【02】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

「この度はチャイ逮捕へのご協力、感謝致します。ですがご覧の通り・・・面目ありません」

 

チャイの同級生という男に頭を下げているのは、国際警察の警部、ケサーナである。

ハーレイハビサ美術館に展示されていた『ミーアの翼』を創作した張本人の芸術家が、子供の頃のチャイを知ってるというので協力を願い、今回の作戦に加わってもらったのだ。

しかし、逮捕劇は失敗に終わった。

 

「くそぅ、チャイの奴め・・・まんまと逃げおおせやがった」

 

名 前【国際警察 警部 ケサーナ】

種 族【鬼】

性 別【おっさん】

一人称【俺。上司や仕事関係の相手には私】

性 格【しつこい。律儀】

能 力【妙に勘が鋭い(チャイに関してのみ)以外は普通の鬼。もう何年もチャイだけを追っており、国際警察のルーカス署長から、捕まえるまで追い続けることを許可されている。】

 

「警部、追いますか?」

 

「当たり前だ馬鹿モン!俺はルーカス署長と約束したんだ!必ずチャイを逮捕すると!」

 

部下に当たり散らしながら、どこに逃げたかも分からない相手を捕まえようと無策で走り出すケサーナ。

その光景を付近の教会の鐘楼から眺めている人影があった。

 

「相変わらず上手いこと逃げるのね、チャイ。ケサーナは見当違いの方へ行っちゃったわ」

 

「当ったり前でしょフォヌアちゃん。この俺があんなマヌケに捕まるわけ無いって」

 

一人はグラマラスな美女、もう一人はつい先程、あの食堂から逃げ出したチャイだった。

チャイの手には5,000万セオンが詰められたカバンがあった。

 

「昨日までの分が4億と5,000。今回のこれで、約束の5億だぜ?」

 

そう言いながらチャイは、自分がフォヌアと呼んだ女性にカバンを手渡した。

フォヌアはそれを受け取り、微笑を浮かべる。

 

「たった7日間で本当に5億ものお金を用意しちゃうなんて、あなたって素敵ね」

 

名 前【魅惑の彼女マイガールフォヌア】

種 族【アルビダ】

性 別【艶女アデージョ

一人称【私】

性 格【移り気、勝気、甘え上手、豹変】

呪 詛【とても強力な魅了魔法、蠱惑的な魔手デビルズテンプテーションを使う。心を持つ相手であれば老若男女や種族を問わず、動植物であろうと魅了してしてしまう。魅了された相手は理由も分からず対象を好きになる。しかし洗脳や操作、使役ができるわけでは無いので、もともと愛情の薄い相手にはそれなりの効果しか期待できない。逆に愛情深い対象であればどんな命令でも聞き入れる傀儡くぐつとなるだろう。また、蠱惑的な魔手デビルズテンプテーションで対象にできるのは一体のみであり、同時に複数を魅了することはできない。新たな対象を魅了した時点で、先に魅了されていた対象は正気に戻る。ただ記憶が無くなるわけではないので、情が残っている場合がほとんど。ちなみに術者が処女おとめであることが発動の条件であり、どれだけ経験豊富を装っても実際には未経験である】

 

白魚のような指でチャイのあごをそっと撫で、流し眼を残しながらくるりと背を向けたフォヌア。

物憂げな瞳で鐘楼の窓から景色を眺める。

 

「約束だものね、仕方ないか・・・」

 

そう言いながらドレスの胸元に手を掛けた。

チャイが生唾をごくりと飲み込む。

と、フォヌアは一気にドレスを破り、チャイに向かって放り投げた。

目の前いっぱいに広がった生地で一瞬視界を奪われるチャイ。

 

「うわっ!フォヌアちゃんったら大胆なんだか・・・ら・・・?」

 

はらりと落ちたドレスの向こうには、動きやすそうなボディスーツを身に纏ったフォヌアが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「本当はあなたにあげたかったんだけど、今はまだそういう気分じゃないの。ごめんね、チャイ」

 

そう言うや否や、フォヌアは鐘楼の窓から身を躍らせた。

慌てて追いかけ、窓から身を乗り出すようにしてフォヌアの行方を確認するチャイ。

しかしフォヌアは空中でグライダーを展開し、紙飛行機のように風に乗って去ってしまった。

 

「毎回毎回そりゃ無いよぉ~!今度こそフォヌアちゃんとイイコトできると思ったのにィィ!!」

 

窓枠に齧りつく露骨な悔しさアピールも、相手が居ないのでは意味が無い。

がっくりと肩を落とし大袈裟に落胆した様子で、チャイは深く長いため息をついた。

 

「また見事にフラれたな、チャイ。まぁそんなこったろうと思ったよ」

 

鐘楼を見上げるような姿勢で声を掛けてきたのはジャミコだった。

どうやら一部始終を見ていたらしい。

 

「だからあの女はやめておけと、何度も言っているのだ」

 

ジャミコの背後にはマシュカーも居た。

不機嫌そうな表情でチャイに苦言を呈する。

 

「よっ・・・と」

 

教会の鐘楼は普通の建物の三階分はくだらない高さがある。

しかしチャイはその高さをものともしない軽業師のような身軽さで、窓から地面へと飛び降りた。

 

「しかしフォヌアちゃん、何で急に5億もの金が要るなんて言い出したんだと思う?」

 

すでにチャイの思考は次の展開へ回転し始めているようだ。

知ったこっちゃない、というジャミコとマシュカーの態度をよそに、チャイは額に手を当てて考えを巡らせる。

しかしすぐに熟考の姿勢を解くと、上着の内ポケットから小さなスピーカーのようなものを取り出した。

 

「考えても分かんないモンは、直接本人に聞いちゃおうってね」

 

チャイが持っているもの、それは盗聴器の受信装置だった。

先程ケサーナの作戦で使われていたカバンの中の盗聴器はまだ生きている。

それをそのまま利用してやろうと言うのだ。

 

「相変わらずちゃっかりしてるぜ」

 

呆れているのか感心しているのかよく分からない表情でジャミコが言う。

と、マシュカーがチャイに一歩近付いて物申し始めた。

 

「チャイよ、俺はお前の為を思って言っているんだぞ?あの女はロクでもない尻軽女だ!悪いことは言わんから・・・」

 

「おっとマシュカー、お説教はそこまでだ。聞こえて来たぜ?どうやらフォヌアちゃんは目的の場所に到着したらしい」

 

ぐぬぬ・・・」

 

チャイは興味津津に、ジャミコはどうでも良さそうに、マシュカーは憎々しげに、三人は三者三様の態度でスピーカーから発せられる声に耳を傾けた。

 

 

『キィキキキキ・・・フォヌア、よく金を用意できたな』

 

『当たり前よ、私を誰だと思ってるの』

 

『キキキ・・・それは失敬』

 

『さぁ、約束通り、私そっくりのアルファを渡してちょうだい』

 

『約束は守る。だが、それ以上に私は、私の身の安全を最優先に守る主義だ』

 

『??? 何が言いたいの?』

 

『キィキキキ・・・』

 

『ちょっと!何するのっ・・・あっ・・・』

 

ザザッ・・・ガザザザ・・・ガシャン。

【アイラヴ】論語読みが必ずしも論語を知ってると思うな

「へぇ~!副社長さん、アイドルやったんですか!」

 

初華が驚きの声をあげた。

確かに整った顔立ちをしているし、透き通るように白い肌は実年齢が読めない若々しさを醸している。

 

「そう。で、当時の私の熱烈なファンだったあの人と結婚して、この事務所を設立したの」

 

上中里かみなかざと美香みかと名乗っていたし、恐らくこの副社長が御徒町更生のきっかけになったアイドル『みかりん』なのだろう。

自分でも気付かないほど少しだけ、初華の胸の中に嫉妬の火がちらついた。

 

「まぁアイドルとは言っても、正式にデビューしてたわけじゃないけどね。事務所に所属しちゃうと会社の意向とかスポンサーのご機嫌とか、自分の意志に関係無い要素で自分の行動が制限されちゃうじゃない?それが嫌でね、自力で頑張ってたんだけど、やっぱ長くは続かなかったわ。あははは」

 

誰の力も借りずに自分で作詞作曲から舞台ハコの手配、振り付けや衣装、チケットの販売もすべてこなしていたらしい。

本人はサラッと言っているが、並みのことではない。

 

「で、思ったの。『こりゃ思ったよりも大変だな』って」

 

「そらそうですよ。やる前から気付きますよ普通」

 

「自分が普通じゃないって自覚と自信はあるわ」

 

初華が自分の言葉の失礼さに気付いてハッとなる前に、美香は胸を張って自分が普通ではないことを認めた。

 

「だけど、きっと私みたいな『普通じゃない子』はこれからも出てくるんだろうって思ったの。そんなとき、力になれる事務所があったらいいなって思って」

 

つまりここ、レッドウィング芸能プロダクションは、所属するアイドルの自主性を重視し、基本的にはやりたいようにやらせることをモットーとしていた。

スポンサーや放送局、演出家や監督などと、レッドウィングのアイドルが対立した場合、事務所はアイドル側を全力で応援するのである。

 

「で、でも・・・そんなことしたらお仕事が・・・」

 

「ええ。すっごく減っちゃうわね。でも仕方ないわよ。やりたくないことを嫌々やったって輝けないし、輝いてないアイドルが何したって、ファンの心は動かせないわ。ま、だからウチの事務所はいつも経営ギリギリなんだけどね。あはは」

 

笑いごとではない。

笑いごとではないのだが、しかし。

初華は確実に美香の人格に惹かれていた。

出逢って数分だが、時間は問題ではなかった。

そしてもうひとつ。

美香の笑い声の味だ。

 

「副社長さんの声、ウチ好きです。甘酸っぱいみかんみたいな」

 

初華は自分の共感覚について、美香に説明した。

人の声や物音など、耳から入る情報が味覚としても口の中に広がるということを。

 

「へぇ!すごいわね!とっても面白いわ!」

 

その後、美香はペンで机を叩いたり手拍子をしたりと、色々な音を出し、それがどんな味なのかを初華に尋ねた。

 

「本当に面白いわ。ねぇ、このことって、公表しないの?」

 

「えっと、別にしたくない訳やないんですけど、どうせ理解されんていうか・・・」

 

「『ファンを味わうアイドル』・・・面白そうじゃない?」

 

「えっ?」

 

「初華ちゃんの共感覚、それを武器にできないかなぁーって」

 

「そないなこと、考えたこともなかった・・・」

 

正直なところ、初華は自分がアイドルとして何をセールスポイントにすれば良いのか分からなかった。

歌唱力やダンス、演技にしても、とくに抜きん出ているものがあるわけでは無い。

もし本当にこの共感覚が役に立つのであれば、出し惜しみはしたくなかった。

 

「初華ちゃんも教えてくれたことだし、私も秘密を打ち明けちゃおっかな?」

 

そう言いながら美香は、自分の特殊な視覚について話し始めた。

 

「私ね、人の『理想との差』が視えるの」

 

美香曰く、彼女の視界では人々の輪郭が二重になって視えるのだそうだ。

色が濃い方が本体、と彼女は呼ぶ。

そして色が薄い方が、その本人の『理想の姿』なのだそうだ。

とは言ってもその薄い方も、姿かたちは本体と同じもので、将来像を映しているとかではないらしい。

問題は、どのくらい本体と重なっているか、ということらしい。

 

「大抵の人はね、半分くらいズレてるのよ。ひどい人は横に並んでるくらいズレてたりするけどね。この本体との距離が近ければ近いほど『自分の理想がハッキリ』してて『現状がそれに近い』か、もしくは『そうなるための道を歩いている』か、なのよ」

 

ちなみに、と付け加えた美香。

なんと現社長であり美香の旦那様であるあの赤羽は、輪郭がまったくブレていないのだそうだ。

あんなにキレイな輪郭を見たことが無いというほどだそうだ。

 

「あ、あの・・・ウチはどう視えてはるんですか・・・?」

 

恐る恐る尋ねる初華に、美香はしれっと言ってのけた。

 

「二人居るように視えてるわよ。あはははは」

 

 

f:id:sakatsu_kana:20171020111633j:plain

私の創作に影響を与えているかもしれないもの

nagatakatsukioekaki.hatenadiary.jp

上記の記事に寄せて。

 

私が影響を受けた作品は数限り無くあります。

生来が広く浅くな人間ですから、作品の形式もジャンルも多種多様です。

小説、漫画、絵画、音楽、映画、舞台、人間関係や特殊な経験、飲食などにも影響を受けています。

SF、歴史、恋愛、根性、感動、絶望、官能、滅亡、推理、悲劇でも喜劇でもどんなテーマも好物です。

ただそれが逆に『単に好きなだけ』という雑音になってしまい、自分の創作に対して影響を与えている根幹部分まで到達することが難しかったです。

そんな中で『もしかしたらコレかも?』と思い当たったものを貼っておきます。

 

 

 

ヤン・シュヴァンクマイエル

ヤン・シュヴァンクマイエル - Wikipedia


ヤン・シュヴァンクマイエルのアリス 予告編

動画は『アリス』という作品の予告編です。

どの作品が、ということはありません。

氏の作品の全てが該当します。(もちろん私が視聴したもののみ)

氏の用いるアニメは写真を連続再生することによって動きを表現する『ストップモーション・アニメーション』という手法で制作されます。

クレイアニメと言ったら伝わりやすいでしょうか。

どれだけ技術が進んでもCG等の特殊加工は行わず、一貫したアナログ主義です。

 

確か中学生の頃、たまたまテレビ欄の深夜枠に『アニメ』の文字を発見した当時の私は、その内容も知らずVHSに録画をしました。

そして衝撃を受けたのです。

『キモい・エグい・グロい・エロい』をブレンドしたような映像が目に飛び込みました。

特筆すべきは、これらの要素が単独では無いことです。

例えば、全裸の女性が無残に殺されたらエログロですが、それはエロとグロというそれぞれ別の要素が同時に表現されているだけで、ブレンドされてはいません。

決して混ざってはいない。

しかし氏の作品に登場するキャラクターや表現、動作などは『キモくてエグくてグロくてエロい何か』としか表現できないようなニュアンスを持っているのです。

最早それは『新しい形容詞でなければ表現できない』ような要素です。

味覚の甘いと酸っぱいが合わさって『甘酸っぱい』という新しい味になるような、そんな感覚なのです。

赤と青が混ざった紫の不可逆性(もう元の色には戻れない)みたいな感じなのです。

 

ただ、氏の作品の何にどんな影響を受けているのかさっぱり自覚がありません。

もしかしたら何も影響されてないかもしれません。

しかし自分の創作について深く考えるといつも必ず氏の作品が脳裏をよぎるのです。


「ジャバウォッキー」その他の短編 ヤン・シュヴァンクマイエル

 

 

 

エスパー魔美


Esper Mami ep 05

こっちは割と明確に影響を受けています。

当時9歳か10歳くらいでした。

ストーリーの内容はあまり覚えていないのですが、とにかく鮮明に覚えていることがひとつだけあります。

『自己制御できない異能を、知恵と工夫でコントロールする』

これです。

確か主人公の佐倉魔美は、自分に向かって飛んでくる何かを回避するためにテレポーテーションが使えるのですが、逆に自分の意思だけではテレポートできないんです。

で、タイミングよくテレポートするためにビーズ(ちっちゃいプラスティックの弾)を発射する装置を使って、それを自分に向けて撃つことでテレポートしていました。

あるとき魔美が出口の無い洞窟に閉じ込められ、しかもビーズの残弾数ゼロの状態で途方に暮れているという場面。

結局、手近に落ちてる石ころを自分に落ちてくるように放り投げることによってテレポートが発動して脱出できるんですけどね。

要するに、普段使いしている道具に頼ることで自分の能力の本質を見失い窮地に陥り、しかし傍からそれを見ている仲間が知恵でそれをサポート、という展開に心を奪われたのです。

これがキッカケで、どんな特殊能力をどんなシチュエーションでどんな風に使うとカッコイイか、みたいな妄想が捗るようになりました。

あと、能力に制限を設ける醍醐味もこれで知りました。

めぐり逢い ~エウスオーファン、その若き日~

目の前にサターニアの男が居る。

酷い暴行を受けたようで、唇は切れ血が滴り、顔も腫れ上がってる。

彼が私を警戒し、そして憎しみの感情を抱いていることはニオイで察知している。

歳の頃は40かそこら。

若干二十歳ハタチの私に対し、この若造がというようなあざけりも感じられる。

 

「あんた、人間を殴っちまったんだって?」

 

ここは人間至上主義の都市、王都エイ マヨーカにある牢獄だ。

しかも『人外専門の』という但し書きが付く。

この王都において人間以外の種族が人間に危害を加えることは万死に値する。

その逆に、人間が他の種族をどのように扱おうが、特に問題にはならない。

そんな種族差別が当然のようにまかり通っている現状に、多くの民は疑問を持たず境遇を受け入れて生きている。

 

「・・・フンッ」

 

サターニアの男は血の混じった唾を吐き捨て、不機嫌そうに鼻を鳴らしただけだった。

人間とは会話もしたくない、そんな嫌悪の感情が露骨に表れている。

 

「調書にはこう書いてある。港湾内の妖怪往来特赦地区で、すれ違っただけの無抵抗なエイ マヨーカ市民を一方的に殴打、と。これ本当かい?」

 

怒りの感情が、私に向けられた。

物理的な存在感すら感じるような、強い、濃い、激しい感情だった。

彼の金色に光る瞳が視線で私を射抜き、食いしばる歯からギリギリと音が聴こえた。

 

「もし本当だとしたら、あんた自殺志願者か何かか?この王都で妖怪のあんたが人間に手を出すことがどういうことか、知らんわけじゃあるまい」

 

「ふざけるなッッッ!!!」

 

空気がビリビリと震えるような咆哮で、彼は彼の真実を叫んだ。

 

「あの人間が財布を落としたんだ!それをあの子が・・・妖怪の子供が親切に拾って、わざわざ追いかけて届けてやったんだ!それなのに奴は・・・ッ」

 

彼は自分の内側にあるものを全て吐き出すように吠えた。

彼の主張はこうである。

前を歩く人間が財布を落とし、それを妖怪の子供が拾って持ち主に返した。

人間同士であれば美談になる出来事だが、残念ながらそうでは無かった。

その人間は全身全霊の侮蔑と憎しみをぶつけるように、妖怪の子供を蹴り飛ばした。

倒れてうずくまる子供を更に踏みつけながら「お前が触っちまったおかげでもうその財布は使えない」と言ったそうだ。

しかしこの人間が異常なのではない。

これはこの街の日常であった。

重傷を負った子供は現在、特赦区内にある妖怪専用の施設で保護者が付き添い、療養中だそうだ。

 

「そうか・・・そんなことが。それは・・・申し訳ないことをした・・・」

 

私は昔、私が守れなかった精霊の子と、今聞いた妖怪の子を自分の中で重ねてしまったのかもしれない。

素直に申し訳ないと思い、残念な気持ちと哀しい気持ちが混ざり合い、自然と謝罪の言葉を漏らしてしまった。

サターニアの男は私の言葉に、ギョッとしたような表情で固まった。

 

「・・・なぜ、お前が・・・謝る・・・?」

 

信じられない経験をすると頭が真っ白になるというのは、人間も妖怪も変わらない。

殴られ過ぎて耳か頭がおかしくなってしまったのではないかと疑うような出来事だろう。

人間が、妖怪に対して謝罪の言葉を掛けるなんて。

 

「その子供、体の傷は治っても、一生消えない傷を心に負ってしまっただろうな。親切心で落とし物を拾ったら半殺しにされるなんて。きっと人間を憎み、妖怪に生まれたことを嘆くような人生を送ることになる。本当に・・・申し訳ない・・・」

 

私はその妖怪の子供がどのように成長していくのか、それを思うだけで胸が張り裂けそうだった。

これが、こんなことが日常的に起こっているこの国はやはり間違っている。

 

「・・・最後に話したのが、お前のような変わり者で、良かったよ」

 

牢の中から、さっきまでとは打って変わった穏やかな声が聞こえた。

サターニアの男は手枷をじゃらりと鳴らしながら石畳の床に座り込んだ。

 

「最後?」

 

私はわざと、とぼけた質問を投げかけた。

人間に手を出した妖怪が、ろくな調べもされず極刑になることはここでは常識である。

 

「そりゃ最後だろ。俺の処刑はいつだ?今日か、明日か」

 

彼は自分が殺されることを承知の上で人間を殴ったのだろう。

それがどれほどの怒りと、そして覚悟であったか。

 

「そんな悲しいことを言うなよ。私はあんたに、もっと生きて欲しいと思っている」

 

私はそう言いながら、牢の鍵を開けた。

彼はまた驚いている。

混乱中の彼に構わず、私は手枷の鍵も外した。

 

「この収監塔の外までは案内できるが、そこから先は上手く自分で逃げてくれよ」

 

監視役である私の机にろくな道具は無かったが、何かの役に立つかも知れないと思い、ロープとナイフを袋に詰めて彼に渡した。

しかし彼はそれを受け取らなかった。

それどころか、再び手枷を付けろと言わんばかりに両腕を前に差し出した。

 

「人間に対してこんな気持ちになったのは初めてだが、俺もお前には長生きして欲しいと、いま思った。俺がここから居なくなれば立場がヤバくなるのはお前だろ」

 

私は我慢しきれなくなり、ニヤリと口元を歪めてしまった。

私が探していた存在、目的の為に不可欠な協力者、それを、ついに見付けた。

種族という『殻』ではなく、存在の本質である『魂』を見ることができる者だと確信した。

 

「確かにあんたの言う通りだ。よし、こうしよう。ここから二人で逃げ出す。これから先は一蓮托生だ」

 

私は早口で手短に説明をした。

私がこの国から種族差別を無くしたいと思っていること。

その為には協力者、特に人間以外の種族の仲間が必要であること。

同志にすべき出会いを求めて、この牢屋番という仕事に就いたこと。

 

「そしてあんたには、同志になって欲しいと思っている」

 

急な展開に驚きを隠せなかった彼も、やがて落ち着いた表情で私を見据えた。

そして右手を差し出しながら、名乗った。

 

「ダクタスだ」

 

私はその手を取り、固く握り返した。

 

「私はエウスオーファン。よろしく頼むよ、ダクタスさん」

 

「おいおい、『さん』は無しにしようや」

 

「だってどう見たって私より年上だろ?敬意は払うさ」

 

お互いに軽口を叩いたが、ぴたりと会話を止めた。

コツンコツンという足音が聞こえたからだ。

交代の時間にはまだ早いので、見回りかもしれない。

ダクタスは静かに両手を差し出し、私はその手に鍵をかけないまま手枷を取り付けた。

牢も鍵は開けたまま、扉だけを閉めておいた。

 

「二人か・・・丁度良い。エウスオーファン、来た奴らを眠らせられるか?」

 

足音から、近付いてくるのが二名だと察したダクタスが言った。

それにどんな意味があるのか分からない。

しかし油断している相手を昏倒させることくらいなら容易いことだ。

 

「何か策があるんだな。よし、やってみよう」

 

私は彼の策に乗ってみることにした。

訪れたのは二人の兵士だった。

新米警備兵に、先輩風を吹かせたい見栄っ張りが、施設内を案内しているといった様子だ。

特に問題はありません、と形式的に答えた私の前を通過する二人。

私はまず先輩兵に背後から組み付き、首に回した腕に力を込めて落とした。

新米兵がそれに気付いて叫び声を上げる前に口を抑え、首筋に肘を叩き込む。

二人はほぼ同時に、どさっと石畳に崩れ落ちた。

 

「見事なもんじゃないか、エウスオーファン」

 

手枷を外しながらダクタスが牢から出てきた。

そして倒れている二人を仰向けに転がし、その顔をまじまじと観察した。

次に深く息を吸い込み、フッと短く吐き出した。

 

「おぉ・・・こ、これは・・・」

 

私は驚きを隠せなかった。

足元に転がっている二人の兵士が、それぞれダクタスと私の姿に変わったのだ。

ダクタスは殴られた傷まで再現されているし、着ているものまで完璧だ。

 

「俺の能力は『物の見た目を変化させる』ことだ。ほれ」

 

そう言うとダクタスは机の上にあった小さな鏡を私に投げた。

私は自分の目を疑った。

いま私に鏡を投げたのはダクタスだったはずだ。

しかし鏡を受け取ったとき、すでに彼は新米兵の姿になっていたのだ。

恐る恐る鏡を覗き込むと、そこには先輩兵の顔が映り込んだ。

 

「すごい魔法だな」

 

素直に感心する私に、新米兵の顔をしたダクタスが返す。

 

「単に見た目が変わるだけでな、そのものの質が変わるわけじゃない。戦闘には向かない虚仮威しこけおどしだ」

 

そう言いながら、エウスオーファンになっている兵士を机の前の椅子に座らせたダクタス。

私もそれに倣い、ダクタスの姿になっている兵士を牢に入れ、手枷を付け施錠した。

なるほど、確かに見かけは完璧に再現されているが、しかし声はダクタスのものだった。

もちろん私の声も。

脱出時、他の兵に遭遇しないかと冷や冷やしたが、幸運にも私たちは逃げ出すことに成功した。

その晩は久しぶりに、とても楽しい酒を飲んだ。

 

「ダクタスさん、そんなに飲んで大丈夫かい?傷に障るんじゃ・・・」

 

私の心配をよそに、連中は大いに盛り上がった。

妖怪専用の粗末な酒場に、人間である私がこうして入れたのはダクタスのお陰である。

彼は妖怪、特にこの特赦地区において厚い信頼を得ていた。

そんなダクタスが今回の件で捕まってしまい、妖怪たちは意気消沈していたのだ。

そこにひょっこり本人が帰って来たものだから、彼らの喜びはそれは大きなものだった。

 

「ほらな?聞いたかお前ら。こいつは人間だが、俺らのことを心配してくれる」

 

酒場の中に居る妖怪たちは、当然ながら人間を快く思っていない。

しかしここに居る私は信頼するダクタスの命の恩人であり、また当のダクタスが完全に信用しているような口ぶりだ。

私はゆっくりと時間をかけて、妖怪たちとの信頼関係を築こうと思った。

この街、この国において恐らく、ただ今この場所だけではあるが、種族間を越えて笑顔を向け合えているのだから。

注がれるのが安酒であっても、それは何事にも代えがたい信頼の証。

欠けたグラスでも不格好な食器でも、飲食を共にするのは信用の証。

私は将来の夢に対する確かな手応えを感じた。

そして夜は更け、そろそろ解散という空気が流れ始めたそんなタイミングだった。

 

「ダ、ダクタスさん!大変だ!!」

 

息を切らせて酒場に駆け込んできたのは、少し前に帰ったばかりの男だった。

飲み続けたいのは山々だがあんまり遅いと女房に怒られる、と言いながらしぶしぶ帰った彼がすぐに戻ってきたもんで、酒場に残っていた連中は大笑いした。

 

「なんだいお前さん、やっぱり飲み足りなくて戻ってきちまったのか」

 

「違う!そんなんじゃねぇよ!ダクタスさん!癒庭ゆばが!癒庭ゆばに人間の軍隊が!!」

 

人間至上主義であるこの都市において、唯一妖怪の往来が許されているエリア、妖怪往来特赦地区の中には、満足な機能を果たす施設は少ない。

特に病院の類はほとんど存在しない。

なぜなら、人間にとって妖怪が病気になろうが怪我をしようが、そんなことは知ったことではないからである。

そんな特赦地区内には、妖怪が身体に不調を抱えた場合に休養するための施設が点在していた。

それが癒庭である。

基本的には単なる小屋であり、医者が居るわけでも治療器具が在るわけでも無かったが、温泉付近から採取された鉱石が敷き詰められたその小屋ではほんの少しだけ、自然治癒能力が高まると信じられていた。

持たざるものの知恵、というわけだ。

 

「どこの癒庭だ!?」

 

「そ・・・倉庫街の・・・」

 

「なんだとッ!!?」

 

ダクタスが血相を変えたのを、私は見逃さなかった。

悪い予感の方が当たる、私は昔からそういう類の人間だ。

 

「ダクタスさん、まさかその癒庭ってのは、例の妖怪の子供が・・・?」

 

そうだ、とダクタスは怒りに震えながら、言った。

恐らく自分が逃げ出したことに兵士たちが気付いたのだろう。

その捜索の為、事の発端になったあの子供が居る癒庭に目を付けた可能性が大きい。

 

「俺のせいだ。行ってくる」

 

自責の念に駆られ酒場を出ようとするダクタスに、その場の全員が自分も行くと言い出した。

兵隊側が何人居るのかは不明だが、確かに人手は多いに越したことは無いだろう。

だが。

 

「みんな、待ってくれ」

 

私の呼び掛けに、たくさんの黒い目がこちらを向いた。

先程までの楽しい雰囲気が一変してしまっている。

やはり私は人間であり、彼らは妖怪なのだ。

その妖怪の仲間が、人間に襲われているという情報が舞い込んだのだから、彼らの反応は至極当然と言える。

しかし私は構わずに質問を投げかけた。

 

「ダクタスさん以外にこの中で、呪詛の能力を自在に発動できる者は?」

 

勢いだけで兵隊とやりあうのは得策では無い。

少しでも何か策を用意して臨むべきであると、そう考えたからだ。

しかし私の問い掛けに応えたのは、ダクタスだった。

 

「俺だけだよ。お前は知らないだろうが・・・」

 

このエイ マヨーカを現在統治している首長、オイロムがその座に就くとき、あの凶行が実施された。

『オイロム王戴冠式 御前試合』である。

それまでこの街を統治していた先代首長の、異種族に対する厳しい取り締まりは常軌を逸しており、妖怪たちの反発は必至だった。

彼らの中には強力な呪詛を操る者もおり、人間側にしてみれば強大な敵となっていた。

そこでオイロムは全ての準市民(正市民には人間しかなれない)に対し次の様な公布を行った。

『腕に覚えのある者は兵士に、強力な魔法が使えるものは特殊部隊に、その他、役に立ちそうな能力の在る者はすべからく王宮に徴用する。各々の能力を存分に喧伝すべく、王宮の特設闘技場に集結すべし。なお、この御前試合で徴用された者は、正市民となる権利を与えられる。また、今回は無制限に徴用する用意がある。実力ありと見做された者は全員が対象となる』

エイ マヨーカの全妖怪たち、精霊たちが沸いた。

しかしこの御前試合はオイロムの策謀であった。

特殊な能力のある異種族たちはその日、一か所に集められ、そして、葬られたのだ。

 

「今この街に居る妖怪や精霊はみな『御前試合に名乗りを挙げなかった』連中ばかりだ」

 

ダクタスは吐き捨てるように言った。

他の者は皆、肩を震わせている。

私がキスビット人の集落で暮らしている間に、そんなことがあったとは。

彼らが人間を憎み恨むのは当然だ。

私が見てきたのはまだ、この世のほんのヒトカケラに過ぎなかった。

 

「ダクタスさん、私が行こう」

 

「どういう意味だ?」

 

怒りと悲しみが混じり合った言いようの無い感情が迸り、血が滾り逆流し身体は憤怒に沸き立ったが、しかし私の頭は妙に冴えていた。

恐らくこれは、私がこの先本当に自分の夢に向かって駆け抜けることができるのか、それを試されているのではないかと思えた。

 

「人間の不始末は、人間である私に片付けさせて欲しい」

 

「それを俺が許すと思うのか?お前だけ死なせるわけには・・・」

 

干し芋

 

「・・・は?」

 

ダクタスの言葉を私は、まるで突飛な単語で遮った。

 

「彼が昼に食べたものさ。隣の彼は魚だね。おいおい、君は昼飯を食っていないな?」

 

私は酒場に居並ぶ面々の顔を見ながら、次々とその日の昼食の内容を言い当てた。

 

「おい、みんなそれ合ってるのか?」

 

ダクタスの問い掛けに、皆は顔を見合わせで、小さく頷いた。

 

「何だかよく分からないが、それが何だってんだ?」

 

「ダクタスさん、夜になって傷の痛みが増しているんだろう。無理は良くない。そこの君はもう二日酔いか?頭痛がひどそうだ。隣の君は煙草をほどほどにな。肺が悲鳴を上げている。それから君は・・・」

 

「待てエウスオーファン、どういうことだ?何が言いたい?」

 

「私には、相手の状態と思考が手に取るように分かる」

 

私は自身の特殊な嗅覚について説明をした。

多少の嘘を交えながら。

 

「相手が何を考え、次にどのような行動に出るか、紡ぐ言葉が真実か嘘か。私には戦闘におけるフェイントも、話術によるフェイクも通用しない」

 

精神状態や感情は、心だけに起きている出来事ではない。

必ず肉体にも相応の反応が起こっているのだ。

それは筋肉の収縮だったり、脳内の分泌物質だったりと多岐に渡るのだが、私にはそれらがニオイで分かる、という説明をした。

本当にこんなことが正確に判別できれば良いのにと、希望を込めた内容になってしまったが、どうやらダクタス含め皆が信じてくれた。

実のところは、ぼんやりとしたニオイの情報を頼りに、それを経験と観察で埋めるのがやっとである。

 

「む・・・無敵じゃないか・・・」

 

「そうだ。だから、皆で行って無駄な犠牲など出さずとも、私が一人で行き、癒庭に居る怪我人や病人を救い出してこよう。必ず戻る。だから、皆はここで待っていてくれないか。この通りだ」

 

こうして私はたった一人で倉庫街の癒庭へ向かい、大勢の兵士たちを相手取ることになった。

海から吹く風に混じる、潮の香り以外のニオイに集中しながら道を急ぐ。

なるほど、兵士は20人か。

癒庭の中には2人、妖怪の子供とその母親だな。

兵士の装備に火薬類の所持は無し。

恐らくは全員が帯剣しているだけだろう。

他の装備は油のニオイからして、照明用のランタンを持っている程度か。

 

「なんとかなりそうだ」

 

私は兵士たちの人数が想定より少なく、また装備も貧弱であるという幸運を喜んだ。

この様子なら、気取られることなく接近して一人ずつ仕留めていく作戦が使えそうだ。

そう思った矢先、兵士の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「サターニアのジジィ!居るんだろ!?出て来いよぉぉ!!早くしねーとこのガキの首、ちょん切っちまうゾォォ!!?」

 

妖怪の子供は癒庭の屋根の軒先からロープで吊り下げられていた。

実際のところ、兵士たちにとってここでダクタスが出て来ようが来まいが、あまり関係無いのかもしれない。

単に、脱獄犯を出してしまった事に対する上からの叱責を、弱い者いじめで発散しているに過ぎないような気がする。

しかしそれなら時間的な余裕はあまり無いと見た方が良い。

彼らの気分次第で、あの子はすぐにでも殺されてしまうかもしれなかった。

 

「私が!私が代わりますから!その子は!その子は大怪我をしているんです!!」

 

大声を上げる兵士にすがりつく女性の声。

あの子供の母親だろうか。

 

「きったねぇ手で触るんじゃねーよメスブタがッッ!!望み通り死ね!」

 

蹴り倒された母親に向かって振り上げられた剣が鈍く光る。

最早、一刻の猶予も無かった。

 

「なんだお前はッ・・・ぎゃあああー!!!」

 

私は松明で照らされている妖怪の子に向かって真っすぐ道を歩いた。

その姿を見咎めた兵士の一人に声を掛けられたが、言葉ではなくダガーで返事をしておいた。

大腿部を深く切り付けたので、しばらくは歩けないだろう。

妖怪親子の前にいる兵士は3人。

いま倒した兵士以外に、こいつらを倒してもあと16人は居るということか。

正面切っての戦闘で多対一というのは正直、劣勢必至だ。

不意打ちが通用するのは最初の1人目だけである。

 

「舐めた真似しやがって・・・ジジィ!!!」

 

剣を振りかざした兵士が突進してきた。

このくらい直線的で分かりやすい攻撃を全員がしてくれれば助かるなと思いながら、私はその兵士が振り下ろした剣を見切り、ダガーでその手を撫でた。

手首の腱を傷つければもう剣で戦うことはできない。

それにしても私に対してジジィは無いと思う。

そりゃ少しばかり苦労が多かったせいで少々老けた顔をしている自覚はあるが・・・。

と、私は癒庭の窓に目をやった。

路地は松明で煌々と明るく、逆に屋内は暗いため窓には私の姿が映っていた。

いや、私の姿ではあるが、見た目はダクタスのものだった。

 

「やってくれたな、ダクタスさん・・・」

 

きっと彼は私を気遣ってくれたのだろう。

兵士たちに顔を見られれば私の立場が危うくなると。

しかしそれは違う。

私は私が人間であるからこそ、一人でここに来たのだ。

守るべきものは守り、助けるべきものは助けるが、しかしそれが新たな諍いの火種になってはいけないのだ。

今この姿のまま私が兵士たちと戦うということはつまり、人間対妖怪の争いが起こったということになる。

 

「ああ・・・無駄に殺さねばならなくなってしまった。後でダクタスさんにはきちんと説明しておこう・・・」

 

この場に現れたのが人間であるということを兵士たちに後で証言させたかったのだが、それも出来なくなってしまった。

妖怪が人間の兵士相手に暴れたなどという報告が軍に上がるのは非常にまずい。

私はくるりと振り返ると、手首を抑えてうずくまっている兵士の延髄を掻き斬った。

さらにそのまま、脚を引き摺って距離を取ろうとしている兵士の眉間にダガーを突き立てる。

抜きざまに低く屈むと、先程まで私の頭が在った空間を剣が横薙ぎに通過した。

背後には残り2人の兵士が駆け寄ってきていた。

 

「妖怪風情が!よくも!!!」

 

感情的な攻撃ほど読みやすいものは無い。

力任せに振り抜いた剣の真下から現れた私に驚愕の瞳を向けつつ、胸から血飛沫を上げて倒れる一人目。

後ろ向きの相手に奇襲の初撃を避けられたことがよほど想定外だったのか、二人目も動きが止まっている。

ああ、そうか、こいつらはまだ新兵ということか。

経験の浅さが戦闘で命取りになるのはこういう場面だ。

予想外の出来事で思考が停止しても、体は動かさなければならない。

それができなければ以外の選択肢は無いのだ。

ゴフッと喀血しながら足元に崩れ落ちる兵士の胸倉を掴み、私は肩に担ぎ上げた。

 

「剣だけだと思ったが、弓使いも居たとはね」

 

ドスッドスッという鈍い振動を兵士の死体越しに感じながら、私は建物の壁を背にする。

2・・・いや、3人が屋根の上から弓矢で私を狙っているのを嗅いだ。

狙いを定めるような作業で精神の一点集中を行うと、通常よりも濃い汗が分泌される。

隠れて待ち構えているような状況でも同じニオイがするものだ。

もちろん、戦士としての経験を積み熟練度が増せばそうとも言えなくなる。

冷静に淡々と戦える達人がこの場に居なかったことは私にとって幸運だった。

顔面にダガーの柄を生やした3つの死体が屋根から落ちてくるのを確認しながら、私は妖怪の親子に駆け寄った。

近付いてみて分かったが、2人はアスラーンであるようだ。

母親が必至に子供の縄を解こうとしている。

確か先程したたかに兵士から蹴られていたはずだ。

硬い軍靴で力任せに蹴り上げられて無傷であることは考えにくい。

 

「あんた、その子を抱えて走れるか?」

 

私は素早く縄を切り、子供を受けとめると母親に向き直った。

 

・・・。

 

正直、まさか自分の内にこんな感情があることをまったく予想していなかった。

完全に想定外。

 

「あ、あの・・・ダクタスさん?」

 

母親は動揺した表情でこちらを見る。

そうだった、今の私の外見はこの界隈では有名なサターニアなのだ。

 

「事情は後で話す。逃げられるか?」

 

「・・・はい!なんとか!」

 

混乱してもおかしくないこの状況で、判断の早さと決断力も申し分無い。

素晴らしい女性である。

そして何より。

 

「美しい・・・それに、良い香りだ」

 

私は無意識のうちに言葉として発してしまった自分の声で我に返り、密かに赤面した。

ダクタスの変化の魔法は、対象の顔が赤くなった場合に他人からはどう見えるのだろうか。

しかしそれについて深く考える暇は、私には無かった。

物音を聞き付けて路地を駆けてくる軍靴の反響音を耳にした。

5人の兵士が現れ、そして仲間の死体を目撃したようだ。

今までよりも苦労する戦いになるだろう。

戦闘における優劣は、意外と単純に『集中力』で左右される。

さっきまでに片付けた7人の兵士はその全員に『驚愕』や『油断』などの隙があった。

しかし現状を視認し、私を敵であると認識して集中するこの5人は、非常に厄介な相手だ。

もちろん、正面切って戦うのなら、という但し書きが付く。

 

「貴様っ!妖怪の分際で、こんなことが許されると思っているのか!」

 

「思ってないさ。だから、逃げるッ」

 

そう言うや否や、私は兵士たちにくるりと背を向けて建物の間の細い路地へと駆け込んだ。

道幅が狭ければ長剣を使う兵士よりも短剣を扱う私の方が有利だという点も、ある。

対面する兵士が1人になり私の得意な1対1の戦闘に持ち込めるという点も、ある。

しかし私が狙ったのはそのどちらでも無かった。

 

「どうにもこの路地は油のニオイが強くてね」

 

走り抜けざま、私は壁面に力強く発火棒を擦り付けた。

火山付近で採れる岩石を粉状にして油を染み込ませた木の棒の先に塗っておくと、摩擦熱程度の温度で発火するのだ。

私は火のついた棒きれを足元に転がした。

その途端、背後で火柱が上がった。

兵士の叫び声が聞こえる。

 

「自分たちが撒いた種だからな・・・いや、油か」

 

兵士たちがこの付近の路地の方々に油を流していることは嗅ぎ取っていた。

当初ランタンを所持していると思ったが、兵士たちが手にしている灯りが松明しか無かったのが気にはなっていたのだ。

恐らくは本物のダクタスを、文字通り炙り出す為だろう。

仮に燃え広がったとしても、妖怪しか住まないこの地区が灰になったところで人間たちの生活には何の影響も無い。

 

「だが、残念ながらこのあたりは石造りの建物ばかりだ。勉強が足りんな」

 

5人全ての兵士が炎に包まれたことを確認する。

残りは8人。

私は立ち止り、周囲のニオイに集中した。

できれば1人ずつ不意打ちしながら回りたかったが、さすがに火を付けたのは演出が派手過ぎた。

すでに残りの8人がこちらに向かって駆けてきているようだ。

 

「さて、どうするか・・・」

 

手持ちの武器はダガー4本のみ。

あとはロープが1本と、発火棒が2本。

ダガーの投擲は3本までか・・・囲まれたら厳しい状況だ。

仕方ない、も視野に入れなければ。

 

「居たぞ!こっちだぁー!!」

 

路地で燃え盛る炎に照らされた私の姿を発見した兵士が叫び、残りの7人も集結してきた。

私は両手を挙げた。

そしてこれ以上ないほど満面の笑みを浮かべて、言った。

 

「降参だ。許してくれ人間よ」

 

ほんの一瞬、時が止まる。

私が何を言ったのか、その言葉が兵士たちの脳に伝わり意味を理解し、何と言い返すか判断するまでの刹那。

最初に息を吸った奴、次に吸った奴。

恐らく「許すわけない」だとか「馬鹿なことを」だとか、そんなことを怒鳴ろうとしたのだと思う。

しかし、その声が発せられることは無く、先程まで挙げていた私の両手が振り下ろされていることにも気付かず、二人の兵士がドサリと倒れた。

残り6人。

ダガーは2本。

仲間が倒れ、額に短剣の柄らしきものが生えていることに気が付き、雄叫びを上げながら剣を振りかざした兵士が1人。

まずい、こいつがこの隊の隊長か。

今までの雑魚とは反応も動きもまるで違う。

そして指示命令も。

 

「お前ら!何を呆けている!囲め!取り囲むんだ!」

 

隊長の指示により、私を取り囲んだ兵士たち。

完全に囲まれる前に準備ができたのは僥倖だろう。

私はダガーの柄にロープを短く切って巻き付けていた。

 

「さらば人間ども。ははは、道連れだ!」

 

発火棒を石畳の地面に擦り付け点火すると、そのままダガーに結び付けたロープに火を付け、そして兵士の足元に放り投げた。

 

「爆弾だ!伏せろぉぉぉ!!!!」

 

隊長の怒号が響き渡り、兵士たちが地面に伏せる。

一人だけ反応が遅い奴が居た。

恐らく新兵なのだろう、可哀相に。

私は彼の真横をすり抜けるように駆けた。

もちろん最後のダガーで心臓を一突きすることも忘れていない。

柄に小さな炎を灯しただけの単なる短剣がカランと音を立てて地面に落ちたとき、私は包囲を抜けていた。

目指す先は、屋根から弓兵が落ちた路地だ。

彼ら3人が私のダガーを1本ずつ、その額で預かってくれているはずだから。

既に路地の炎は油を燃やし尽くし、兵士たちが持っていた松明も消えている。

暗がりの中、私はダガーの回収を急いだ。

 

「くっ・・・コケにしやがって!クソがあぁぁぁー!!!」

 

背後から物凄い怒鳴り声が聞こえた。

隊長としては部下の前で飛んでもない恥をかかされたことになる。

なにせ「爆弾だ」と叫んでしまったのだ。

部下4人を引き連れて、隊長は私の後を追った。

 

「屋根に配していた弓兵も、やられているようです・・・」

 

部下の一人が隊長に報告する。

その報告内容は正しいが、しかし確認が疎か過ぎた。

松明を持って来て身内の顔ぐらい、確かめておくべきだったな。

弓を持って倒れているのがのさ。

音も無く半身を起こした私はギリギリと弦を引き絞り、松明を持つ兵士のうなじを狙った。

たかが妖怪と侮って軽装備で来たのが災いしたな。

本装備だったなら少なくとも、こうして射られることは無かったのだ。

ヒュッという風切り音。

倒れる兵士に私は全速力で駆け寄り、落とした松明を拾い上げた。

 

「貴様ァァァァ!!!」

 

隊長が吠えるのと同時に、私は手にした松明を力いっぱい放り投げた。

二階建の建物の屋根へと消えた松明。

最後の灯りを失った現場には暗闇が流れ込み、若干の月明かりだけがそれを阻んでいた。

隊長と部下3人。

回収したダガーが3本。

部下は扇形に散開し、前面三方から間合いを詰めてくる。

中央の兵士の真後ろから隊長が檄を飛ばす。

 

「お前ら!一斉に斬りかかれぇぇ!!!」

 

そう来ると、踏んでいた。

これが3人それぞれが各々の意思で向かって来られると非常に厄介だった。

しかし、こと号令で動く兵士ほど簡単な相手は居ない。

同じタイミングで同じ行動に出ることが分かるのだから、その対処も楽になる。

私は同時に振り下ろされる三方向からの斬撃を後方に飛び退いて回避することにした。

そしてその一瞬後、間合いを急激に詰めて中央の兵士を狙う算段だ。

しかし。

私はこの隊長の人格を侮っていたようだ。

中央に居た兵士の胸から切っ先が飛び出し、私に向かって来たのだ。

そう、背後に居た隊長は自分の部下ごと私を串刺しにするつもりで突きを繰り出してきたのである。

 

「ッ!!!」

 

まともに喰らってしまった。

男と抱き合う趣味は無いが、兵士と一緒に串刺しにされる趣味はもっと無い。

腹部に激痛を感じながら、私は両側の兵士にダガーを投擲する。

兵士が崩れ落ちる間に、私は自分の腹に深く刺さった剣から逃れるべく、後退した。

不測の事態が起こったときは機先を制した者が生き残る。

これでようやく隊長と1対1の戦いに持ち込めた。

だがしかし、この腹の傷はずいぶんと深そうだ。

 

「仲間だろ?ひどい奴だな」

 

「黙れ妖怪ィ!!貴様のせいだろうがぁぁ!!!」

 

まだ会話の余地は有りそうだ。

どうにか隙を作り、最後のダガーを投げたい。

激しい痛みで飛びそうになる意識を繋げるためにも、とにかく何か会話を。

 

「とんだ大失態だな隊長。あんたの処分、どうなるかね」

 

「それを気に病むのは貴様を擂り潰してからだ!」

 

会話で隙を作るのは無理なようだ。

もう話すことは無いと言わんばかりに、隊長は突進して来た。

自分で刺し殺した部下から剣を取り、二刀流で打ちかかってくる。

引き換えこちらは短剣1本に、この傷。

最早雌雄は決した。

 

「死ねぇぇぇ-!!!」

 

自分に向かって剣を振り下ろす隊長に、私は構えを解いて言った。

 

「もうダメかと思ったが、とても良い香りがするんだよ、隊長」

 

二本の剣は私に当たる前に失速し、地面に落ちた。

そして隊長が足元に倒れる。

その陰から現れたのは、あのアスラーンの母親だった。

手には剣が握られている。

 

「やぁ、まさか戻ってきてくれるとは。お陰で、助かった・・・」

 

 

私は癒庭ゆばで目を覚ました。

何日寝ていたのか、ここがどこの癒庭なのかも分からなかった。

 

「いっ・・・ててて・・・」

 

腹部の痛みの他に、私は別の感覚を捉えていた。

あの、とても良い香りである。

 

「ダクタスさん!エウスオーファンさんが目を覚まされました!」

 

「ああ、貴女か。無事で良かった。お子さんは?」

 

「ああ、あの子ですか。貴方のお陰でどうにか。本当にありがとうございます」

 

「それでもまだ療養中でしょう?お母さんがついていてあげた方が良い。私は大丈夫だから」

 

「あら、まぁ。私が子持ちに見えますか?」

 

「え?えーっと・・・」

 

バタンッと扉が勢い良く開いた。

そこには立派な巻角を持ったサターニアの男が立っていた。

 

「よう、くたばり損ない。大口叩いて行ったわりにゃ、散々な有り様だな」

 

「いやいや、今の私としちゃ大健闘さ。しかし私の見掛けをアンタにしたのはマズかったよ、ダクタスさん」

 

私は兵士の報復の目を、妖怪よりもむしろ人間である自分が受けた方が良いと言うことを説明した。

人間たちはダクタスを一人の妖怪としてではなく、妖怪という全存在の代表として捉えるだろう。

そうすれば余計な火の粉が無関係の妖怪に飛び火する可能性がある。

 

「そうだったのか。確かにそうだ・・・済まない」

 

神妙な顔で謝罪するダクタスを見て、アスラーンの女性が驚きの声を上げた。

 

「まぁ!あのダクタスさんが素直に謝るだなんて!」

 

とても可笑しそうにコロコロと笑う彼女の顔を見るうち、何か込み上げてくる思いが勝手に言葉になって紡がれた。

 

「まずは町だ。いや、そこまで大きな規模は無理かもしれない。村、集落でも良い。種族差別から逃れて暮らせる場所を作ろう。それが、私の夢への第一歩なのだと思う」

 

言いたい事のひとかけらも言い表せていない稚拙な言葉だったが、しかし本心だった。

恐らくこの国は病気なのだ。

その病に冒された民たちは種族差別を当然のこととして受け入れる。

差別する側も、される側も。

だが現に今こうして、魂を通わせ合える異種族同士が存在している。

こういう輪を広げていきたい。

そしてそれがやがて、国全体に広がれば良いと思う。

 

「なんだ、まだ熱に浮かされてるのか?コイツをどう思う、マーウィン」

 

「立派なお方だと思います」

 

「・・・お前も、お熱かよ」

 

 

数日後、私はダクタスと共に王都を抜け出した。

どこかに私たちの聖域を確保し、そして彼女たちを迎えに来よう。

 

「そう言えばエウスオーファンよ、お前マーウィンに子持ちだって言ったらしいな」

 

「あの状況なら誰でもそう思うだろ?」

 

「ちょっぴり傷付いてたぞ、マーウィン」

 

「そ、そんな!私はただ・・・」

 

「はっはっは!冗談だ冗談!ラニッツはマーウィンの親友の子でな」

 

ラニッツ・・・あの子供か」

 

「そうだ。ラニッツの両親は人間不敬罪で殺されたんだ」

 

「そうだったのか・・・」

 

「だ・か・ら、マーウィンはまだ未婚ってワケだ。良かったな?」

 

「なっ、何のことだ!」

 

私の足は自然と、北に向かっていた。

そしてエイ マヨーカを出て数ヶ月後、とても懐かしい場所に辿り着いた。

運命としか言い様の無い偶然だと思う。

まさか、この場所にもう一度来ることができるなんて。

幼い私が王都の憲兵に追われ、そして優しい精霊に命を救われた場所。

優しい精霊が、命を懸けて私を守ってくれた場所。

その精霊の名は、タミューサ。

 

「ダクタスさん、私は、ここに村を作ろうと思う」

【01】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

ここは、キスビット国の南西部に位置する都市、ラッシュ ア キキ。

f:id:sakatsu_kana:20170902162418j:plain

この街は人口のほぼすべてをアスラーンが占めている。

 

町のお食事処。

食堂の天井付近には大きめのモニタが設置され、ニュース番組が流れている。

誰でも気軽に入れる、というわけでは無い。

ICチップ入りのメンバーズカードを客が入口の認証機器にかざし、登録済みの暗証番号を入力しなければ扉は開かない。

この店が特別というわけではなく、この街ではよくあることだが。

 

『続いてのニュースです。ラッシュ ア キキ最古の美術館である【ハーレイハビサ美術館】に展示されていた美術品【ミーアの翼】が盗まれました』

 

ニュースを読み上げるキャスターは朗々と事件について語っていく。

食堂内には3人の客の姿が見えるが、誰も画面を見てはいない。

かといって会話があるわけでもなく、テレビ放送を除けば厨房から聞こえる調理中の音が少し聞こえてくるくらいだ。

 

『この件に関して警察当局は詳細を明かしておらず、我々取材陣からの質問にも無回答を貫いております。【ミーアの翼】は我々ラッシュ ア キキ市民にとって心の拠り所と言っても過言では無い存在です。一日も早く、無事に奪還されることを期待する声が高まっています。続いては明日の天気です・・・』

 

店員が厨房からメニューを持ってきた。

無言で、一人の客の机にトレイを置く。

しかしそのトレイに乗っているものは、とても食べ物には見えない代物だった。

 

「心の拠り所、か。好き放題に言ってくれるぜ・・・」

 

自分の目の前に置かれたそれをしげしげと眺めながら、その客は厭味たっぷりの声を漏らした。

 

「そんな風に言えるのは、お前さんだけさ」

 

笑い声混じりに、店員が客に言った。

肩をすくめ首をかしげながら、軽薄そうな物言いだ。

 

「そりゃそうだな。ほら、約束の金だ」

 

「まいどありっ」

 

客は足元のカバンを机の上にドサッと置いた。

店員は無造作にそのカバンを開けると、中身を確認する。

 

「はいはい確かに5,000万セオン、頂戴いたしましたっと」

 

この国、キスビットにおける一世帯の平均年収が500~600万セオンであることから考えれば、かなりの大金と言える。

客は金を渡し、品物を受け取ると、そのまま店を出て行った。

 

「良いのか、今回の仕事は結構骨が折れたぜ?・・・たった5,000万ぽっちじゃ割に合わないんじゃないのか?」

 

客の一人が店員に声を掛けた。

なんとその客は、手に拳銃を持っている。

いつ取り出したのか分からないが、とにかく先程までは拳銃など持っていなかったように見えた。

しかしそれを意にも介さず、店員は返答をする。

 

「まぁそう言うなってジャミコ。あいつぁ俺の同級生でね、お友達価格ってやつさ」

 

ジャミコと呼ばれた男は拳銃をカチャカチャといじりながら「ふん」と気の無い声を返した。

 

名 前【銃愛好家ガンフリークのジャミコ】

種 族【サターニア】

性 別【アニキ】

一人称【俺】

性 格【ハードボイルドになりきれない】

呪 詛【『強化』を弾丸に変えて拳銃で放つ、活性弾の射手エンハンスシューター。拳銃本体も、その弾丸も、呪詛の能力によって発現しているため、出し入れが自由。またサイズやデザインも射撃シーンによって様々である。近距離では拳銃、遠距離ならライフルといった具合だ。弾丸になる『強化』の素は自分自身の元気や活力といった生命力であり、あまり撃ち過ぎると体調が悪くなったりする。限界を超えて活性弾を撃ち続けると死んでしまう】

 

「しかしチャイよ、その同級生とやら、本当に信用できるのか?」

 

もう一人の客、腰に剣を携えた男が店員に話し掛ける。

どうやらこの店員はチャイという名らしい。

 

名 前【怪盗チャイ】

種 族【精霊】

性 別【お兄サン】

一人称【俺】

性 格【軽薄そうに見えて底が知れない】

加 護【窃盗の神『Hermēsヘルメェス』を信仰しており、万能と言って差し支えない能力を持つ。しかし『何かを盗む』という目的でしか発動せず、また日常的に何かを盗み続けていないと不信仰と見做されて加護の効果が薄れてしまう。5日も盗まずにいれば加護は消え去り、ただの一般人になってしまう。ただしその状態でも泥棒稼業を果たせば、また加護の力は戻ってくる。盗んだものの難易度や価値によって加護の力も増減する。駄菓子屋で万引きなどを繰り返せば、セコイ能力しか発動できなくなるというわけだ。一度ターゲットに設定した対象を盗めずに終わった場合、その対象を盗むために使った能力の分だけ昏睡状態となる】

 

先ほどの客が置いて行ったカバンの現金を片刃の剣でつつく男に、チャイは軽薄な口調で返す。

 

「おいマシュカー。このチャイ様の同級生を疑おうってのか?」

 

そう言いながら、チャイは目の前の二人に手で合図を送る。

剣を持つ男はマシュカーと呼ばれた。

 

名 前【縁斬えんきりのマシュカー】

種 族【アスラーン】

性 別【おとこ

一人称【場合によって変わる】

性 格【臆病で猜疑心が強いが仲間への信は厚い】

呪 詛【物と物との関係を断ち切る、因果を斬る者カルマキャンセラー。この世に存在する全ての因果関係を斬ることができる剣を持つ。ただし、断ち切る因果と同等の『何かとの関係』を自分が負わなければならない。例えば重病患者から病巣を切り取ることができ、患者を完治させることはできるが、その病気と同程度の重病を自分が患うことになる。敵と重力との関係を断ち切れば、相手は地面に立てなくなるが、同時に自分にかかる重力が倍になる。ただし『同等の』という基準は対象にとっての重要度ではなく能力者(マシュカー)本人のものである。例えば対象と恋人との縁を斬った場合、その恋人がマシュカーにとってどうでも良い人物であれば、どうでも良い誰かとの縁を負うことになるだけだ】

 

ジャミコとマシュカーは、チャイの仕草を読み取りカバンを覗き込んだ。

 

「そうだぞマシュカー。チャイの親友を疑っちゃ悪いぜ」

 

そう言いながらも、ジャミコは拳銃を握り直し出入口を睨んだ。

マシュカーも同様に、剣を握る手に力を込めた。

カバンの中には現金と一緒に、盗聴器が入っていた。

どうやらチャイの同級生とやらは警察の協力者だったようだ。

 

「さて、さっさとこの金持ってずらかろう」

 

チャイはそう言いながら、指で店の天井を示す。

決して明るいとは言えない粗末な照明器具が設置されているだけの、単なる天井だ。

が、チャイがポケットの中のスイッチを押すと天井に円形の切れ目が現れ、そして二階の床が円柱状に床まで降りてきた。

三人はこの装置でこっそりと二階に上がり、そして屋根伝いに逃走した。

周囲を取り囲んでいた警官隊は動揺している。

 

「ケサーナ警部、逃げられました・・・申し訳ありません」

 

「くそっ・・・チャイのやつめ、今に見ていろ!」

【00】怪盗チャイ ~哀しみの行方~【新生キスビット】

無機質な機械類に囲まれた部屋。

壁面がほぼ見えないほど、何かの装置や図面などが所狭しと置かれている。

天井が全体的に発光しているため暗いということは無いが、このような発光体を他で見かけることはない。

一体どのようなテクノロジーが使用されているのか不明である。

ここは地下数百メートルに位置する研究室で、公的なものではなく、私的で個人的な施設だ。

 

キスビット国の南西部に位置する都市、ラッシュ ア キキ。

世界的に見ても、科学技術において後進国であるキスビットの中では最も科学、化学、工業などの技術が進んでいる都市だ。

f:id:sakatsu_kana:20170902162418j:plain

ここは人口のほぼすべてをアスラーンが占めている。

種族的に『警戒心が強い』『夜行性』という特徴があるアスラーン。

もちろん他種族との交流が多い今の時代、その種族的特徴を前面に押し出せば関係性が悪くなり、双方にとって良くない状況となってしまう。

例えばアスラーンが経営する商店は、入店時に合言葉を言わねばならない場合がある。

暗証番号が必要なケースも多い。

しかしそれでは客は入りづらく、商売としては成り立たない。

また夜行性であるため、就ける職業の選択肢が少なかったりもする。

大概のアスラーンは『我慢しながら共存する』道を選んでいるのが現状だ。

しかしそれでは種族としての特徴を押し殺しながら生きることになってしまう。

そこで、アスラーン同士が集まって町を形成することで、種族的な特徴を抑えなくとも周囲が理解してくれる環境を作ろうというコンセプトで発展してきたのが、このラッシュ ア キキという都市なのだ。

もちろん他の種族も暮らしてはいるが、彼らはアスラーンのことを理解し、そしてここのルールに従って暮らしている。

 

だが、どんなコミュニティ、どんな社会の中にも『はみ出し者』というのは存在する。

この地下研究所の所有者も、その例に漏れない異端者であった。

いや、そうされてしまった、と言うべきか。

 

「キィキキキキキキ・・・ついに完成だ・・・」

 

彼の名はバミ。

いつから着替えていないのか分からないが、かなり薄汚れた白衣に身を包んでいる。

バミはラッシュ ア キキで有名な工学博士だ。

業界を『新型アルファの開発および製造』に絞れば、世界的にも名の知れた天才だった。

あの技術後進国のキスビットでなぜ彼の様な天才が、と言われ続け、他国からの引き抜きもあったようだ。

また、バミの名は知らなくとも、彼が開発した製品については既知というケースも少なくない。

外見だけでは人間と見分けがつかない『realリアル』シリーズも、実は彼が生みの親だ。

もちろん、会話やスキンシップによってアルファであることは判明してしまうが。

『real』はカルマポリスのギャングから受注した仕事が開発の発端だった。

元々貞操観念の強いカルマポリスの妖怪相手にも、どうにか性風俗産業を広げられないかという悪魔のような発想から、アルファに見えないアルファという需要を創出した。

人間や妖怪ではなく、相手がアルファであるという事実はそれだけで性風俗遊興への敷居を低くした。

簡単に言えば、相手が機械であるという事実により、罪悪感や背徳感を軽減したということだ。

ただし、その発想だけで世界的に広まるほど、風俗業界は生易しい世界では無い。

『real』の性能があってこそ、認められたのだ。

かの嫌アルファで有名なルウリィド国においても、色街に導入済みという実績がそれを証明している。

当初、動作確認はルウリィド国の色街の猛者たちが実地式で試験を行った。

経験豊富な精霊達が口をそろえ「生身と何ら変わらない名器揃い!」と太鼓判を押したボディの肉感や、行為に対する人間的な反応と態度。

また『壊しても直せる』という部分も一部のマニアには受けたようだ。

もちろん、修理費は莫大なのだが。

さらに大国ドレスタニアでも、ガーナ元国王が認知し、産業として成り立っている。

もちろんガーナ元国王が事の詳細を把握した上で認可を下した訳では無く、多忙を極める激務の中にそっと承認案件を紛れ込ませた、カルマポリスのギャングの手腕が大きい。

元国王は元メイド長の外交官からその迂闊さを随分と叱責されたようだが、風俗業界の整備は性犯罪率の低下に繋がるという論法でどうにかなだめたらしい。

こんな紆余曲折を経て現在、アルファ風俗の現場で主力とされている『sexaroidセクサロイドA~GtypeAからGタイプ』は『real』シリーズの後継機である。

・Atype・・・『少女型』

・Btype・・・『女性型』

・Ctype・・・『熟女型』

・Dtype・・・『少年型』

・Etype・・・『青年型』

・Ftype・・・『壮年型』

・Gtype・・・『人外型』※各部位の換装で16種可変式

ただ、バミのアルファが活躍する場は風俗産業のような、いわゆるアングラな業界だけではない。

酷所環境作業用として、標高の高い山地や深海、火災の現場などで最大限の効果を発揮するタイプのアルファも次々と開発していた。

国家レベルでその技術が評価されていたこともある。

最も有名な例では、農業特化型アルファ『Code:0831』を、コードティラル神聖王国との親善のため派遣した実績もあるほどだ。

しかしその偉業の全ては、過去のものである。

10年前、開発中のマシンの暴走により、バミ博士は命を落とした。

 

と、報じられた。

 

「この私を陥れた代償は高くつくぞ・・・キィキキキ・・・」

 

耳障りな笑い声を発しつつ、バミは装置に配されているパネルを操作する。

いくつかの機械音が鳴り、部屋の中央に設置されていたドーム状の設備が発光し始めた。

 

「起きろ、起きるんだ、ザッカス!」

 

バミの声に反応するようにドーム状の蓋が持ち上がり、そしてその中から人型のアルファが姿を現した。

 

「お呼びでございますか、バミ様」

 

 ザッカスと呼ばれたそのアルファは、うやうやしく頭を下げ床に片膝をついた。

筋肉質な男性のような体躯をしているが、その顔は非常に中性的であり、首から上だけ見れば女性と言われても納得してしまう。

身体的特徴は人間のそれであり、外見だけではアルファだとは分からない。

 

「キィキキ・・・私の頭脳にお前の能力が加われば、奴らへの報復など容易いことだ。ただでは殺さん・・・その為の機能を、お前にはいくつも搭載しているのだ、ザッカス」

 

「御意。あの、バミ様・・・衣服を着用しても、よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?まさか『恥ずかしい』などとは言わんよなぁ?」

 

「・・・いえ、すぐに動くのであれば必要かと思いまして」

 

「キィキキキキ・・・そうかそうか。殊勝なことだ。お前専用に特殊な服を用意しておいた」

 

「ありがとうございます」

 

バミは満足気に頷くと、ザッカス用に開発しておいたアルファ用のボディスーツを取り出した。

タミューサ村のハロウィン【公式】

「という訳で、私はしばしグランピレパに行かねばならん。観光客の増えるこの時期、村に居られないのは後ろ髪惹かれる思いだが・・・」

 

ここはエウスオーファンの家、つまり村長邸である。

キスビット国のほぼ中央に位置するこのタミューサ村で、村長のエウスオーファンは村民たちから絶大なる信を置かれている。

例に漏れず彼もまた、エウス村長に畏敬の念を抱いていた。

 

「このラニッツめにお任せください! 村長の留守中は、私が村を守ります!」

 

直立不動の姿勢を崩さぬまま、ラニッツは深々と頭を下げた。

今、時はまさにハロウィーンの時期を迎え、タミューサ村では村人総出でイベントを催している。

『自然が豊かな』という耳ざわりだけが良く中身の無いフレーズでは大した観光客は呼べないが『地域に古くから伝わる伝統的な祭』という謳い文句は都会人にウケるらしい。

今年は例年に無く多くの観光客が村を訪れ、経済効果も大きいのだ。

もちろんそれは自動的に、というわけではなく、国内のみならず外国にまで及ぶ宣伝活動のお陰である。

エウス村長の指揮のもと執り行われた企画、運営が功を奏したということだ。

だがイベント自体はまだ始まったばかり。

これから観光客も増え、本番を迎えるという時期に、責任者が不在となるのは痛手でしかない。

 

「すまんな。正直なところ、こういうことを任せられるのは生真面目な君しか居ないんだ。ダクタスさんはもうご年配だし無理をさせるわけにはいかん。アウレイスは気が弱くいざという時に物が言えん。オジュサは子供っぽいところがあるし、エコニィは人をまとめるのが苦手だ。エスヒナは・・・まぁ、あの通りだ。マーウィンはエオアとアワキアの世話でそれどころではないしな」

 

エウス村長としては消去法での人選だったのだが、ラニッツには関係ない。

村長に指名してもらい、頼られ、留守を預かったという事実だけで有頂天だった。

 

 

「えー、皆さんに集まって頂いたのは他でもありません。私はエウス村長不在の間、村のハロウィーンイベントの取り仕切りを任せて頂きました」

 

翌朝、ラニッツは早速行動に移っていた。

村長邸に呼び出されたのは五名。

やれやれといった感じのダクタス。

瞳を輝かせた期待顔のオジュサ。

あからさまに寝不足のアウレイス。

パジャマ姿のエスヒナ。

武装完了しているエコニィ。

 

「私、都会のハロウィーンについて調べてみたのですが、この村でやっているものと全く違うのです!驚くほどに!」

 

実際のところ、タミューサ村の歴史は浅い。

伝統的な行事など本来は有るはずもないのだ。

土地柄、キスビット人の住むエリアと近いこともあり、彼らがこの時期に行う『五穀豊穣を大地に感謝する祭』を、それとなく真似ているだけであった。

収穫が最盛期になる頃の満月から次の満月までの間、木々にランタンを吊るし、広場で盛大に焚火を行い、皆で食事を愉しむ。

ただそれだけのものだった。

最近では少しずつ都会方式のハロウィーン流入し、子供たちがお菓子を貰うために仮装して家々を巡るという部分は認識されているが。

 

「そこで、せっかく来て頂いた観光客の皆さんに、思っていたのと違うというマイナス印象を与えないためにも、都会のハロウィーン要素を盛り込む必要があると考えました」

 

ラニッツの説明に熱がこもる。

確かに彼の言う通り、そういう可能性もありそうだ。

 

「まず祭の期間中はこの地に不慣れなお客様が大勢いらっしゃいますので、気軽に声をかけられる案内人を用意します。その案内人は、イベントの雰囲気作りと、一目で案内人であることが分かるため、ハロウィーンにちなんだ仮装をして頂きます」

 

ラニッツは得意満面の顔でそう言い、目の前の五人にそれぞれ視線を送る。

 

「オジュサさんは『ジャック・オー・ランタン』に、ダクタスさんは『吸血鬼』に、エコニィさんは『化け猫』に、エスヒナさんは『魔女』に、アウレイスさんは『ゾンビ』に、それぞれ衣装はこちらで用意しました」

 

一番に食いついたのはオジュサだった。

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら質問をする。

 

「ねぇねぇジャック・オー・ランタンって何!? すっごいカッコイイ名前だね!」

 

ダクタスは良くも悪くもないような、至って無表情である。

 

「わしは何でも構わんよ。その格好をしとりゃええだけじゃろ」

 

エコニィとエスヒナは不服を絵に描いたような顔をしている。

 

「私は仮装なんて嫌なんだけど。剣士じゃだめなの?」

 

「あたしは包帯ぐるぐる巻きが良いよー!魔女はアウリィに譲るからさ!」

 

そんな中、おずおずと手を挙げながらアウレイスが小さな声で言った。

 

「あ、あの・・・ご・・・ごめんなさい。私、その・・・明日から、旅行に・・・」

 

その場に居る全員が、あぁカルマポリスに行くのか、と思ったが、誰も口にはしなかった。

恐らくは帰国するに付添い、何泊かして帰ってくるのだろう。

 

「分かりました。ではアウレイス以外の皆さん、とりあえず着替えてみてください」

 

申し訳なさそうに自宅へ帰るアウレイスを見送ると、ラニッツは皆に試着を促した。

それでもゴネるエスヒナには、好きにしなさいと折れたラニッツ。

しかしエコニィに対しては退かなかった。

 

「私はエウス村長からこの任を預かったのです。私の指示は村長の指示と思ってください。イベントを成功させて、村長が帰って来られたときに喜んで貰いましょうよ!」

 

エコニィとてエウス村長のことは尊敬しているし、恩義も感じている。

その名を出されれば、しぶしぶでも従うしか無かった。

 

「マーウィンさんの仕立てですから間違いないとは思いますが、念のための試着です。何か不具合があれば申し出てくださいね」

 

各々はそれぞれ着替え用に空けられた部屋で、それぞれのコスチュームに着替えた。

 

ダクタスは、裏地の赤い黒マントを羽織った吸血鬼。

エスヒナは、どうして包帯を所持していたのか、自分で適当に巻いたミイラ。

オジュサは、大きなカボチャと暗めの生地を被ったジャック・オー・ランタン。

エコニィは、猫耳と尻尾を付けた化け猫。

 

「皆さん素晴らしい!これでイベントは大成功間違い無しですよ!」

 

ラニッツは破顔して喜んだ。

これなら都会の観光客にもウケるに違いない。

 

しかし。

 

「ねぇ、これ・・・ボクがやる意味あるの・・・?ねぇ、誰でも良いんじゃないの・・・?」

 

オジュサが絶望に打ちひしがれた声で言う。

確かに彼の言う通り、被りモノが主体であるこの仮装は、中に人が入っている必要性すら危うい代物だ。

特にオジュサは自己顕示欲が強い傾向にある。

正体不明の仮装などモチベーションを維持できるはずが無かった。

 

「イヒヒヒッ。がおー!たーべちゃーうぞぉー! ありゃりゃ?」

 

ミイラの何たるかをまるで理解していないであろうエスヒナが両手を挙げてはしゃぐ。

すると適当に巻いただけの包帯がするすると解けてしまった。

この格好のまま動き回られると、とんでもなく破廉恥なことになる気がしてならない。

本人よりも周囲がハラハラしてイベントどころでは無さそうである。

 

「わしはどうかの?思ったよりも窮屈な格好で・・・イタタタタ」

 

ダクタスは持病の腰痛に手を当て、曲がった腰で立っている。

さらに吸血鬼のシンボルともいえる鋭いキバが自前の巻角に完全に負けてしまっている。

これでは単にマントを羽織っただけの老人にしか見えない。

 

「ねぇ・・・こういうのって普通は黒猫なんじゃないの?しかも・・・露出・・・」

 

鍛えられた肢体にフワフワのファーをあしらった化け猫に扮したエコニィは、不満と言うよりも諦めムードである。

元々は都会出身のエコニィ、ハロウィーンの仮装についても人並みの知識は持っている。

しかし今自分が着せられているような衣装は見たことが無い。

見るのも、着るのも初めてだ。

 

「さぁ皆さん!観光のお客様をしっかりオモテナシしてあげてくださいね!」

 

f:id:sakatsu_kana:20171004130411j:plain

 

 

■タミューサ村のハロウィンイベント

 

【概要】

基本的には夜間、周囲の木々に村人がそれぞれ手作りした様々な色や形のランタンが吊り下げられ、幻想的な灯りが夜を照らす。

決して派手では無いが情緒と風情がこれでもかと溢れている。

イベント期間中は毎晩、村の中心部にある広場で大きな焚火が行われ、夜明けまでその火が消えることは無い。

人々はその火の周囲で歌い、踊り、料理を愉しみ、酒を飲む。

いくつかの屋台も出ており、観光客にとっては破格に安い値段でキスビット料理が楽しめる。

また特別出店として、首都エイ マヨーカでレストランを営む女シェフが提供するタコヤキ屋もある。

何か分からないことがあれば、ヘンテコな仮装をしている村人に尋ねてみよう。

 

【注意点】

キスビットは大地を信仰するお国柄であり、特にキスビット人でなくとも、国民はそれぞれ『国土』というものに少なからず愛着を持っている。

そのため、唾を吐いたりゴミのポイ捨てなどはご法度である。

 

キスビットには人型有翼のミーアと呼ばれる鳥人が存在する。

幼児並みの簡単な会話は可能だが、彼女ら(鳥人には基本、メスしか存在しない)は夜目が利かないため夜に遭遇すると、視界が無い状況で錯乱している可能性がある。

迂闊に近付くと鋭い鉤爪で身を裂かれる危険があるので、見掛けたらすぐに村人に報告しよう。

 

村から出なければ危険は無いが、逆に村の境界を超えるとそこは危険な原生の猛獣の生息エリアかも知れない。

特に、獰猛な性格と攻撃力の高い牙、爪を持つダガライガに遭遇してしまったら命の保証はできない。

大人しく村の中で過ごすことだ。

 

【祭の特徴】

五穀豊穣を大地に感謝し、日々の飲食を当たり前と思わず、その有り難さを知る、という趣旨があるため、イベントの期間中に飲食するものにはきちんと感謝しよう。

もし、その感謝の気持ちが本物なら、とても良いことが起こるかもしれない。

毎年数人は『去年亡くなった母の手料理と同じ味を味わえた』『本当は食べたいけど体質的に食べられないものが、この日だけ食べられた』など、飲食物に関する素敵な奇跡が報告されている。

さぁ、あなたにも奇跡は舞い降りるかな。