚の地図を机に広げた。

現在確認されている大陸の全てが記された世界地図だ。

 

f:id:sakatsu_kana:20170508173816j:plain

 

「これは推測だが確証にも近い。ビットの能力うでの範囲だ」

 

そう言いながら指で地図を示す。

想像していたよりもあまりに広い範囲が対象となっており、ダンは狼狽した。

 

「馬鹿な・・・ドレスタニアにすら届く、と?」

 

エウスは黙って頷いた。

土壌神ビットは、これだけの広範囲から多種多様な年代、性別、種族をキスビットへ攫ってきていた。

その大半は慣れぬ環境に死滅していった。

しかし徐々にではあるが、増えてきた民も存在する。

第一に土着の精霊であるキスビット人。

それに対抗できるまで勢力を拡大したのがアスラーン。

そして次に団結したのが、鬼であった。

彼らは寿命こそ短いものの、その身体能力と生命力は他の種族を遥かに凌駕していた。

文明が発達していない時代ほど、個としての戦闘力の高さが重要となる。

人間も、辛うじて小規模の団体が組織されていたが、しかし他の種族に対抗できるほどではなく、身を隠しながらひっそりと生きながらえていた。

こうして人間以外の種族が三すくみの状態になったキスビットは、それぞれの種族が牽制し合うこととなった。

事態が膠着していて面白くないのはビット神である。

もっと、もっと、もっと攫ってこなくては。

憎悪と恐怖、疑心暗鬼と憤怒と絶望。

それら甘美な感情を味わうにはもっとやつらを増やさねば。

すでにビットの存在に、信仰は無用となっていた。

少し時代が移り、最もビットを喜ばせることに成功したのは、なんと人間だった。

人間らはいつの間にか武器を作り技術を磨き、環境に適応していた。

そしてあっという間に他の種族を凌ぐまでに成長したのである。

今までの怯える生活の借りを返すかのように人間は、アスラーンを、精霊を、鬼を、どんどん駆逐していった。

彼らから恐れられ、恨まれ、憎まれるようになるのに、さほど時間はかからなかった。

人間が急成長したのは、他ならぬビットの姦計によるものだったのだが、しかしこの効果はビットの想像を超えていた。

ねっとりとした黒い感情が無限に製造されるのを感じたビットは歓喜していた。

 

「あまりにも、あまりにも突飛な話で、いささか・・・」

 

「信用に欠ける、かな?」

 

額に滲む汗をぬぐいながら言うダンの二の句をエウスが奪う。

 

「ハサマも、そう思うけど」

 

少しだけ口角が上がり笑顔と取れなくもないような無表情で聞いていたハサマも、やはり同感のようだった。

1,000年前のこと、しかも神という存在がどのように変遷していったのかという非現実的な物語が、あまりに具体的に語られ過ぎている。

エウスの創話なのではないかという疑いすら、不可避である。

 

「当時、まだ人に近い姿をしていたビットはたびたび目撃されていたらしい。声も聞こえていたのだとか」

 

そう言いながらエウスは、壁際に置かれている石碑を指し示した。

木造の部屋に似つかわしくないオブジェだ。

酒樽よりも大きい石の塊である。

しかしよく見ると、その表面にはびっしりと文字が刻まれていた。

 

「これが、我々の調査結果の結晶だ」

 

石碑自体は相当に古いものだと思われるが、しかし記されているのは現代の文字に見える。

驚くことに『エウス村長へ』と読める部分が存在する。

 

「ビットの能力うではついに距離ではなく、時を超えるようになってしまった・・・」

 

邪心にとり憑かれた邪神は考えた。

どうすればもっと争いが起こる?

どうすればもっと憎しみ合う?

どうすればもっと殺し合う?

こいつらが自然に増えて自然に諍いを起こすのを、もう待っていられない!

ビットは腐っても神であった。

その人智を超越したチカラは時を超え、進んだ文化、道具、知恵、技術のある時代からも、生贄たみを攫うようになったのだ。

効果はてきめんだった。

より多く殺す武器が製造つくられた。

より多く蹂躙する文化が創造つくられた。

憎しみの濃度は上がり、殺意の強度は増し、純度の高い絶望がビットに流れ込んだ。

最初に連れて来られたのは人間だった。

そして人間という種族が一強にならぬよう、他の種族にも均等に未来のチカラを分け与えることにしたビットは、益々増長していった。

 

「やがて肥大化した土壌神ビットは、文字通りこの国の土壌となった」

 

ハサマは小さく舌打ちをした。

自分の能力が制限されている理由が判明したが、しかし解決法が無いからだ。

自然災害を起こす、それは相手が『自然』だからこそ作用する能力だ。

国土全体が一個の生物であるならば、そこに『自然災害』は起こせない。

もちろんこのキスビットという国が海に浮いているので無い限り、必ず地盤の上に乗っているはずであり、そこから巨大地震を起こせば国ごと灰燼に帰す事は出来るかもしれない。

しかし、それでは誰も救えない。

だが、本当に土壌全てが生物と言うことであれば、コントロールが出来ないというよりもむしろ完全に能力が使えないはずだが、そうでも無い。

このタミューサ村に入ってからは、若干ではあるが能力を使えそうである。

 

「で、どうするの?」

 

ハサマの短い問い。

もしかすると、被害の拡大とキスビットの全国民を天秤にかけているのかも知れない。

 

「約1,000年前のビットが伸ばした能力うでは三本確認できています」

 

エウスオーファンはハサマに向き直って答えた。

キスビットの三大都市を実質的に治めている者がおり、彼らが秘密裏に隠匿している施設内が、その場所なのだと。

そしてそれを密かに探り当てたこと。

タミューサ村の者が潜入し、1,000年前に飛ばされ、この石碑を残したこと。

情報はこの石碑以外にも数種類あり、それらの解読によって先ほどまでの話が確証に足るものであると証明されたこと。

 

「エイ マヨーカの人間、ラッシュ ア キキのアスラーン、そしてジネの鬼。それぞれの都市を統治している一部の者は、この能力うでの存在に気付いています。そして1,000年前の時代に武器や技術を送り込み、自分たちの種族が有利になるよう工作しているのです」

 

現在いま差別意識を持った民らが1,000年前むかしへ行き、一層の差別意識を植え付ける。

そうすることで現在いま差別意識が更に倍増するという負の無限螺旋。

さらに言えば、黒い感情で大きく育ったビット神が一体化した土壌で採れた農作物は、心に負の感情を起こしやすくする作用があると言う。

実はビットの存在に気付く以前より、キスビットの大地に不信感を持ったエウスオーファンは、ここタミューサ村を開拓するあたり他国の土を混ぜて開墾するようにした。

その活動は現在でも続いており、大型の輸送船で諸外国から土を運んでは、土を混ぜているのである。

しかし最近は、ビットが土壌に一体化する速度が速まってきており、国土全体が完全にビットに成ってしまうのも時間の問題と思われた。

ハサマが完全に能力を封じられていないというのは、まだ一体化が完全ではないことが理由である。

 

「誰かが、この循環を断ち切り、国を救わねばならん」

 

エウスの言葉にハサマは絶句した。

まさかエウスの考えとは・・・。

ここでようやくダンが口を開いた。

 

「やっと理解できた・・・。貴殿の夢が探知できない理由が」

 

ダンは深くため息をついた。

そしてエウスオーファンを真っ直ぐに見据えて続ける。

 

「貴殿は既に夢ではなく、使命としているのだな。この革命たたかいを」

 

ダンの真剣な眼差しに、しかしエウスはふっと自嘲気味に答えた。

 

「やれやれ、私には夢があったはずなんだが。君に探知されないというのは、つまりその夢がもう私の中に無いということなのかね?」

 

はぐらかされたような気分ではあるが、しかしダンは気を取り直した。

確かに『エウスには大きな夢があるはず』という思い込みが先行し、もしかすると微かな夢を見落としていたかもしれない。

ダンはエウスに集中し、短く「あっ」と漏らした。

 

「それで、人選は?」

 

割って入ったハサマの問いに、エウスが答える。

 

「明日、皆にもこのことを説明して、協力を仰ぎます。しかし、まともな神経の者はまず受けんでしょうな。なにせ片道になる可能性が高い上に、勝算などまるで無いのですから」

 

そしてダンに向き直って続ける。

 

「君にも明日、正式に依頼をする。もちろん断ってくれて構わない。それと・・・さっき見たものはくれぐれも内密に、な」

 

そしてエウスは棚から酒が入った瓶を出しながら、二人に視線を送る。

 

「戴こう」

 

こんな気分の時は強めの酒を飲むに限る。

ダンはエウスから受け取ったヒヒキニスを、間を空けず飲み干した。

 

「ココアなら飲むけど」

 

「ハサマ王、大変申し訳ないのですが今はココアはありませんのでマーウィンに運ばせます。しかし、少しだけお待ちください。今ここを出ると彼らの楽しみを奪ってしまうことになりますので」

Beautiful World

下記の話の続きです。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

8.心よ原始に戻れ

 

キャラクターをお貸し頂いた皆様、本当にありがとうございます。

今回は女性チームのみの出演となります。

所属国 種族 名前 特徴 創造主
ドレスタニア(近海) 幕下 紫電 酒乱 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 横綱 メリッサ 酒龍 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
奏山県(ワコク) 人間 関脇 アスミ 酒凡 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 小結 ラミリア・パ・ドゥ 酒豪 らん (id:yourin_chi)
カルマポリス アルビダ 大関 ルビネル 酒静 フール (id:TheFool199485)

 

ちなみにウチの子。

所属国 種族 名前 特徴 創造主

キスビット(タミューサ村)

アルビダ 序二段 アウレイス 酒弱 坂津佳奈
キスビット(ジネ) サターニア 序ノ口 カミューネ 酒無 坂津佳奈

 

乳については私の完全なる希望ですので、ご指摘くださればすぐにでも修正させて頂きます。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

総勢7名のお風呂女子会が盛大に開催されているのは、タミューサ村で最も大きな屋敷の二階にある大浴場だった。

キスビットの国内に於いて浴室は、大抵石造りである。

しかしこの屋敷の浴場は大部分が木製であり、とても香りが良い。

それもそのはずだ。

茶としても人気の高いドナの葉は、もちろんドナの木から採取されるのだが、このドナという木は木材としても非常に質が良い。

軽くて丈夫であり、また吸水、吸湿による膨張や乾燥による収縮も少なく、建材に最適と言えた。

余談だが、エウスオーファンはこのドナの葉と木材を輸出する仕組みが整えば、国全体の経済の一翼を担えると考えている。

キスビットの再生が成り、落ち着いた後はそんな事業を動かそうとも考えていた。

 

「ふあああ~良い香りですぅ~☆」

 

どうやって脱いだのか分からないほどの早業で脱衣を完了したメリッサが一番に大浴場へと入った。

両手を大きく広げて浴場内を走り回る。

隠す気など毛頭無いようだ。

床は濡れても滑りにくいよう格子状に彫り込まれており、設計者の気遣いが窺える。

走るメリッサの、激しく弾む脂肪塊。

その荒ぶる上下運動を忌々しそうに薄眼で見詰めているのは紫電だった。

両手でタオルを胸に押し当て、鉄壁の防御体勢で浴場に入ってきた。

 

「あ!猫さん!☆」

 

「猫さんじゃねーって言ってんだろ!」

 

頭部の角をサッと両手で隠す紫電

しかしそれは防御態勢の解除を意味する。

 

「まーッ!おっぱいも可愛らしいんですね♪」

 

悪意の無い言葉ほど、刃となったときの傷は深いと言う。

それを背後で聞いていたのは次に入ってきたルビネルだった。

 

「メリッサ、そういうこと言わないの」

 

助け舟かと振り返った紫電が見たものは、メリッサに勝るとも劣らない見事な膨らみだった。

ルビネルは腰に手をあて、呆れたように言う。

 

「大きさなんてどうでもいいの。重要なのは感度なんだから。ねぇ?」

 

そう問い掛けられたのはアウレイスだ。

細い腰はルビネルにがっちりとホールドされている。

 

「ふわっ!ちょっと、ルビネッ・・・あ・・・」

 

一生懸命にタオルで体を隠しながら、ルビネルに連行されるアウレイス。

続いて入って来たのはアスミだった。

ボディにはしっかりとタオルが巻かれているが、均整のとれた肢体は隠し切れていない。

カミューネを誘導しながら湯桶と椅子のある流し場へ行く。

 

「お湯、かけてあげるね」

 

カミューネは両目をギュッと瞑り、右手で鼻をつまんだ。

まるで潜水するような仕草にくすりと笑うアスミ。

 

「いくよ~」

 

ザバー。

 

「ぷはーっ」

 

この二人だけを切り取ればなんとも微笑ましい入浴シーンなのだが。

しかしこれだけの曲者が揃って、ほのぼので終わるハズがない。

満を持して最後に入って来たのはラミリアだった。

大きめの木板には、ルビネルがマーウィンに用意させたヒヒキニスとコップが人数分、乗っていた。

 

「さぁ!飲むわよー!!」

 

湯船の縁にヒヒキニスとコップを並べたラミリアは手早く体を流すと勢い良く湯船に飛び込んだ。

そして神業と称しても遜色ない動きで酒を注ぎ、呷った。

 

「あら、意外と甘口なんだ。ちょっと濃いかな?でも美味しッ」

 

ラミリアの言う甘口とは、もちろん酒としての甘口である。

しかしそうとは思わない甘いもの好きが一人。

 

「えぇ!?甘いんですか!?私にもくださーい☆」

 

ばいんばいんばいん、ざっぱーん。

メリッサがラミリアのすぐ横に飛び込んできた。

溢れるお湯でコップが押し流されてしまう前に掴んだのはさすがに武道家だ。

自分が酒に強いという自覚があるラミリア。

それでも少し濃いと感じたヒヒキニスは、皆に飲ませて大丈夫なのか少し気になった。

 

「強いかもしれないから、まずちょっとだけね」

 

「まぁ!なんて美味しいのかしらッ☆☆☆」

 

メリッサの意外な反応に、ラミリアは喜んだ。

お酒は、飲める仲間と大勢で飲んだ方が美味しいと思っている。

ひとりでシンミリというのは性に合わないのだ。

 

「ねぇ、みんなも飲まない?ホラ、美味しいわよ?」

 

ラミリアの声に、酒を用意させた本人のルビネルが反応した。

いままで他の事に夢中でヒヒキニスの存在を忘れていたらしい。

 

「そうね。せっかく用意してもらったんですもの。頂きましょう」

 

ほら、と湯船の方へ促されたアウレイスはぐったりしている。

アスミとカミューネも湯船へ向かった。

 

「オレは気分じゃないんでね、遠慮するぜ」

 

まさか酒が飲めないなどとは言えない紫電は、少し離れた場所でみんなに背を向けるように湯に浸かっていた。

 

「せっかくだから、私もちょっとだけ頂こうかな」

 

普段は特に進んでお酒を飲むようなことはしないアスミだが、しかし興味が無い訳ではなかった。

旅先というのは心を開放的にさせる。

しかもここは大浴場。

いつもより少しくらい大胆になっても許される気がした。

 

「あ、美味しい!」

 

「あっれー?アスミちゃんって結構イケるクチ?」

 

アスミの意外な反応に大喜びのラミリア。

これをルビネルが見逃さない。

 

「なるほど、興味深いわね。お酒の強さと胸の大きさ・・・」

 

ワザと大きな声で、皆に聞こえるような独り言を言う。

本当に味わっているのかすら怪しいほどカパカパと飲んでいるメリッサは、ここに居る誰もが認める最大級のモノをこれでもかとたわわに揺らしている。

それに勝るとも劣らない見事なボリュームを誇るのはルビネル本人だ。

涼しい顔でグイッとコップを空ける。

続くのはアスミとラミリアだ。

アスミは先ほどの通り、かなり強いはずのヒヒキニスを美味いと言いつつ飲み進めている。

ラミリアに至っては言わずもがな。

メリッサと合わせ、すでに3本ほどの空瓶を作りだしている。

偶然なのか、確かに飲めるサイドは皆が人並みかそれ以上である。

 

「逆説的に言えば、飲めば飲むほど大きくなるのカシラ?」

 

まだ子供であるカミューネは除くとして、飲まない組の紫電とアウレイスに向けたルビネルの、それは言葉の矢であった。

その矢に撃たれたのは紫電だ。

 

「あー、喉が渇いてきたぜ。オレも一杯もらおうかな・・・」

 

湯船の中をすーっと並行移動してラミリアに近付いた紫電

差し出されたコップに鼻を近付けスンスンと香りを嗅いでみる。

海賊船で野郎どもが飲んでいるラム酒はアルコール臭が強くてダメだが、これならなんだか飲めそうな気がする。

香りだけなら紅茶を思わせるヒヒキニス。

舌をチロッと出して舐めてみる。

この味なら飲めそうだ。

 

「なんだ、オレ好みの酒じゃねーか!」

 

そう言ってコップを傾け、喉を鳴らして飲み干した。

次はアウレイスの番である。

 

「ね、ねぇルビネル・・・本当なの?」

 

「何が?」

 

「そ、その・・・お酒で・・・胸が・・・?」

 

半信半疑、と言うか、ルビネルの悪戯っぽい笑みを見てしまったせいで、全く信じる気になれないアウレイス。

そもそもヒヒキニスはとても強い酒だと聞いている。

酒好きのダクタスが酔い潰れる姿も何度となく目撃している。

 

「あら、私は状況から見た仮説を呟いただけよ?ふふふ」

 

アウレイスとて自分の胸が平均より薄いことは自覚している。

そして人並の重量感にも憧れる。

実はこっそり、近所の奥様方から聞いたボリュームアップに良いと言われる食べ物を試したり、体操を実践したりもしていた。

しかし飲酒が効果的などとは聞いたことも無い。

アウレイスが飲むか飲まざるか思案していると、なんとも間の抜けた眠そうな声が聞こえてきた。

 

「ふにぃ・・・あれ?カミューネちゃんが二人ィ~?」

 

声の主はアスミだった。

どうやら味覚的には美味いと感じたものの、アルコール耐性としてはそこまで高くなかったようだ。

すでに視界が二重になる程度には酔っているらしい。

 

「うっ・・・うっ・・・オレだって・・・素敵な恋が・・・ひっく・・・」

 

 アスミを心配したラミリアの向こうから聞こえてきたのは、紫電のすすり泣きだった。

浴槽の縁に上半身をあずけ、わが身を嘆いている。

 

「オレだってよぉ、このおっぱいお化けくらい立派なモンを持ってりゃあよ・・・今頃は年下のイケメンと・・・うぅ・・・」

 

お化け呼ばわりされた本人であるメリッサは、相変わらずヒヒキニスを呷りつつ、またも紫電に爆弾を投下する。

 

「猫さんはそのくらいが可愛いと思います☆世の中にはちっちゃい方が好きな殿方も多いと、ドレスタニアの書籍に記してありました♪」

 

一体何を読んだのか分からないが、ともかくこの言葉が紫電のスイッチを押したことだけは確かなようだった。

鳴き声がピタリと止み、湯船から立ち上がる紫電

 

「オレの王子サマは金弧じゃねぇぇぇぇーッッ!!!」

 

偏見に満ちた不満をチカラに変え、紫色に輝く拳を湯船に叩きつけた。

間欠泉のように、紫電を中心に噴き上がる湯。

咄嗟に動いたのはラミリアとルビネルだけだった。

ラミリアは、まだ中身が入っているヒヒキニスの瓶とカミューネを小脇に抱えて後方へ飛び距離を取る。

ルビネルもまた、浴場の入り口方向へバックステップした。

そして降り注ぐ、湯の豪雨。

まるで滝のように湯船の周囲を打ちつけた。

 

「嫌あああぁぁぁぁーッッ!!!!」

 

叫んだのはアウレイスだった。

幼い頃、奴隷として過酷な生活を強いられていたアウレイスは、主人である鬼たちから面白半分に、無理やり水中に沈められるという経験をしていた。

それ以来、泳ぐことはおろか、一定以上の水量が顔に掛かることすら怖いのだった。

前後不覚になったアウレイスが駆け出す。

しかしすぐさま足元をすくわれ、尻もちをついてしまった。

だがどういうワケか柔らかい感触である。

 

「あははははは☆面白いです~♪」

 

メリッサだった。

紫電が噴き上げた湯と共に空中に放り出されたメリッサだったが、偶然にもヒヒキニスを運んだ木板の上に座る体勢のまま、波乗りの要領で滑っていた。

そのメリッサが最初にぶつかったのがアウレイスである。

そう、最初に。

メリッサスライダーは止まらない。

次のターゲットはアスミだった。

なぜ急に湯船からお湯が無くなったのか、なぜ天井から激しくお湯が降り注ぐのか、まるで分からないまま、アスミは立ちつくしていた。

 

「はにゃ・・・?ちょっと寒い、です?」

 

と、両手で自分の体を抱いた姿勢のまま足元をすくわれ運び去られるアスミ。

このままでは壁に激突してしまう。

もう前が見えていないので特に恐怖感も無く、ただただ滑っているのが楽しいメリッサ。

未だに錯乱中のアウレイス。

ぽやんとしているアスミ。

これを緩やかに受け止めたのは、他でも無いラミリアだった。

この場に於いて、唯一マトモで唯一シラフなのはラミリアしか居ないのだ。

 

「あっぶなー。紫電さん、ちょいやり過ぎだわぁ(笑)」

 

いや、忘れてはならないシラフがもう一人。

マトモかどうかは置いといて、酔っ払いではないのがルビネルだ。

ひとり、湯の滝から避難していたルビネルは現場が落ち着いたのを確認するとすぐさま戻ってきた。

 

「アウレイス、なんだかすごく羨ましい状態ね」

 

ボリューム満点のメリッサと、ぐったり覆い被さるアスミに挟まれたアウレイス。

ルビネルの声で我に返るも、しかし身動きが取れない。

 

「あひゃひゃひゃ♪くすぐったいですー☆」

 

起き上がろうと動くとメリッサを刺激してしまうようで、上手く立ちあがることが出来ない。

アスミは完全に眠ってしまったようだ。

脱力した人体ほど重いものは無い。

 

「ここは紫電さんに運んでもら・・・キャーッ!!紫電さんがー!!」

 

建設的な意見を述べようとしたカミューネだったが、紫電が居るはずの場所を見て叫び声を上げた。

湯の豪雨によって再度湯船に溜まったお湯は、最初よりも減って膝上くらいの水深である。

その湯船の水面に、うつぶせ状態で浮いている肌色の物体。

紫電だ。

 

「うわ!紫電さん!紫電さんッ!?」

 

浴場にこだまする、ラミリアの声。